明日、緊急事態宣言を、なんてニュースを見ながら、パソコンに音楽データを入れていました。

佐野元春の『ハートランド』、というライブアルバムを聴いていて、ふと思い出したことがあります。

あれは、19の頃でしたかね。

横浜の大きな会場。

元春のライブ。

人でごった返していた会場前。

そこから逃れるように、彼女の手を引いて会場を後にしたのを覚えています。

欄干に持たれながら、手をつないだまま。

なんだかもったいなくて、そのあたりを歩いたり……。

しばらくして、当時のお約束のベースが轟く『アンジェリーナ』のイントロが会場から微かに漏れてきて、二人そろって溜め息混じりの視線を向けたものです。

七里ガ浜の海岸。

彼女が流木で書いたポールとポーラの文字。

波にさらわれて消えていくのを笑いながら見ていたのを覚えています。

ずいぶん迷惑をかけたな、と今では独り笑いです。

 

長渕剛の『女よ、ごめん』、という曲があります。

先行シングルでは、アコースティックなバージョンで、遠い目をしながら悔恨の日々を過ごす感じ。

また、アルバムでの冒頭を飾る同曲は、勢いに任せて抑制できなかった自分を罵るイメージ。

『ステイ・ドリーム』あたりから長渕が好きになり、ドラマで配達に使っていたバイクも真似てGB250クラブマンを買ったものです。

私自身、謝ることが多いことに気づきます。

自分の気持ちを優先するあまり、あ、ちょっと違いますね……。

何でしょう、相手を困らせては自分のスタンスを保っていただけなのかもしれません。

単なる器の小さい男です。

 

その頃から小説家になるのが、私の第二の夢でした。

アパレルメーカーで働きながらも、少しずつ書いたりしていました。

これまで応募したのは四回きりです。

そんなことでは夢までの距離は縮むわけでもなく、いつまでたっても遠い空の向こうのまま。

 

本当は、『ビフォア・サンセット』みたいに、売れっ子の小説家になっていればカッコいいんですけどね。

あの映画は、素敵な方から紹介されてみたDVD『ビフォア・サンライズ』の続編です。

 

私は、四年前に文芸社さんより小説を出版。

群像の募集から落選したものを、編集者とのやり取りを踏まえて新たに手直しを加えたもの。

自分なりの覚悟として、形にしました。

―ご・さ・い・に・よ・わ・いー

彼女の電話番号は、ひっそりとアドレス帳のKの欄に。

でも、どうしてもかけることはできませんでしたね。

岐阜の友人には、懐かしさが溢れた会話を受話器越しにできたのに……。

 

音楽データを入れていると、いろんなシチュエーションが思い出されます。

彼女にジルバを教わって、門限を気にしながらオールディーズのライブハウスで、嬉し気にツイストやジルバを踊ったものです。

――

彼女のパパ、ちょっと厳しすぎる

久し振りのウィークエンド

寄り添っていたいのに

時計を気にしながら

早く服を着て

髪を整えたら

タクシーで11時までに

We gonna back home

We gonna back home

――

佐野元春の『ナイトライフ』の歌詞の一部です。

若い頃は、制御しきれない熱量をいろんな角度に向けて放出していたように思います。

どうしようもない焦燥感に突き上げられながら、いつもメルトダウン寸前の気持ちを持て余していたあの頃。

 

こんな話は、誰も聞きたくはないもの。

わかってはいるものの、やっぱりここでしか書けないのも事実。

あの頃の自分に戻りたいわけでもなく、またその頃の彼女に会いたいわけでもありません。

私にしてみれば、思い出に心地よく浸れる清らかな泉のような場所です。