あわてて教えられた通りへと移動する。えっと、カフェ・シェリーって言ってたよな。
キョロキョロしながら喫茶店を探していると、それらしき黒板の看板を見つけた。そこにはカフェメニューが掲載されている。ふと看板の下の方を見ると、こんな言葉が書いてあった。
「今、この瞬間を大切にしていますか?」
なにげに目に入ったこの言葉。けれど、これについて何かを考えている暇はない。この看板にある矢印の方を見ると、ビルの階段がある。どうやらここの二階にあるようだ。
階段を駆け上がり、勢い良くドアを開く。
カラン・コロン・カラン
カウベルの音とともに聞こえてくる女性の「いらっしゃいませ」の声。この空間に入った瞬間、オレは今までにない感覚に包まれた。焦っていた自分から、急に落ち着いた感覚になる。なんだか妙な感じではあるが、嫌なものではない。むしろ気持ちよさを感じる。
「あー、新垣さんですね」
店の真ん中にいたスーツ姿の若い男性が立ち上がって、オレを迎えてくれた。
「すいません、道に迷っちゃいまして。新潮日報の飯田さんですね。大変遅れて申し訳ないです」
「よかったー。事故にでも遭ったんじゃないかと思って心配してましたよー」