大学生の頃、女の子とうまくいかずに映画のサークルを抜け出した僕は、しばらくアルバイトをしながら学生らしくない適当な日々を送っていたんだけど、ある時クラスの友人であるT君に誘われて音楽のサークルに顔を出すようになった。

当然のことだけど、音楽のサークルの人たちはみんな音楽が好きだった。彼らは、僕の知らない音楽をたくさん知っていた。自分の知らない音楽について教えてもらえるのは今考えれば嬉しいことなんだけど、当時の僕にはそんなふうに捉える余裕はなかった。つまり、みんながいいと言ってる音楽を理解できなかったらどうしよう、僕なんかが音楽の話をして「そんなことも知らないのか」とか言われたらどうしよう、自分の好きな音楽がみんなと違っていたらどうしよう、とそんなことばかり考えていた。

僕は不安だったのだ。都会の大学に入って、おしゃれな友人たちに馴染めるかどうか。おかしな発言をして、みんなの輪からはじき出されるんじゃないか。

僕はだんだんと、音楽の話をすることに臆病になった。自分の好きなバンドの音楽を、誰かと仲良くなるための道具として使うことが嫌だったのかもしれない。僕はそのサークルからも、少しずつフェードアウトしていった。

相変わらず授業とアルバイトを繰り返す単調な日々を送っていたある日、僕はインターネットのある記事を読んだ。(音楽ナタリーかNHKの対談か忘れてしまったけど、とにかく何かで読んだ。)その記事の中でピースの又吉直樹さんが、ハンバートハンバートというデュオについて話していた。又吉さんは「好きになった女の子にハンバートハンバートのCDをあげていた」というようなことを話していた。僕がその記事を読んで思ったのは、つまり「ふん、なんじゃそりゃ」ということだった。

その時の僕は、音楽についてペラペラとしゃべる人のことを信用していなかったし、自分のCDをを女の子に渡すなんて、「邪道だ!」と思っていた。自分の好きな音楽を伝えることによって好きな子の気を引こうとするなんて、当時の僕にはおよそ考えられない行為だったのだ。

 

半年後、僕は池袋のタワーレコードでハンバートハンバートのCDを買って、次の日女の子に渡していた。

その半年間の間で、音楽やプレゼントに対する僕の考え方が全面的に変わったのかというと、そういうわけでもなかった。安心して音楽の話をできるような友人はまだ周りはにいなかったし、自分の好きなCDを女の子に渡すという行為についても、邪道ではあると少しだけ思っていた。(自分でしておきながら)

だけど、ハンバートハンバートのリスナーになって、又吉さんの言っていたことが少しだけわかったような気がした。つまり、僕がこういうことをするのは、自分の好きな音楽を知ってもらおうとか、少しでも気を引こうとかそういうことが重要なのではなくて、自分と同じように悩みを抱えながら暮らしているかわいい女の子に、ハンバートハンバートのCDを聞きながら、少しでも穏やかな生活を送ってほしいという純粋でささやかな願いなのだ。

 

そんなことがあってから、僕は少しずつ音楽の話をするようになり、みんなの好きな音楽を少しずつ聞くようになった。そうすると、サークルの友達と音楽の話をするのが楽しくなってきたのだ。

好きな音楽についてしゃべることについて、又吉さんの記事を読んで僕が感じたことというのは、つまり、「思ったことをしゃべればいい」というだけのことだった。こんな当たり前のことに、臆病な僕はなかなか気づくことができなかった。

 

このブログでは、好きな音楽や身の回りの雑事について、好きな時に好きなように書いていきたいと思っている。文章の練習にもなるしね。気分次第で連続で更新したり、数ヶ月間放ったらかしになったりするだろうけど、適当な感じでやっていきたいと思っています。

 

 

 

 

 

 

 

 

嫌いなときはノーと

好きなら好きと 言えたら

 

 

ハンバートハンバート / ぼくのお日さま