彩side






誰のものなのかも、分からない血が
私の手を真っ赤に染めていた。

蛇口から流れ出す透明な水が
それによって赤く濁る。


「うわ、手切れてるやん。」


どうやら私の血も混ざっていたようだ。


「あんな彩、久しぶりに見たわ。」


隣で同じく水道に向かう百花はそう言った。


「もうな、一生
喋られへんようにしたろ思って。」


血を洗い流した私は、さっきまでの姿が
まるで嘘のように跡形もない状態に戻る。


「こう見るとやっぱり
普通の女子高生やねんな、彩って。 
あれだけやって
なんで顔に傷一つないねんな!」


「やっぱ実力ちゃう? 
顔なんか絶対、傷つけさせへんわ。」



そう言って、勝ち誇ったように笑う。





そして


「ほな、帰ろか。」





家までの帰り道、
鏡で何度も顔をチェックする。


「ただいま。」


一応声をかけるが、
誰とも会わず部屋へ向かう。


成績優秀で何をやらせても
比較的上手くこなす私は
家族からも信頼されていた。

実は私はヤンキーです。
なんて言えるはずもなく、
家ではいい子を演じていた。

喧嘩で帰りが遅い時はバンドの練習、
怪我して帰った時は派手に転んだなんて
嘘を並べては誤魔化し続けた。




「彩?今日も百花ちゃんと練習やったん?」


一階からママの声がする。
逃げて自分の部屋に来たつもりやったのに。



部屋に入ってきたママは、


「百花ちゃんと仲良くなってから
毎日楽しそうでいいね。ママ安心したわ。」


毎日楽しそうな理由が喧嘩なんて
口が裂けても言えへん。
そんなこと言ったらきっと
ママを悲しませてしまう。


「今度のイベントの練習が忙しくてな。」


「また見に行ってもええ? 
毎日こんな遅くまで頑張ってるんやもん。
ママ、彩が歌ってるとこ見たいわ。」






嬉しそうに笑うママに私は
頷くことしかできなくて、
それと同時に激しい罪悪感に襲われた。