　10時の気温は4度。今日はずいぶん暖かい。

　午前中は村山槐多を読む。何とも不思議な雰囲気のある作家だ。「魔童子伝」などぶっ飛んでいる。主人公が飛行機乗りだからというわけではないが。

　昼食後は竹西寛子『松尾芭蕉集・与謝野蕪村集』を読む。２月の文学講座は芭蕉などの俳句の評釈の読みくらべをする予定である。『芭蕉全句集』なるタイトルの書籍もあるが、全句の中から句を選別する時間がないので、竹西寛子さんの本をベースになる基本図書と定め、そこから選んだ句と解説を他の著者の同句と解説を読み比べようというのだ。

　面白い句が紹介されていた。初めて知る句だ。

　於（ああ）春々（はるはる）大哉（おおいなるかな）云々（うんぬん）

　ああ、春だ春だ、世は大いなる春だ、書物に書かれている通りの、というような意味らしい。云々とは書物で云々されているようにということ。解釈も何もいらない。何しろ世はどこもかしこも春、春、春なのだ。

　芭蕉の句に触発されて歩きたくなった。蕪地区まで車で行き歩くことにした。蕪地区はわが家からたぶん200メートルほど標高がひくいだろうから、大いなる春はまだだろうが、ちっぽけな春なら見つかりそうだ。

　牧場があり、眺望がよい、開放感のある場所で、富士山は雲に埋まっていたが、八ヶ岳はよく見えた。南アルプスも間近に臨めるのだが、薄青紫色の雪雲が霧のように甲斐駒ヶ岳などをおおっていた。雲を透過し乱反射する光が美しい。牧場のサイロも絵になる。

　路傍にはホトケノザやオオイヌノフグリが小さい花をつけ、風に揺れていた。風は頬に冷たいが、寒くはない。別荘の庭木に白い斑紋が目立つ小鳥がとまった。ジョウビタキだ。われわれを案内するように、われわれが進むと飛び立って先の木の枝にとまる。どんどん先に行くというのではなく、われわれを待ち、われわれの動きを見て案内する親切な春の案内人だ。

　蕪地区には昔少年開拓団が入植したらしい。戦争孤児だったのだろうか。地区に蕪（かぶら）という名称を与えたのは開拓団の指導者で、少年たちが蔓延る夏草を刈るのに苦労しているのを見て草（草冠）が無くなりますようにという願いを込めて蕪にしたという。人から聞いた話で真偽のほどはわからないが、少し出来すぎた話だと思えないこともない。

　夕食はそばの実のリゾット。食事がすっかり健康志向になってしまった。

　夕食後ロシア映画『私の小さなお葬式』を観る。老人とアル中しかいない田舎の町が舞台。元小学校教師の老婆が、火葬はいやだ、土葬にしてもらいたいと自分の葬式を計画するのだが、老俳優たちがいい味を出していた。カニカマのサラダを食べるシーンがあったが、ほんとうにカニカマは世界中で食べられているんだなと納得。秀作であった。

春の案内人ジョウビタキ（Jan. 26, 2022）