毎度ありがとうございます。

 

さてさて。

 

このブログでは

あまり多用していませんが

「芸」という言葉があります。

 

なぜ

あまり多用しないのか?

といいますと

説明がめんどくさいんですよね。

 

アタマではわかっていても

言葉で説明するのには骨が折れる。

かつて主宰をしていた

劇団のスタッフが

「あるものを違うものに見せることを『芸』という」

と、シンプルイズベストな回答をしてくれましたが

その人も

そう説明する時に

まるでカニの足に見えるような東京タワーの写真を見せながらでした。

ですから僕が

「あるものを違うものに見せることを『芸』という」

と、言葉だけで説明しても

大半の人がキョトンとしてしまうのは

当然のことです。

 

ですが

ここ数年で

「この例を挙げればわかりやすいんじゃないか?」

というものが見つかりましたので

試行的に

ブログ上で説明してみたいと

思います。

 

まず

一枚の古写真を見てください。

はい。

芝居好きの方なら

すぐにわかるでしょうが

幕末から明治にかけての名優

四代目中村芝翫(なかむら・しかん)です。

これは

畢生の当たり役、熊谷直実です。

当時の写真は

「ハイチーズ」

では撮れませんので

楽屋かどこかで

長時間かけて撮ったのでしょう。

 

で、この芝翫の熊谷を

描いた錦絵があります。

それがコチラ


はいはい。

右上の人物です。

この錦絵の作者は

こちらも幕末から明治に活躍した

豊原国周。

 

どうです?

同じ人、同じ役で

写真と絵のこの違い。

 

写真の芝翫も

十分に立派ですけど

錦絵のほうも

かなり美しいですよね?

 

さらにさらに

国周には面白い言葉が残っていまして

「芝翫だけはどんなに骨を折っても実物のほうが綺麗だ」

と言っているんですよね。

 

楽屋(?)で撮ったあの芝翫が

舞台で演技をすると

この錦絵よりも美しくなってしまう……

そして江戸、東京の民衆は

この錦絵を

「おお!芝翫だ芝翫だ!」

と言って買ったワケでしょ?

 

写真と錦絵……

 

この落差こそが

いわゆる「芸」なんだと

思うんですよ。

 

この落差は

ふだん芝居を見ない人のほうが

鮮烈にわかるでしょう。

ある程度芝居を見てしまうと

あの写真の凄さも

ある程度理解できてしまう。

(ビシッと決まった体の芯、軍扇と袴を持つ手の形の良さ、ちょっとハスに構えた芝居心など)

 

老名優の芝居を見ていると

ときどき

顔から身体から

光を放っているように

見えることがあります。

シワだらけの顔が

光り輝いて見えるのです。

ホント、奇跡のような

光が放たれるのです。

 

四代目芝翫という人は

その奇跡を常に起こせたんでしょうね。

同時代に活躍した

五代目坂東彦三郎なんかは

もしかしたら

もっとすごい落差があるかもしれない。

(時間のある方は調べてみてね)

 

あの写真が

この錦絵に

客席からは見える。

 

そうさせるためには

素人では想像もつかないような

苦心や工夫があるのでしょう。

 

この「苦心や苦労」こそが

すなわち「芸」であると説明したら

わかってもらえるでしょうか?

 

そして

この「芸」というものは

何も歌舞伎だけではなく

どんな世界のどんな仕事にも

存在するのだと思います。

それは「写真」と「錦絵」を

他の言葉に当てはめてみればいいだけ。

そして

その両者の間に存在する

苦心や工夫が

すなわち「芸」であると。

 

これなら

誰にでもわかると思うんですけど

どうですかね?

 

以上

「芸」というものを

具体的に説明したらどうなるのか?

の実験でした。

 

 

 

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