彩side









あの日からと言うものの
私と美優紀は頻繁に会うようになった。











最近、美優紀の口から
こんな言葉をよく耳にする。



「彩ちゃんといると落ち着くし
なんか懐かしい感じがする。」



そりゃそうや。だって私たちは
ずっと一緒におったんやから。

美優紀の好きな食べ物も
好きな映画も誕生日も、
全部全部知ってるつもり。







そんな美優紀と、またこうして
一緒にいられることに幸せを感じていた。








でもな?私が美優紀と
再会したほんとの理由は
自分の幸福のためじゃないやろ?

前に進まな、これじゃ美優紀から逃げた
あの頃の私より最低や。






美優紀といる時間が増える度に
言わなきゃいけない、
そんな気持ちが募っていった。









今日こそ、ちゃんと言わなあかん。






「美優紀。」





小さく深呼吸し、



「私、ずっと隠してたことがある。
今日はそれを聞いてほしい。」



こんなに遅くなってしまってごめんな。
大人になるって
そう簡単なことじゃないねんな。









やっと言える日がきた。








「私、六年前大切な人を
守ってあげられなくてその人の人生を
めちゃくちゃにしてしまった。
その人はな、事故にあってん。
事故にあう前、その頃何もかも
上手くいかなかった私に、その人は
”人が喜んでいる間に自分は前に
進めばいいねんで”って言ってくれてん。
ほんまに嬉しかった。
でもな、素直になれなくて私は
その人のことを傷つけてしまった。」



溢れる涙が止まらなかった。

だけど最後までちゃんと伝えなあかん。
今やったらちゃんと言えるから、
見せなかったすべてのことを聞いてほしい。





今ならきっと素直になれるから。






「誰より大切に思ってたのに、
誰よりも大切してあげられなかった。
美優紀ごめん。
私の一番大切な人は…あんたのことや。
側に居てあげないとダメな時に
私は美優紀から逃げた。
なんて声をかければいいんか、
どうしてあげたらいいんか分からんかった。
ただ、美優紀の記憶から消えたかった。」





ごめん、また美優紀を泣かせてしまった。
嫌われたって仕方ない。これでいいんや。










すると美優紀は、



「なんか変やなって思ってた。
長い間一緒にいた感じがして、
どこかで聞いた笑い声、優しい笑顔、
触れた時の感覚、彩ちゃんの全部が
何だか特別やった。
私の記憶の中には、もう消えて
無くなっちゃったけど、
あの”待ち合わせ場所”も懐かしく思えて
不思議な気持ちになった。
思い出そうとすると、暗闇にひとり
迷い込んだみたいで見つからなくって、
私の地図が違ってたのかなって誤解してた。
ねえ、なんで彩ちゃんは自分を責めるん?
私のことを大切って
思ってくれてるんだったら笑ってよ?
またこうして出会えたんやから。」



どこまでも私とは正反対。
突然こんな事、打ち明けられたら
私なら怒ってるかもしれない。
自分の人生が180度変わってしまっても、
こうして受け止めてくれる美優紀は
私が知らない間に
こんなにも大人になっていた。









あの日降った雪を思い出す。






触れると溶ける雪のように儚くて、
近づくとまた私の前から
消えてなくなってしまうんじゃないかって
それだけが怖かった。

でも、消えてしまってからじゃ
また後悔してしまうから。










今ならばちゃんと言える
見せなかったすべてのこと
今ならばそう素直に心を開けるんだ。








私たちの、記憶の答えあわせは今始まった。