この日は、以前高クオリティな説明会を開催してくれた学習塾を運営する企業の2次面接に向かった。
説明会や1次面接で好印象を抱いていた企業だけあって、それなりのモチベーションで会場へと到着。
この日の面接はグループディスカッション形式で行われることが予告されていた。
グルディスと言えば、某V社(3月6日参照)、某アプリゲー会社(2月24日参照)で連敗を喫し、ようやく某出版取次会社で勝利を収めた、コツを掴みかけた状態であるが苦手な選考形式である。
しかし、グルディスの立ち振る舞い方の軸となるものが私の中で確立した状態で臨むのはこれが初であり、それがどこまで通用するかを試す場としてはうってつけの機会であることは確かであった。
そうして案内された部屋へと向かうと、そこには如何にも「勉強しかやってきてませんでした」みたいな風貌の就活生が私を待ち構えていた。
まず、私たちは5つの6人グループに分かれて、軽い自己紹介から始めた。
グルディスのテーマは、『同じ系列の塾のうち、3つの校舎では重視するポイントが異なります。利益を重視して運営を行うA校、生徒の成績を重視して運営を行うB校、講師間のコミュニケーションを重視して運営を行うC校。あなたはどの校舎の運営が望ましいと思いますか?』というものだった。
このテーマについて、まずは自分だけの意見を構成する時間と、その意見をグループで共有して1つの意見としてまとめあげる時間、グループの意見を発表する時間の3つが与えられていた。
面接官は、1グループ1人というわけではなく、複数人が評価シートを持ちつつ各グループを巡回していく形式であった。
私はこの中から、生徒の成績重視のB校を選択。
顧客である保護者が一番望んでいることは子どもの成績アップと合格のはずなので、その最大のニーズに応えるべきだという考え方である。
塾講師のアルバイト経験があることで、意見の軸となる要素は順調に埋まっていき、特に問題もなく自分の意見は完成した。
その次に行われたグループ内発表で、雰囲気は一変する。
なんと、私以外のグループ全員がコミュニケーション重視のC校を選択していたのだ。
そして、私がB校を挙げた時に全員が私に向けた「あ~、こいつやっちまったな」的な視線。
極めつけには、これまで敬語だった進行がいきなり私に対してタメ口になるという圧倒的なイキリ様を見せつけられた。
私としては、こんなことで同調圧力に屈してはいけないと思い、何とかして自分の意見を組み込もうと案を出しまくったのだが、「まあ必死なのは分かるけど、和田さんはB校を選んだわけじゃない?(笑)」の一点張りでお話にならなかった。
この時点でだいぶキレてはいたが、その次の一言で私のブチギレゲージは限界を突破した。
それはC校を選んだ理由を各々が述べているときである。
「実はこのグルディスのお題は毎年恒例で、一応この企業の方針としてはC校の考えに近いらしいのでC校を選んだんですよ。」
「だよねー」とそれに同調するグループ各員達。
そう、彼らは事前に「答え」を知っていたのだ。
その後のグルディスの経過は酷かった。
「この会社的にこういうことを言うのが良いって先輩が言ってた」
「C校を選ぶことから逆算して事前に色々考えてきてたんですけど~」
などなど、グルディスが崩壊。
これは会社側にも問題があるが、それにしても自分の意見が一つも出ない、コネや先輩を介した先回り情報自慢大会と化した。
オタクがイキリ気味にペラペラ喋っている姿を「キモい」と言う人の気持ちが初めて分かった気がする。
ここで私はダンマリを決め込んだ。
というのも、ここで意見を出しても仕方ないし、私はこのグルディスの先回り情報など持っていない。
というか、こういう人たちと働きたくねぇわと心から思っていた。もう落ちてもいいや、と。
この選択が後に大きな転機を生み出すことになる。
グループの結論は当然C校になった。
かつてグルディスに参加した先輩の意見をガッチリ組み、まあおそらく面接官に対するゴマすりとしては完璧に近い意見が完成していた。
発表の時間が近付いたところで、1人の面接官が近付いてくる。
ここで司会役を務めていた一人が私にこう言った。
「和田さん全然喋れてなかったし、発表したかったらやってもいいですよ」
司会として、コミュ障に気を遣った優しい自分を面接官にアピールしたかったのだろうが、これは彼らの敗着手となる。
私は発表をすることになった。
この時、ふと私の中の悪魔が私に囁いた。
「そうだ、こいつら全員道連れにしよう」
「私たちのグループはB校が最も望ましいという結論に達しました。」
発表で、開口一番そう告げた。
席の配置的に、グループ全員に背を向けていたのもラッキーだったかもしれない。
目が合っていたらパニックになっていただろう。
そこからは完全に私の意見をグループの意見として説明した。
「俺はかなりヤバいことをしている」という感覚でドーパミンが溢れだし、完全にキマッてしまっていた。
キマりすぎて多少噛んでしまったが、やってはいけないことをやってしまったときのような新たな興奮を感じながら私は着席した。
グループメンバーは全員信じられないといった表情をしていたが、他のグループの発表に集中するフリをして、もうそれ以上は彼らを見ないようにした。
こうしてグルディスが終了した。
会社を出るまではグループごとでの行動が強制されていたのだが、エレベータ内での重苦しい空気が今でも忘れられない。
唯一、「いや~、予想外っすわ~」と司会担当の奴がキレ気味に私に言った。
お前が戦犯だからな。
会社を出るなり、「ヤマダ電機に用事があるので」と嘘の報告をしてダッシュで逃げた。
このときもちょっと興奮した。
後日、グルディスの結果が届いた。
結果は合格。
完全勝利した私はUCを再生した。
-----2024年3月23日の私より-----
これは過去の自分を褒めてあげたいですね。
この度胸を持てた時点で就活生としては一個上のレベルにいけたと確信しました。
結構塾業界がブラックであるという話も聞きますが、なんとなくこういう組織をブラック化させてしまう人材がこの業界に志望したがるのかなとも思いました。