2023年(令和5年)12月25日(月)朝日新聞
働く

脱・オフィス これからも

 コロナ禍が落ちついたことで、テレワークをする人は減少傾向です。企業のオフィス回帰が進んだためといわれますが、IT関連を中心にテレワークを続ける企業も少なくありません。どんなメリットがあり、続けるためにどんな工夫をしているのでしょうか。(松浦新)


OJTも好評「新入社員の精神的負担減」
文字のやりとり 誤解防止ヘルール作り

テレワーク考

 システム開発の「サーバーワークス」(東京)ではコロナ禍を受け、もともと認めていたテレワークが主流になった。新卒社員が先輩社員から1年間受けるOJT(働きながらの訓練)についても、対面で続けるべきか議論した結果、やはりテレワークにした。大石良社長(50)は「大丈夫かなと思ったが、当事者へのアンケートの結果は対面の時よりよくなった」と話す。
 理由の一つに、新入社員の精神的な負担が減ったことがあるとみる。出社での研修だと、自分の業務だけでなく、社会人としての立ち振る舞いも身につけなければならない。テレワークなら、業務に専念しやすい。
 また、対面のOJTは、1人の先輩社員について仕事を教わるケースが多いため、内容に差が出がちだ。
 一方、テレワークは移動時間が必要ないので、パソコンを通じて様々な先輩社員と計画的に接点をつくりやすくなるという。
 ただ、OJTに限らず、テレワークでは対面に比べ表情や身ぶりで伝えられる情報が少なくなりがちだ。それを補うため、高性能のマイクやカメラの費用として月2万円まで補助する。
 また、チャットなど文字でのやりとりが多いため、その際のガイドラインもある。①相手を否定しない②叱らない③2回で伝わらなければ会話をする、などだ。大石さんは「文字による情報伝達は効率的だが、議論には向いていない。否定の言葉のニュアンスが伝わらないので、きつく感じる」と説明する。
 電話営業などの会話を人工知能(AI)で分析して質の向上を支援する「レブコム」では2017年の創業以来、完全テレワークで好きな時間に働くことができる。「社員それぞれが自分のパフォーマンスを出す
ために整えた環境で働けるようにする」(乾将豪・人事責任者)ことがねらいだ。
 ただ、やはり文字でのやりとりが多くなり、過去は社員間で行き違いもあったため、ルールをつくった。①働く時間はそれぞれなので、早朝や休日にメッセージを送ってもいいが、受け取った側は自分の稼働時間に返せばいい②忙しい時には気づいていることを知らせて、後で回答する③気持ちや雰囲気を伝えるために絵文字を積極的に使う――などだ。
 
会社選ぶ条件に人材確保にも効果

 働き手を確保しやすいというメリットを重視して、テレワークを続ける会社も少なくない。
 企業の新規事業創出を支援する「ミチナル」(東京)は、コロナ禍を機に完全レワークを始めた。働き方の制約を減らすことが、幅広い人材を集める方策の一つになると考えたという。
 4人いる社員の一人、東加菜さん(38)はミチナルに転職したことで、ベトナムに単身赴任していた夫のところに、子どもとともに合流できた。「過去に夫の海外勤務で私のキャリアが途絶えたこともあった。今はテレワークのおかげで働きながら家族で暮らせる」
 毎週木曜には社員4人がネット上のバーチャルオフィスに「出社」し、顧客の反応などについて情報交換する。東さんは「全員がレワークなので、国内にいる社員との違いは感じな
い」と話す。
 年賀状作成アプリなどを提供するソルトワークス(札幌市)も、コロナ禍を機にテレワークを認めた。
 約60人いる社員の半数以上を占めるITのエンジニアやデザイナーは、テレワークを会社選びの条件にする人が増えたためだ。
 新たに入社した人の中には、コロナ禍を受けて首都圏などから移住してきた人も多い。一方、完全テレワークを認める東京の会社も増え、給料が比較的高いため、同社から転職したエンジニアもいたという。
 広報担当で採用の経験もある菊池花那里さん(33)は「テレワークが一般化し、かなりの社員が入れ替わった。人材確保の面でテレワークができる効果は大きいので、フル出勤に戻すことは考えられない」と話す。

交流に知恵絞る

 一方、テレワークは社員間のコミュニケーションが難しくなりがちなため、企業はそれぞれ知恵を絞る。
 サイバー攻撃対策を手がける「サイバーセキュリティクラウド」(東京)は基本的に働く場所も時間も自由だが、約110人いる社員はチームごとに週1回の出社日を決めている。社内には無料のドリンクコーナーがあり、午後6時からはアルコールも飲める。大画面のモニターでテレビゲームも楽しめるようにするなど、交流を促している。
 業務管理ソフト開発の「ヌーラボ」(福岡)はコロナ禍を受け、20年から完全なテレワークを認めた。だが約150人いる社員は、お互い顔も合わせたことがないケースが増えてきた。そこで今年10月から、3カ月に1度、福岡、京都、東京にあるオフィスで交流会を開くことにした。全国に住む社員に、比較的近いオフィスに出社してもらい、交通費は会社が負担している。

下がる実施率 働き手は継続望む 日本生産性本部調査

 日本生産性本部はコロナ禍が始まって以来、毎回1100人を対象に、テレワークをしている人の割合を数カ月おきに調べている。初回の20年5月は3・5%だったが、その後は減少傾向で、今年7月は15・5%と過去最低だった。
 一方、同本部が5 ̄6月、テレワークをしている一般社員1千人に行った調査では、テレワークを続けたいと答えた人が5・6%にのぼった。テレワークが廃止・制限されたら退職を検討するという人も16・4%いた。
 「課題が解決していない」と思う項目では、仕事のオン・オフを切り分けやすい仕組み(3・7%)、机・椅子・照明など物理的環境の整備(31・4%)、仕事ぶりの評価の適切さ(30.7%)の順に多かった。
 シンクタンク「SOMPOインスティチュート・プラス」の岡田豊上席研究員は、テレワークをする人が減っていることについて、「テレワークは会社が制度を整えなければ続けられない。コロナ禍で無理に始めたところはやめてる」と話す。
 一方で、「移動の無駄がなく、家族の近くで働けるため、若い人を中心に希望する人は多い。会社は人材確保を考えれば認めざるをえない」と指摘。欧米では多い国で4 ̄5割の人がテレワークをしているといい、「日本の実施率も今が底で、今後増えるのではないか」とみる。