正月休み最後の土曜日、久しぶりに車を出した。
キーを刺し込み、イグニッションをONに入れる。
かじかむ手を擦り、エンジンが暖まるのを待つが、中々油温は上がらない。
息を吐く度に雲のような浮遊物が現れては消える。
外気との気温差で車内の窓が白く濁ってきた。
清潔なウェスで濁りを拭き取る。それが終わる頃、油温計の針が少し動いた。
ヒーターのつまみを一つ捻ってから、僕は車をゆっくりと出した。
心なしか道路は空いている。
鼻歌(という名の熱唱)なんかを口ずさみながら、ゴキゲンで幹線道路を走った。
大いに歌いすぎたか?窓が白くなってきた。
僕は鼻歌(という名の熱唱)を止め、ヒーターをエアコンに切り替えた。
休み休み10曲ほど歌った頃、あなたの住む街に着いた。
荷物を後部座席に載せてから、助手席に滑り込む。
発進しても、鼻歌(という名の熱唱)は必要ない。
あなたが色々お話を聞かせてくれるから。
電車で移動する時は、あまりべちゃくちゃお喋りはしない。
だけど車移動の時は、自然といつも以上に会話をする。
普段だったら、かいつまんで話す内容も、必要以上に遠回りしながら話が進む。
必要最低限の事を話したら、その話題はすぐに終了してしまう。
のんびりと、一瞬無駄に思えるような装飾も含みながら、あなたは話を続ける。
なんか、こういうことも大事なのかも。なんて思いながら耳を傾けていた。
一方僕は、運転に結構必死だったりする。新年早々事故とかは御免だ。
普段ツッコミ気味の僕も、運転中は『うなづきマシーン』と化す。
いっぱいお話してくれたお陰で、あっという間に目的地に着いた。
長い距離を全く感じさせなかった。
今日一日は、あなたの好きにさせよう。
そしてそれに黙って付き合おうと決めていた。
あなたはいつものように、山のような洋服の中から好みの物を探す作業に入った。
今日一日は、あなたの好きにさせよう。
例え、明らかに買うことはないであろう服を手に取り、悩んだとしても。
今日は黙って付き合おう。
例え、既に見た服を、もう一回見ていたとしても。
静かに見つめていよう。
例え、カゴに入りきらなくなった荷物を持たされたとしても。
正直、間にちょいちょいツッコミは入れてしまったけれども。
あなたへのシンプルな想いに、感情論は飲み込まれてゆく。
僕の瞳に映った満足気な笑顔に、僕自身も満たされていた。
その後、道を戻る形で移動。
大きなショッピングモールが僕らの目的地。駐車場が中々停められず苦労した。
ここでは特に何かを買うつもりは無かったけど、色々な物をいっぺんに見れるのは楽しい。
それよりも昼はとっくに過ぎていたので、僕は珍しく腹ペコになっていた。
なので、フードコートを彷徨ったのだけど、空腹なのに、これといって食べたい物がなかった。
結果、地下鉄を英語で表現したようなお店でサンドイッチを頬張る。
最初はあまり乗り気じゃなかったけれども、食べてみたらヘルシーで美味し。
巨大なショッピングモールを歩き、片っ端から店に入っては、あれやこれやと手に取って見る。
一人では行かないけど、女性物のお店を見る機会も多くなった。
色んな素材とデザイン。女性用のアパレルは種類豊富で、モノによっては価格も安い。
女性は色んな物があっていいなぁと感嘆するも、新しい自分に目覚めそうな気持ちを抑えた。
入った時は明るかったのに、出る頃には真っ暗になっていた。
日没が早い。
急いで帰る理由は無かったけど、遅くなる前にショッピングモールを出た。
帰りもいっぱいお話をしてくれたお陰で、どこでもドアかと思うぐらい早く帰ってこれた。
あなたの地元で食事をした。離れた席にいた酔っ払い学生集団が五月蝿かった。
注文した『フカヒレあんかけチャーハン』は美味しかったけれども。
地元を遠く離れると、心細さと漠然とした不安感に襲われる。
だけど、憑き物が落ちたような身軽さと、子供の頃に感じたような冒険心が甦る。
旅っていうほどの距離じゃなかったけど。
たまには遠くへ行くのもいいもんだと、帰り道の幹線道路を走りながら思った。