彩side









「おはよう。美優紀来てる?」


「来てへんで。
あれからみるきーと会えた?」


「うん。でもなんか体調
優れんへんみたいやわ。」


「大丈夫なん?」


「病院行け言うてんけどなぁ。
今日もう一回行ってみるわ」











そして五日ぶりに
美優紀の家を訪れる。




「あぁ彩ちゃん。
来てくれたんや上がって」



部屋に入ると
沢山の単行本が置かれていて、



「美優紀えらいな、
いっぱい勉強してんねんな。」



そう言うと、



「違うよ、片付けてないだけ。」



なんだかいつもより元気がない。




「顔色良くなってないみたいけど、
ちゃんと病院行った?」


「うん。」


そう頷く美優紀。
だけど明らかに様子がおかしい。


「…ん?どうしてん、
なんで泣くねんな。」


「彩ちゃん…。」







泣きながら私の名前を呼ぶ
美優紀は震えていて、
まるで助けを求めているようにも見えた。




優しく美優紀を抱きしめ、


「ええよ、気がすむまで泣き。
落ち着いたら話してくれたらええ。」



そう言って背中をさすると
子供のように泣く美優紀。




きっと辛くて苦しくて仕方なかったのだろう
そう思うと、美優紀の気持ちに
気づいてあげられなかった自分に腹が立つ。








「なぁ彩ちゃん…?」


「ん、どうした?」











「私な…
お腹の中に赤ちゃんいるねんて。」










「……。」





「なんや、そんな深刻な顔するから
ガンになったとでも、言うんやないかって
ドキドキしたわ。」


「怒らへんの?」


「なんで怒るねんな。喜ばしいことやろ?
ちゃんと体大事にせなあかんで。」


そう言ってもう一度
美優紀を抱きしめる。



「今日はもうゆっくり休み?
また明日来るから。」


打ち明けることで少し安心したのか、
美優紀の表情が軽くなる。



「うん、ありがとう。」










そう言った美優紀を残し家を出た。














なんでやろ、涙が止まらんへん。






行く当てもないまま歩き続け、
たどり着いたのはあの公園だった。

ベンチに腰かけると、思い出すのは
さっきの美優紀の言葉。



あの様子じゃ、きっとまだ誰にも
話せていないのだろう。
たくさん悩んで、苦しんで
大きな不安を一人で
抱え込んでいたに違いない。
だけどそれを乗り越えられるほど
美優紀は強くない。
そんなこと、私が一番
分かっているはずなのに
どうしてあげることが正しいのか。




正直わからない。













私は美優紀のために
何をしてあげられるやろう。