凛とした一文字のタイトル。
この表紙のように美しい木によせる作者の思いが、味わい深い文章で切々と綴られた作品です。
以前、『台所の音』を読んだときに、言葉や文章にしなやかな品の良さがあって、いい表現だなと作者の文に魅了されました。
この作品も、どのページを読んでも対象や自己の思いをまっすぐに見つめた、心にすっと入りこんでくる表現に出会えました。
15の章からなり、えぞ松、藤、ひのきなどの木についての章と、作者が木に惹かれるようになった生いたちや木に関わって仕事をしている人々の思いについての章などがあります。
木を育てる人でも学者でもなく、ましてや木を扱う職人でもない作者が、これほど木に心惹かれ木を思う文にふれ、わたしもいっしょに森を歩き、木の生命に触れているような気持ちになりました。
「えぞ松の更新」では、倒木の放つ静かで無惨な、でも人の命よりはるかに長い時間をかけて行われる更新や輪廻の神聖さに
「ひのき」の章では、同時同所に生まれながらまっすぐに伸びた木とかしいだ木の関係に
切なくもなり、胸を打たれました。
森の案内人の言葉も印象的でした。
人にそれぞれの履歴書があるように、木にもそれがある。~中略〜年齢はいくつか、順調に、うれいなく今日まできたのか。それとも苦労をしのいできたのか。幸福なら、幸福であり得たわけがある筈だし、苦労があったのなら、何歳のときの、何度の、どんな種類の障害にあったのか、そういうことはみな木自身の体に書かれている。
無口だけど、木は情感を秘めて生きていると、作者も書いていました。
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もう1冊の木の本を思い出しました。
『樹木たちの知られざる生活』
数年前に読んだ本です。
こちらは、ドイツの森林管理官である作者が、長年木と向き合い観察して発見したことを科学的な根拠をもとに書いた本です。
どの内容も森の豊かさと同じ。樹木たちの生き抜く仕組みや、森の知恵に感心させられることばかりでした。
話がそれますが、ドイツでは
「動物、植物、および他の生体を扱うときには、その生き物の尊厳を尊重しなければならない」
と憲法に記されているとか。
大きな目で見ると、森を守ることが地球を守ることに繋がり、そこに生きる人間を守ることにも繋がります。
そして、この地球が人間だけのものではないこともあらためて教えられます。