「ねえ、なんか真の歌ってる曲バラード系多くない?」

 「ん、そうか? 特別意識してなかったけど……」

 あかねに指摘され俺はなんとなく曲の履歴をチェックする。
 言われてみればたしかに……。

 俺とあかねはお互い交代ごうたいに計二十曲ほど歌え終え、今はジュースなんかを飲んだりして休憩していた。

 俺も久しぶりのカラオケということでつい熱中して歌ってしまった。途中から熱くなってきたので冷房もつけたけど。うん、カラオケっていいストレス発散かも。暇なとき行こうかな、一緒に行く友達いないけど。

 ーーそれにしても、やっぱり俺、今日の放課後のこと気にしてんのかな……。まだ返事貰ってないし。

 淡い期待をよせながら俺は残りのジュースを飲み干した。
 ストローを咥えたまま視線をあげるとあかねがまるで老人が新聞を読むときみたくじっと俺の顔を見つめていた。

 「な、何だよ。気持ち悪いな」

 咄嗟にストローから口を離し、つい皮肉交じりに聞いてしまった。

 「いや、別に………………」

 いや、絶対何かあるだろ。何だよ今の間。
 
 「なんか気になることでもあるのか……? 俺でよければ相談に乗るけど、もちろん聞ける範囲でだけど」

 それでもあかねは俯いたまま口を開こうとしなかった。

 あかねのやつ急にどうしたんだ? この光景さっきも見た覚えがあるんだけど。デジャブってやつか?
 本日二度目の気まずい雰囲気に俺は嫌気がさしていると、

 「さっきさ。真と竜ケ崎さんが教室にいた時。真、竜ケ崎さんに何て言ったの?」

 え……? こ、こいつ見てたの? 俺の人生で最大にして最強の地雷を踏んじゃったあのシーンをか!?

 「ねえ答えてよ」

 「う…………」

 うろたえる俺に追い打ちをかけるかのごとくあかねは顔を近づけてきた。俺はその追随から逃げようとして部屋の隅へと体を追いやられた。

 ちょ、近いです。あかねさん。鼻息当たってますっ。

 なおも俺はあかねから逃げるように後ずさる。が、あかねはそれを許さない。ドン! と背中に強い衝撃を覚え後ろを振り向くと壁だった。

 依然、あかねの顔は近づいてくる。
 
 何このホラーゲーム。めちゃくちゃ怖いんですけど……!

 「真、答えてよ……」

 ホラーかと思いきやそこには、瞼が赤く腫れあがってその綺麗な顔立ちをくしゃくしゃにしたあかねがいた。

 「な、なんでいきなり泣くんだよ。訳わかんねえよ」
 
 もう頭が真っ白だった。無意識に出てきた一言がこれだ。

 「……ぃ」

 あかねの健康的な唇がかすかに動いた。だが、その声は目の前にいた俺でさえ聞き取ることは出来なかった。それほど小さな声だった。

 「あかね今なんて」

 「もういい! 真のアンポンタン!」

 あかねは俺目掛け罵声を浴びせてきた。ついでに大量の唾が俺の顔面に飛び散る。

 「…………」

 あかねは勢いよく鞄を拾うとそのまま部屋から飛び出す。扉を開けた際、俺たちと同じようにカラオケにきていた中学生の男の子にぶつかり手に持っていたジュースが床にぶちまけられた。が、あかねは気にも留めず走り去っていった。

 俺は、ただ茫然とするしかなかった。

 未だ何が起きたのかわからず固まっていた俺の部屋の扉がゆっくりと閉まる。透明なガラス越しに先ほどあかねとぶつかり床にジュースをぶちまけてしまった中学生の男の子が涙目で立ち尽くしていた。

 ーー少年よ、大志を抱け。

 俺は心の中でそう呟いた。

 すっかり歌う気も失せ最初の受付のときにあかねに手渡された伝票を持ちレジへと足を運んだ。
 伝票を店員さんに渡し、財布を開く。いざお会計となると俺はふと疑問に思った。

 あいつ、金払ってなくね?

 「お客様……?」

 女の店員がレジに手を掛けたまま俺がお金を出すのを待っていた。その目は会計だからグズグズしないで、といった感情が見え隠れしていた。やがて困った表情で声を掛けてくる。

 ーーいや、困ってるのは俺のほうなんだって。

 結局あかねの分も含め二人分の料金を払った。

 その日は学校と放課後には日直の仕事、さらにはカラオケとあってか自分の部屋に着いた瞬間ベッドに飛び込み布団に潜り込んだ。

 カラオケ店から帰る途中、あかねは俺と同じアパートだから部屋に戻るついでに一度会ってさっき聞きそびれたことをもう一度ちゃんと聞こうかどうか悩んだけどやっぱり行かないことにした。

 実際、今の俺にとって竜ケ崎さんからの返事のほうが一番気になるし……。