高スペック幼女
その光景は見た者に信じられないと必然的に思わせるほど異様なものだった。
一人の幼女が、竜と会話をしていたのだ。
『ほら、ごめんなさいは?』
『グギュ、ギャァァアア』
『よく言えました、次呼んだとき今みたいに遅かったら許さないからね?』
『ギャァ』
自然と成立する会話に夜継は疑問を抱く。
『一体どーなってんだ!? 何で普通にお前竜と会話してんだ、つーかできるのかよ!』
『竜じゃない、死竜よ。私ほどにもなると竜と会話なんて朝飯前なのよ?』
夜継と舞があの空間にいた時もそうだが、いきなり夜継たちを自分の前へと瞬間移動させたり、直接脳に語りかけたりとアンネは驚異的な力を使ってみせた。それでも、さすがに竜、いや死竜と会話が出来るなんて夜継は思ってもみなかった。
というよりこの世界には普通に竜がいることの方が夜継にとって驚きだった。
『私を誰だと思ってるの? そんなに驚かなくてもいいじゃない。今はこんな姿だけど歴とした神様なのよ? 竜と会話くらい出来て当然よ』
そう言い放ちアンネは死竜の元へとぼとぼ歩き、そのまま死竜の頭を撫でてやる。
その名の通り死竜の巨体は全体的に腐っているが、所々触れる比較的綺麗な箇所もあった。
アンネはその比較的綺麗な箇所を撫で……、てはいなかった。
死竜の頭や顔、頬っぺたを無雑作に撫でていた。
死竜の体はお世辞にも綺麗なものとは言えない、だがアンネは何の躊躇いもなく死竜とスキンシップをしていた。
さすがに夜継でも死竜のあの肌とスキンシップをするには多少の勇気がいるし、心の準備だって必要だ、それをアンネは平然とやってのけていた。
それを見ていた夜継は少しだけアンネに対して誤解していることに気づく。
俺たちとアンネの出会いこそ最悪だったが、そもそもこいつは神様だしな、何の神様までかは知らないが。まあこいつなりに全ての命に対し粗末な態度を取らないようにしているんだろう。よく分からんが、平等に命を大切にしてやろうって感じがものすごく伝わってくるんだよな、やっとこいつが神様らしく見えてきたかも。
おそらくだが、俺たちと会ったあの空間での態度も、
もしかしたら演技だったのかな……。こいつがあの時言った台詞、死んだ人間の命を考えてるほど暇じゃない……か。
俺たちを異世界に召喚するため仕方なく取った演技だったらないいのにな。
いつか話して本人に聞いてみるか……、答えてくれるか分からないけど。
『意外と死竜って大人しいんだな、さっきはちびりそうなくらいビックリしたけど。つーかまいはそこで気絶してるしな』
夜継も死竜の元へ近づきその頭を撫でようとーー、
『ーーダメ!』
夜継は間一髪でその腕をアンネに掴まれた。
『ど、どうしたんだよ急に、別に頭を撫でてやるくらいいいだろ?』
『そうじゃなくて、人間の貴方が死竜に触れてはいけないの。少しでも触れたりしたら、接触した部分からたちまち肉が腐りやがて体全体が骨だけになるわよ。脅しじゃないわよ、ほら、そこに生えてる草を私に頂戴』
言われるがまま夜継は足元に生えてる草を毟り取り、アンネに手渡す。
アンネが受け取った草を死竜に近づけるとーー、
ーー!?
ものの数秒もせしない内にたちまち草は腐り、跡形もなく消え失せた。
アンネの言っていたことは脅しじゃなく本当のことだったのだ。
よくよく死竜の足元を見ると草のほとんどが枯れたり、腐ったりしていて、そのほとんどが命を奪われていた。
夜継体からドッと冷や汗が吹き出る。
『ほ、本当だったのか。あ、ありがとなアンネ』
『別に礼を言われることはしてないわ。ただ、あまり軽率な行動は慎んで頂戴。この世界は貴方たちの世界と違って、人間の命なんて簡単に落ちる世界なの』
『お、おぅ悪かったよ。これからは慎重にするよ。でも何でお前は普通に触れてるんだ?』
ふとこのことに夜継は疑問を抱いた。
『私は特別なのよ。自分に接触するありとあらゆるモノを肌の直前で無害なものに変換できるのよ、これくらいならこの世界に干渉していることにはならないから』
『そ、そうなのか? 俺からして見れば余裕で干渉しているように思えるが』
『うるさいわね! 死竜にあんたを襲わせるわよ?』
『ヒィ、ご、ごめんなさい! 許してください』
アンネは勝ち誇った顔で夜継を見る。
こいつ、死竜が味方してくれるからって完全に調子に乗ってやがる。だけどさっきは助けられたし……、ぐうの音もでないな。
死竜のいる今は夜継はアンネに全く頭が上がらなかった。
『でも、何でいきなり死竜がここに? てっきり俺たちを襲いにきたのかと……』
『その予想でだいたい合ってるわよ? この子も最初はそのつもりでこっちに来てたし。来る途中で私の存在に気づいたけど時すでに遅しってやつね、クスクス。もちろん私は初めから気づいてたけど、そもそもこの世界の竜は脳内でテレパシーを相手に送り込んで
会話をするのよ。だから私もその応用でこの死竜にここまで逃げずに来いって言ったのよ、逃げたら殺すって脅してね? これで少しは神の力健在ってとこかしら!』
こいつ俺たちの知らない間に死竜とそんなやりとりしてたの? しかも逃げたら殺すとか怖すぎるだろ……。幼女の姿になっても神の力は健在ってか、そもそも神のスペック高すぎなんだよ。
夜継は目の前にいる幼女ことアンネの異能なスペックに先ほどから驚かされるばかりだ。
そこでようやく気絶していた舞が、ムクッと起き上がる。
『あれ……? 何で私寝てたの?』
舞が寝ぼけた顔をして夜継に聞く。どうやらさっきのことは覚えてない様だ。そのことに夜継はすぐ気付き、つい悪巧みを思いついてしまう。
それを何のためらいもなく夜継は決行する。
そして黙ったまま舞の後ろを指差した。
それに釣られて舞が振り返るとーー、
『フゥーーーーグギュルルルル』
『ぬ、ぬわぁぁぁぁああああああ!?!?!?!?』
今度は気絶こそしなかったものの面白い奇声を上げ舞は一目散に夜継後ろに隠れた。
『アハハハハハハハハ、なんだよその声!』
久しぶりに舞のあんな姿を見れた夜継は思わず盛大に笑ってしまう。しかし、舞は未だに夜継の後ろでガクガク震えていた。
…………ちょっとやり過ぎたかな?
夜継は舞の震えが意外長いことに少し罪悪感まで覚えてしまった。
だったらそもそもやるなという話だが。
『だ、大丈夫だぞ? この死竜見た目はアレだけど全然襲ってこないから安心しろ、な?』
宥めるようにして夜継は自分の後ろに隠れてる舞に言い聞かせる。そんな夜継の言葉にようやく安心したのか、ホント? と呟きようやく舞が夜継の背中から離れる。そして死竜の前に歩いていきペコっとお辞儀をし、死竜も釣られてペコっとお辞儀を返す。
気付くと舞は再び夜継の背中に隠れていた。
『…………』
何なんだ、今のやりとりは!!!!
夜継は目を見開き心の中で叫びながらツッこんだ。
『茶番は終わったかしら? そろそろ移動するわよ、死にたくなかったら二人とも早く死竜の背中に乗って頂戴』
『え、でも俺たちが近づくと死ぬんじゃなかったっけ?』
『それならもう大丈夫よ、貴方たちが茶番劇をやってる間に死竜の皮膚の表面に私特有のコーティングをしといたから。さっき言った、ありとあらゆるモノを無害にするってやつを貼ったから大丈夫よ』
……まるで絆創膏だな。
と夜継は思った。
『なんか言った?』
『何も言ってねぇよ』
『そ、じゃあとっとと乗って頂戴』
アンネはそう言うとそそくさと死竜の背中へと乗る。
どうやら夜継と舞は死竜の背中に乗れる様だ。