前を通った船がさっきとは逆からまた前を通った。手を繋ぎ歩いてく男女は見なくなった。数メートル先のベンチでタバコを吸っていた女性は居なくなっていた。ランニングウェアを着て走っている人は両手では足りないくらい前を走り抜けた。どれくらいそこに居たんだろう。かえっていく笑顔、遠くなる笑い声、流れていくタイムライン。時間はわたしを置いて未来にあった。
これが大きくなっていくこと、これがあなたの幸せ。あなたが居ればわたしは強かった、笑顔だった、生き延びられた。あの時わたしは同じ空間にいられたのかな、同じ景色を見られたのかな、いや、わたしはあなたしか見えてなかった。あなただけを見ていたらあなたと同じ景色は見られなかった。あの時、今わたしの目に写っている世界は平面なんじゃないかと思ってしまった、どう頑張ってもあなたの笑顔は見れなかった。空に向かって手を伸ばした時と同じだったらって思うと怖くて手を伸ばせなかった、わたしは弱いから、心の距離が身体の距離に負けてしまうことがある、歌っているあなたの笑顔が見れる幸せを知ってしまったから、手を伸ばしたら届く距離にいる幸せを知ってしまったから。わたしはなんて欲張りで嘘つきだったんだろう。あなたの笑顔がわたしの幸せだって言いながら、それはわたしがあなたの笑顔を見れたときにだけ成立することだったのかもしれない。

あなたが大きくなっていくのと同じようにわたしの笑顔の理由も幸せも大きくならなきゃいけない。いつまでも変わらないのはわたしで変わり続けてるのはあなたであの日と変わらないのはあなたで変わってしまったのはわたしだ。


「素敵なことだよね」て笑ってたことが今はこんなに苦しい。変われていないのに変わってしまったわたしがいる、遠くなったのは絶対にあなたじゃない、わたしだ。きっとそれはわたしが一人だからだ、一人で生み出せる感情にはきっと限界がある、一人で見れる世界は、一人で見れる笑顔は、一人で作れる笑顔は限界があるんだ。あなたがいるはずなのにどうしてわたしは一人なんだろう、自分から一人になっていくんだろう。


全部全部、わたしが弱いからだ。

弱いことを言い訳にするくらい弱いからだ。


空に向かって手を伸ばせる強さを、あなたと同じ景色を見る余裕を、「出会わせてくれてありがとう」と笑える自信を、誰かのそばにいる勇気を

わたしは必ず


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顔を上げると船がまたわたしの前を通った。

わたしは立ち上がり歩き出した。


それからも沢山泣いた、久しぶりに泣いた。大丈夫、涙はまだ枯れてなかったから種から芽が出て葉が増えて茎が太くなって、ちゃんとあなたに届く花を咲かせられる。







あの日あなたがわたしの手を握ってくれたように、笑顔をくれたように、すくい上げてくれたように、押し上げてくれたように、こんどは、こんどこそ、わたしがわたしたちがあなたが落ち込んでしまう時はすくいあげ、押し上げるから。一緒に高くまで飛ぼうね。それでお互いの笑顔でもっと笑顔になって、さいこうの景色を一緒に観ようね。わたしはつよくなる。


あの日の笑顔も

今日の涙も

明日の痛みも

流れていくタイムラインも

この言葉も

空の青さも

わたしの目も

耳も

口も

腕も足も

記憶も

想像も

後悔も

期待も

両手に握りしめた紙も


全部この世界でわたしとあなたを繋ぐためのものだ