北軽井沢に初めての土地を得て、６畳一間のバンガローという「我が家」を持った私たちはその時２９歳と２７歳。子どもは５歳と３歳でした。

春になるのを待ちかねて現地へ出かけ、町の旅館に投宿しました。
電気と水道の工事はすでに頼んでおいたので、土間だった入り口の半畳部分に夫が床を張り、車に積んできた小さな研ぎ出しの流しを置いて下水が外へ流れるようにしました。

そしていよいよ夏休み。
車のトランクに寝具と鍋釜、最低限の食器や衣類を満載して出発しました。

歩いて１０分ほどの町には米屋、肉屋、八百屋、豆腐屋、食料品屋があり、その他にも食料品、衣料品、雑貨，文房具、食器、医薬品と何でも揃っている「山のデパート」と看板をかかげたお店もあったので買い物に困ることはありませんでした。

木の枝を集めてブロックで作ったかまどでご飯を炊き、七輪で料理をしてのまさにキャンプ生活。
真っ先に必要なトイレは穴を掘って、穴の両脇に板切れを置き、周りと屋根はビニールトタンで囲いました。
お風呂は近くの旅館へ入りに行けば済みます。

団地での暮らししか知らない子どもたちは大喜び。
その辺に咲く花を摘んで来たり、初めて見るアリの行列を飽きずに眺めたり、団地では味わえない体験に大はしゃぎでした。

夫はそこでも仕事を続け，原稿が仕上がると車で東京へ届けに行き、自宅に一泊して帰って来ます。
そんな夜は小さな小屋の中で母子３人肩を寄せ合って眠るわけですが、薄い板一枚で外は真っ暗闇でしたからさすがに怖かったです。
特に布団に寝て上を見上げると、屋根にトタンを打ち付けた釘の先がいっせいにこちらを向いてズラリと並んでいるので子どもたちが怖がるのです。不気味な眺めでした。

夜が明けて、小さなガラス窓から朝の光が差し込むとホッとしたものです。

こうしてこのバンガローで初めての夏休みを過ごした私たちは、そこでの生活がすっかり気に入ってしまいました。そしてどうしてもトイレとお風呂場のある家が欲しくなりました。

当時「日本電建」という会社が最初にいくらか頭金を払えば残りは毎月少しずつ払えば良いというシステムを宣伝していたので連絡を取りました。
すぐに着工すれば翌年の夏には出来上がるとのこと。
かなり無理をすることになりますが、どうしても来年はここで過ごしたいという気持ちが強く、思い切って契約をしました。

９０歳・やはり愛（メ）でたい バンガローでの初めての夏

９０歳・やはり愛（メ）でたい　　　　　バンガローでの初めての夏