桜の開花宣言がされたそうだけれど、冬将軍の残り香が強くて、桜前線が追いつくのにはまだ時間がかかるだろう。
つまり寒いのである。

待ち合わせ場所は小田急デパートの○疋屋、11時半。俺はなんと10時半からいるのだ。そこ、アホだろうとか言うなよな? 早くも三杯目のコーヒー。窓から見える西口の人の多いこと多いこと、あのどれかが××ですかね?
…………。
「なに見ているの? あ、わかった。それも仕事の一つなのね、センセ」
「先生というのをやめてってあれだけ言ったでしょうが!」
××が底に立っていた。只今の時刻は十一時七分。待ち合わせ時間より二十分も早い。
「早かったのね。いるとは思わなかったわ」
「いやあ、京王線が速く走ってくれちゃってさ」
「日本の鉄道の定刻運行は奇跡なんだ! ってあとがきに書いていたくせに」
苦し紛れの照れ隠し。その言い訳がこれである。そして鮮やかに切り替えされる。××はひたすらニコニコと微笑んでいる。
俺は華美な服装を避けつつも地味でなくかつスタイリッシュに、でも学生であることは忘れないというこざっぱりした品のある格好。彼女はデートの時のお約束、ワンピースに今日はレギンスを下に履いている。そして上からカーディガン。前にレギンスは辞めなさいと言ったら怒られたために見なかったことにするのだ。リボンで結ぶことが多いが今日は……?
「あれ、髪の毛の色が」
俺は満身創痍ながら話題を脇道に押し込めた。
「わかる? 春だし明るい色にしてみたの」
なんか日本人ではありえないくらいに茶色の方向に向かっているのだが、しかしそれがジャストフィットしている。似合い過ぎだ。
「さっきまで美容院に行ってたのよ」
「なるほど、だかr」
「ご注文は何にいたしましょうか?」
「このイチゴパフェのセットでお願いします。飲み物は、えーと、紅茶で」
「かしこまりました。」
ウェイターはそそくさとメニューを下げて××に水を置いていく。
「だから、なにかしら?」
「いや、いいコーディネートだと思うよ」
幾重にも重なった布地から見える地のピンクは霞がかった桜の色なんだろう。と俺はそう解釈する。××の家は畳の部屋がないようなとんでもないお屋敷であるが(土足でOK)、××は筝曲をとても優雅な和服で奏でたこともあった。おい、外務省、××をミス・ユニバースにするっていう手もあるんだぜ
「うふふ、ありがとうセンセ」
「だから先生というのをやめてくれないか」
「だって先生は先生でしょ、私に隠しておいてさ」
「××はこういうの読まないでしょ?」
「読まないって、あなたが書いたんだったら読むわよ。当たり前でしょう」
「だからといって趣味なんだし」
「だとしても、今日はそのお祝いなのよ」
「五ヶ月遅れだけどな。ゴメンな、その時に言わなくて」
「おまちどうさまでございました。季節のいちごパフェでございます」
「うわぁ! このイチゴおっきいわよ、ほら見てよ!」
××はイチゴに夢中である。ごろごろと大粒の奴を半分に切った奴がアイスに添えてたくさん。アイスと生クリームの層にまたたくさん。そしてアイスにも練りこまれている。いちごのインフレパフェである。そして俺の話を聞いていない。
「お祝いねぇ」
フォークとスプーンを器用につかってイチゴを頬張る姿。リスがどんぐりを隠すようにほっぺたが膨らむ。もちろん満面の笑である。スイーツは別腹(笑)って言葉があるが、何を言うか。スイーツでとった甘い成分はこうやって笑顔として俺もまた幸せにしてくれるじゃないか。なんだそのかわいい顔。というか減る速度がすげえなあ。

十分後―――
「美味しかったわ。あなたもコーヒーだけじゃなく食べたらいいのに」
「あれは甘そうすぎるから」
「ふうん、美味しいわよ?」
ナプキンで口を服姿からはやはりお嬢様のオーラがにじみ出ている。
「じゃあ、行くか」
「その前に、これ」
××が持っていた手提から小箱をとりだした。こういうモノはディナーの時にだすものだろう。まったく、賞金の1/3は××のために使えるようにしてあるから今夜は雰囲気満点の一流レストランを予約したというのに……といっても××の場合行ったことある可能性もあるのだが。
「俺に?」
「ええ、お祝い。開けてみてよ」
「お、おう」
大きさはNintendoDSの箱とだいたい同じサイズ。もしかしてこれは3DSではないか、なんてことも思ってしまう。
「万年筆?」
「いいでしょ、よかったら使って」
アップルグリーンの万年筆。イギリスのとあるメーカーがだしたオフィシャルな「フライングスコッツマン号」の万年筆である。なんというチョイス。
「××、こんな高いものを……、ありがとう」
「どういたしまして、センセ」
あの百万ボルトの瞳の必殺スマイルでそう言われてしまったら、センセと呼ばれるのも悪く無いと思った。


まあ、最初にここまでアツアツなやりとりがあったくらいなんだから、もうその後は見るに耐えない世間知らずと非常識なバカップルのやりとりが延々と続いたわけで書きません。想像の翼をひろげて続きは各々で考えてね。そんな突拍子も無いことはしなかったなー。




















嘘なんですが。