ようやく蝉の鳴く声が聴こえてきた。
遮ることなく突き刺さる陽射しが痛い。
グラウンドは、すっかり乾ききっていて、黄色の土の上には陽炎が立つ。
太陽が真上に差し掛かった頃、グラウンドに水撒きを始める少女がいた。
少しだけ伸びた髪を後ろで束ね、体育着を肩まで捲り上げている。
気の強そうな大きな瞳と、たまに見せる白い歯が、よく日に焼けた肌とのコントラストを際立たせている。
少女が持つ、緑色の長いホースの先から、放物線を描いて水がほとばしる。
水のアーチの下には、ホログラムのように薄い虹が浮かび上がっている。
「あちぃ~・・・
でも、こうしていられるのも、あと僅かなんだなぁ。」
独り言を呟いていると、グラウンドの外から少女を呼ぶ声がする。
「タマ~!おはよ~!!」
「タマ!早いなぁ~!」
水撒き少女と同い年ぐらいの女の子達が叫んでいる。
どうやら少女は「タマ」と呼ばれているらしい。
「早くねぇ~よっ!あんたらも着替えて、グラウンド整備手伝ってよ~!」
呼びかけてきた子らに叫び返しながら、水を撒き続ける。
時計はそろそろ、12時を指そうとしていた。
「タマ~!練習は午後からにしようよ~!」
タマはため息を一つついて、水撒きをやめた。
最初に撒いた部分は、すでに乾き始めていた。
ここは都会からはかなり離れた、いわば田舎の中学校である。
地元の子は、小学校からずっと一緒で、公立高校も近辺には一つしかない。大多数の子らはそこへ進学するのが普通のことであった。
自然豊かで、世の中の時の流れとは、おおよそ無縁だと思われるようなこの町に、タマは生まれた。
経済的に決して余裕があるとは言えないが、のびのびとおおらかに育てられた。
部室でお弁当を食べながらキャッキャ言っている彼女達には、一見悩みなんてモノとは無縁に思えた。
確かに、大人達の言うそれとは意味も中身も違うだろうが、一人一人、それぞれ、大なり小なり抱えているものはある。
例えば、周りの子達の話を聞いてはいるけど、決して輪の中に入ろうとしないメガネの彼女は、都会の私立高に進学するべきか悩んでいる。
快活で話の輪の中心にいる、ベリーショートの彼女は、早くに父を失った。
家計を助ける為、早く働きに出ようかとの思いもあるが、今しか経験できない学生生活に未練が無いわけではない。
茶髪で少し派手めの彼女は、意中の男の子がいるが、中々告白するタイミングがなく、モヤモヤした日々を過ごしている・・・
・・・と、ここには、10数人の少女達がいるのだが、ささやかな事から将来に関わる重大なことまで、様々な悩みを抱えながら、毎日を精一杯生きている。
「そろそろ始めるよ!グラウンドに集合~!」
タマが呼びかけると、皆だるそうに部室を後にする。
3年生のタマ達にとって、最後の夏が始まった。
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