第86話 今、そのとき その12 | 【小説】Cafe Shelly next

【小説】Cafe Shelly next

喫茶店、Cafe Shelly。
ここで出される魔法のコーヒー、シェリー・ブレンド。
このコーヒーを飲んだ人は、今自分が欲しいと思っているものの味がする。
このコーヒーを飲むことにより、人生の転機が訪れる人がたくさんいる。

 あわてて教えられた通りへと移動する。えっと、カフェ・シェリーって言ってたよな。

 キョロキョロしながら喫茶店を探していると、それらしき黒板の看板を見つけた。そこにはカフェメニューが掲載されている。ふと看板の下の方を見ると、こんな言葉が書いてあった。

「今、この瞬間を大切にしていますか?」

 なにげに目に入ったこの言葉。けれど、これについて何かを考えている暇はない。この看板にある矢印の方を見ると、ビルの階段がある。どうやらここの二階にあるようだ。

 階段を駆け上がり、勢い良くドアを開く。

カラン・コロン・カラン

 カウベルの音とともに聞こえてくる女性の「いらっしゃいませ」の声。この空間に入った瞬間、オレは今までにない感覚に包まれた。焦っていた自分から、急に落ち着いた感覚になる。なんだか妙な感じではあるが、嫌なものではない。むしろ気持ちよさを感じる。

「あー、新垣さんですね」

 店の真ん中にいたスーツ姿の若い男性が立ち上がって、オレを迎えてくれた。

「すいません、道に迷っちゃいまして。新潮日報の飯田さんですね。大変遅れて申し訳ないです」

「よかったー。事故にでも遭ったんじゃないかと思って心配してましたよー」