「ああ、ショータさん、こんばんは。お久しぶりです」
カツラコさんだった。
マフラーをはずしながら、晴れやかな笑顔を、僕に向ける。
薄手のコートを脱ぐと、グレーのタートルネックのニットと、足首の見えるのカーキ色の細身のパンツに、細いヒールのパンプス。女性らしいラインが際立っている。相変わらず、スタイルがいい。
「もー、今日、寒い」
頬を赤く染めて文句をいうカツラコさんは、まるで少女のようで、とてもかわいらしい。
「隣いいですか?」 と、カツラコさんが聞いてきたので、「どうぞ」と、答えた。異存があるわけがない。カツラコさんが座るとかすかに、お香のような、上品な香りがした。
「マスター、ハニージンジャーミルク、熱めでお願いします」
あたりまえのように、注文してしまった。もう閉店時間なのに。いいのかな。
「私が呼んだんです。カツラコさん、急がせて申し訳ない」
時間を気にして、不安げな僕と、カツラコさんを等分に見ながら、マスターがおしぼりと水を出す。
「いいのいいの。どうせ近くにいたんだし、ショータさんにも会いたかったし」
水で唇を湿らせて、僕ににこりと笑いかける。こんな間近で、美人に、嘘でも「会いたかった」と微笑まれたら、さすがにちょっと、なんというか…照れる。
「ショータさんも、なにか飲まれますか?私も失礼して」
そう言って、マスターが棚から取り出したのは、小瓶のブランデーだった。え、酒?
「でも、もう閉店して…」
「ええ、さっきクローズの札を出してきました。だから、他の方はいらっしゃいません。気を楽にしてください」
そういうことじゃなくて、と突っ込みたくなったが、どうもマスターは、本心から僕そう言っているらしい。カツラコさんに至っては、わざわざ会いに来てくれたという。
帰るタイミングも逃したし、もうちょっと、いようかな。この二人と話すのは楽しいし、閉店後にこうやっていられるのって、なんか特別扱いって感じで、悪くない。
でも、どうして、僕にこんなに良くしてくれるんだろう?なんか気に入れるようなこと、したっけ。