民主党政権で建設産業への影響は
2009/08/31 日経BP
民主党政権の誕生によって、建設産業にどのような影響が及ぶのか。マニフェスト(政権公約)や政策集インデックスなどから読み取れる変化の可能性について、建設分野の事業戦略立案を専門とする野村総合研究所の榊原渉氏が語る(ケンプラッツ編集部)。
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民主党のマニフェストなどから、大きく五つのことが言えそうです。
第1は、公共事業費削減です。誰もが指摘していることですが、民主党はお金を企業ではなく家計に入れようとしています。公的資本形成にお金が入らず、家計にお金が入れば、当然、セクターとして落ち込むのは建設業です。逆に家計周りの小売り業などは好影響を受けると考えられます。
マニフェストには国の大型直轄事業は全面的に見直すと書かれているし、政策の財源も公共事業費などから捻出(ねんしゅつ)することになっている。公共事業費はダイレクトに削減されるでしょう。これは建設セクターにとって影響が大きいと思います。建設業でも失業者が増えることが予想されますが、建設業に限らず、失業者には手厚く対応するというのも民主党の考え方です。
ただし、自民党も公共事業を減らすと言ってきました。一方、民主党も景気対策は必要に応じてやるという姿勢を示しており、その実行手段が公共事業になるのかもしれません。つまり、自民党政権と民主党政権でどの程度、差があるのかは現時点ではクリアに描けない。程度の差だという意見もあります。
今年度の公共工事は、自民党政権が前倒しで発注してきました。それを止めることはできないでしょうから、年度内の影響は限定的だと判断できそうです。影響は来年度から出始めるのでしょう。
第2は「官から民へ」の流れです。マニフェストで強調されています。自民党も取り組んできたことですが、民主党はそれをもっと勢いづけてやる感じがしています。特にPFI(民間資金を活用した社会資本整備)については、少しやり方を見直しながら積極的に取り入れていくということが語られています。
公共工事は減らし、でも必要なインフラ整備は進めるという相矛盾した問題に対する答として出てくるのが民活(民間事業者の能力活用)です。PPP(Public Private Partnership:官民連携)のような手法も含めて、いろいろな形態が出てくると思います。
私見ですが、全体として建設セクターがネガティブな影響を受けるなかで、官から民への動きはポジティブに受け止めるべき部分だと思っています。単純な請け負いから、場合によっては川上から川下を含めたバリューチェーン(価値の連鎖)展開に挑戦するチャンスです。とはいえPFIをこなしていくのは、下位企業ではなかなか難しいでしょう。
「明後日の話」が「明日の話」に
第3は「中央から地方へ」の動きです。民主党のマニフェストでは、地方の役割を重視するようになっています。地方整備局は廃止するとか、国の直轄事業に対する地方の分担金を廃止するとか、これまで中央で決めてきたことが地方に移管される流れです。
発注者の意思決定の構造が変わってくるということですから、これまで地方整備局に営業に行っていたものが、都道府県や市町村に行くようになることが考えられる。ゼネコンの官庁営業のやり方は、変わってくるかもしれません。地方に権限が委譲されて、好影響を受けそうな企業もあります。都道府県や市区町村への営業力を有する地場の建設会社は有利だと思います。
繰り返しですが、PFIのような高度な発注方式が重視されるようになると、上位の建設会社が強みを発揮しそうです。一方、地方に意思決定の構造が移ると下位企業によい影響が出てくる可能性がある。そうなると一番きついのは中間層の準大手や中堅と呼ばれる建設会社です。結果的に2極化に拍車がかかるとみています。
第4は、「官僚から政治家へ」の流れです。意思決定の主体が政治家に変わってくることも、公共工事に何らかの影響を及ぼすでしょう。政治家主導となると、やはり官庁営業のやり方が変わってくるのではないか。ただ、ここについては民主党がどこまでマニフェストどおりにやりきれるのか、この取り組みに対するトーンが落ちている気もするので、どこまで影響が出るのか疑問はあります。
第5は環境です。自民党も環境政策を掲げていますが、民主党の方が前倒しで実施するように読み取れます。これが、環境関連ビジネスにポジティブな影響を与えるのではないか。環境対応基準が厳しくなれば、リニューアル工事や環境対応工事が促される。ただ、国内排出権取引でつじつまを会わせるとなると、建設会社のビジネスチャンスはあまり大きくないかもしれません。
実は、自民党と民主党のマニフェストを比べてみて、大きな方向性は変わらないとも感じました。公共事業を減らす、地方分権を進める、民活に取り組む、環境規制をかける――という4点については、自民党も言っていることです。違いは、民主党の方に前倒しでやる姿勢が感じられるという点です。本当に実行されるのか不透明な面はありますが、実行されるならインパクトはありそうです。別の言い方をすれば、自民党政権ならば「明後日の話」だったものが、民主党政権によって「明日の話」になるということだと受け止めています。
建設会社は業界再編への対応を
では、このような変化が予想されるなかで、建設会社はどのような経営方針を立てるべきか。これまでにも主張してきたことですが、三つの方向性があると考えています。
1点目は狭義の業界再編への対応です。スーパー(超大手)、準大手、中堅、中小というゼネコンがいるなかで、公共工事の割合が高い準大手と中堅が、削減の影響を被ると考えるのが妥当でしょう。先ほど話したとおり、PFIはスーパーゼネコンなどの上位企業が得意としています。地方への権限委譲の恩恵を被るのが地場の建設会社ならば、準大手と中堅は苦しい。上を目指すのか下に行くのか、このクラスのゼネコンには、業界再編の圧力がこれまで以上にかかってくると思うのです。
当然、従来の業界構造は変化します。スーパーゼネコンが、生き延びられなくなった準大手を傘下に入れて、売上高3兆~4兆円の企業になるという選択肢が出てきてもおかしくない。準大手ゼネコンは準大手同志でくっついて第6のスーパーを目指すのか、それとも規模を縮小して地場ゼネコンとして戦うのか。地場のゼネコンにとっては、準大手や中堅のゼネコンが自分たちの土俵に下りてくる日が来るかもしれません。
2点目は業態改革への取り組みです。この先、請け負いだけやっていてもダメではないか。民主党のマニフェストに、政府の保有する資産を売却することが示されていましたが、未利用な資産は相当、売ってきたので、今後は使用中の公務員宿舎のようなものまで売ることも考えられます。その際、セールス・アンド・リースバック(物件の売却後にその物件を売り主が賃借する方式)なら、デベロッパーだけでなくゼネコンにもビジネスチャンスがあるかもしれません。
業態改革を進めるときに、建設プロセスの川上から川下まで自分で頑張って立ち上げることも一つの方法です。そうではなくて、例えば設計事務所を飲み込んでもっと設計力を上げるとか、ビル管理会社やエンジニアリング会社をくっつけて機能を強化するとか、バリューチェーンでみた川上・川下の周辺専業者と連携する手法も考えられます。業態改革は脱建設業を進めるということですから、広義の業界再編だとも位置づけられます。
PFIやPPPが普及するということは、発注者と請負者の関係が変わるということです。従来の請負契約だった部分が、サービス提供契約になる。この流れは官民の関係のなかだけではなく、民民の関係にも早晩、出てくるのではないか。政権交代が、それを加速するきっかけになるかもしれません。
3点目は海外展開です。個々に見ていけば政権交代によってポジティブな面はありますが、総論でいうと日本の建設セクターにとってはネガティブです。海外に活路を求めることも一層、必要になるでしょう。
これらの方向性は、私たちがこれまでに主張してきたことと、あまり変わりません。政権交代によって加速されるというスタンスです。
