その話は家でも聞いた内容。お友達に連れてこられて、半信半疑でシェリー・ブレンドを飲んだこと。そこで自分の願望に気づいたこと。そして、マスターやマイさんとの会話のこと。
けれど、肝心のお義母さんの願望については話してくれない。これはわざとじらしているとしか思えない。
「お待たせしました。シェリー・ブレンドです」
モーニングを食べ終わったちょうどのタイミングで、お待ちかねのシェリー・ブレンドがやってきた。
「どんな味がするのかな…」
私は期待を込めて、コーヒーカップを手にする。いつも研究所で飲んでいるコーヒーとは違う、独特の香りが気分を盛り立ててくれる。
カップに口をつけ、一口すする。うん、なんか深い味わいがする。コーヒーの苦味、それに加えてなんとも言えない甘さというかうま味というか。二つがうまくからみ合って、お互いの持ち味を高めている。
ここで頭にひらめいたこと。苦味はお義母さん。もう一つの表現できない味が私。この二つが、お互いにいいところを引き出し合いながら一つのものをつくっていく。一つのものとは、二人の生活のこと。
頭のなかには、二人で笑って暮らしている、そんな映像が思い浮かんだ。