店主アホにつきムズかしい話はパスします、みたいな貼り紙して
おきたい。それにしてもAIはやってくれる。壁からにょきりと生
えた巨大なスピーカー。建物そのものがエンクロージャーなのか?
どんな音がするのか、いっぺん聴いてみたいものである。
こういった店は都会で見かける。いずれにせよ市街地でなければ
成立しないジャズ喫茶。駐車場などなくていい。歩く人が多くい
て、それぞれかすかな孤独を抱えてる。心地いい独りを求めてや
ってきて、同類を見つけては話し込む。そのとき話し込むのだが、
店を出たらそ知らぬ顔。そんなカンケイが築けないのが田舎であ
る。濃すぎるんだ。相手に土足で踏み込んでいく。田舎の常識は
都会人にとってはわずらわしい非常識。踏み込んでいい一線を探
りながら付き合うのが正しいわけで。そこが知性さ。
俺がやるんなら、インスタ映えするメニューなんて一切おかない。
そこらを歩いて、なにげに見つけた店に入ってみる。そこのとこ
ろのスタンスがすべてなのだよ。お客には自由人でいてほしい。
流行りを追いかけるエトセトラとは異質の感覚で、ほんの一瞬、
少しだけ濃い時間を愉しみたい。ジャズ、シャンソン、ボサノバ、
ブルースでもいいし、ロックが好きならそれもいい。このジャン
ルと縛らない店がいいと思ってる。
カフェとは時間を売る商売なんだよ。
通りすがりにちょっと入って、束縛されない自由時間を手に入れ
る。ゾロゾロ群れをなして入るようなチャラ店ではないんだね。
こういう店をやるんならビールの小瓶ぐらいは置いてもいいか。
基本は珈琲。だけど少しぐらいなら酒もおっけ。そのへん含めて
客が勝手にすればいいことで。缶ビールでも冷やしておいて、自
販機でもいいかもしれんし、まあどうぞ、ご勝手に、みたいなね。
マスターは片眉を上げる程度で、ただただ笑う。そのへんが心地
いいから常連さんができていく。
うん、それがいい。それでいい。