ゴールデンウィーク真っ只中の、

ある一日。

 

ちょっとしたことがきっかけで夫婦喧嘩。

プリプリするパパとママ。

 

こうやってヒートアップしているとき、

(しばらく距離を取ればすぐ仲直りできることがわかっているのに、)

とにかく言いたいことを言ってパパを言い負かせたい、喧嘩上等のママ。

(そんなママの性格は承知の上だし、極力喧嘩は避けたいが、)

言われっぱなしはしゃくに障るから言い返してしまう、パパ。

 

渦中にいるので子どもたちの様子が全く見えてない、パパとママ。

 

 

 

とりあえずお互い言いたいことを言って、

私はキッチンに逃げ夕食の準備に取り掛かろうとした、

そのとき。

 

 

 

 

・・・パリン。

 

 

 

パパが持っていたムカデ撃退スプレーが倒れて何かに当たって割れた音。

 

割れたのは、

玄関に飾ってある、

ガラスのケースに入ったプリザーブドフラワーとクマのぬいぐるみ。

 

わざとではない。

それは見てわかる。

それに、パパはそういうことをする人ではない。

 

 

割れてしまったもの。

それは、

私が小さいころからの夢だった

''学校の先生''

になった、社会人1年目の終わり。

クラスの生徒たちがお金を出し合ってプレゼントしてくれたもの。

なんのしがらみもなく、

ただただ教員として働くことが純粋に楽しかったあの1年。

素丸出しで、まるで友達のようだった生徒たちからのプレゼント。

 

 

 そんな、思い出の詰まったもの。

 かわいい生徒たちからの贈り物。

 いつでも、よく見える玄関に置いてあの頃を思い出していた。

 

なんて言ったら聞こえはいいが、

正直なところ、

 あ、そういえばそこに置いてあったな。

 あの頃は懐かしかったなぁ。

と、今日の事件がきっかけで思い出す程度。

 

 

 

たぶん、普段なら、

「あ、大丈夫だよ。ちょっと残念だけど。

割れたのはガラスの一部だけだし、中身はまだ飾っておけるから。

それより、ケガしなかった?」

と言える。

 

しかーっし今は、

お互い、イライラのピーク。

 

 

まだ決着のついていなかった喧嘩。

 

これは言い負かせるぞと、

「これは私の大切なものなんだ!!!」

「どうしてくれるんだ!!!」

の攻撃。

 

ごめんと言うパパだが、

その言い方が気に食わず、

「その謝り方はなんだ!!!」

「大切なものを壊すなんてサイテーだ!!!」

と攻めに攻め・・・。

 

 

結局、勝ったと判断した私はそれで満足し、キッチンへ。

 

 

 

 

料理をしていると少しずつ心が落ち着いてくる。

 もう少ししたらパパに謝ろう。

 子どもたちの前でちゃんと仲直りしよう。

 

あれ、そういえば子どもたち今の間何やってたんだろ?

いーちゃんはいつも通りブロックで遊んでる。

あーちゃんはいつも通りダイニングテーブルで何やら書いてる。

 

両親がガチャガチャやってても、

子どもはいつも通り過ごしていられるのね。

ごめんよ、子どもたち。

 

 

 

 

 

ママが落ち着いてきたのを察したのか、

あーちゃんがママのところに来て、

「ママ、今ママにお手紙書いてるからね。

料理終わったら見せてあげるね。」

と。

 

よく「ままだいすきだよ」という文字と、ママの似顔絵を描いた手紙をくれるあーちゃん。

お手紙をくれる度、

ママの宝物だよって言って受け取り、

もう山盛りいっぱいになってるママの宝物。

それがまた増えるのね、嬉しいわ。

 

 

料理にキリがついたころ、

「ママ、はい。」

と言ってみせてくれたお手紙は、

ちょっといつもと違う。

クマとお花の絵?かなぁ?

「これはなぁに?」

と聞くと、

「ちょっとこっちきて。」

とあーちゃん。

 

 

あーちゃんが指さしたものは、

さっき割れてしまった、

ガラスのケースに入ったプリザーブドフラワーとクマのぬいぐるみ。

 

 

 

 

 

 

感激して、

ぽろぽろぽろぽろ流れ落ちる涙。

 

ママの大切なものが割れちゃったから、

その絵を描いてくれたんだね。

ママのために、描いてくれたんだね。

 

あーちゃんをぎゅーっと抱きしめて、

何度でも何度でも、

「ありがとう。」

を言った。

 

 

 

 

 

どうしてあーちゃんはこんな気遣いができるんだろう。

いつの間にこんなに大きくなったんだろう。

 

 

まだ幼い、目の前の娘が、とても大人びて見える。

 

 

 

 

 

 

 

色褪せてしまっていた、あの頃の思い出。

あーちゃんのおかげで、

新たな思い出という彩りが加わった。

 

大切なものが割れて悲しむママを、

喜ばせようとしてくれた、あーちゃんのやさしさ。

 

 

 

 

 

 

ありがとう。

ママはもう少し大人にならなきゃね。

 

 

そのあと、

ママとパパは平和に仲直りをしましたよ。

これも、あーちゃんのおかげだね。