改めて金魚の生命力の強さに驚きつつも、これをきっかけに、着実にある思いが強くなっていた。
「自分の水槽が欲しい。」
10年前の様にとは言わない。けど、もう一度あの感動を味わいたい!押さえられない衝動がふつふつと湧いてきた。
実は家内は当時、妊娠9ヶ月目だった。
ギリギリまで勤めて、もうすぐ二歳になる娘を保育園に入れ頑張っているのだ。
そんな状況でとてもじゃないが、1800を置きたい等とは言えない・・・よね・・・やっぱ。
まぁ、いい。とにかく小さくても構わないから、自分の水槽が欲しい。アロワナやエイは無理でも、自分の世界が欲しいのだ。
ある趣味から離れた人は、いずれまた戻ってくるという。ちょうど、海に出たシャケが産卵の為に故郷の川に帰ってくる様に。
うん、そうだ。これは自然な事なんだ。
なるべくしてなる事なんだから仕方が無い事なんだ。と自分に言い聞かせていた。
優しい読者の方には、水槽一本でそんなに考えなくても。とか、趣味の一つ位良いんじゃない?とか思ってくれる方もいらっしゃると思う。でも。自分を知っている人間にしてみれば「ヤバいな、それ。」となる。そう、熱くなると歯止めが利かない質なのだ。今までにも、魚、爬虫類、犬、釣り、写真、車、オーディオとどれもそれなりに金のかかる趣味を気が済むまでやってきた。
でも、今は状況が違う。結婚し、二人目の子供が産まれようとしてさえいる。
とにかく考えていても始まらない。家内に相談してみよう・・・。思い切って打ち明ける事にした。理由の一つに金魚達が大きくなったら使うかも知れないし。というもっともらしい内容も添えて(笑)返事はあっさりOKだった。
そうと決まれば善は急げだ。早速翌日に近くのショップに行く事にした。
そして翌日。
「あのー、水槽が欲しいんですけど。」
店員「大きさはどの位ですか?」
「そんなに大きくなくて良いです。」
店員「何を飼われるんですか?」
この時に初めて、何を飼うのか決めていなかった事に気がついた。
ふと、辺りを見渡すと、可愛らしい水槽にレッドビーシュリンプがたくさん泳いでいた。とっさに「あんな風なのも良いですね。」と答えると、「あー、あれなら36センチ水槽ですよ。場所もとらないし。」
心はエビよりも水槽に取られていた。
それは、ガラスで組まれた美しい台に、透明感いっぱいのオールガラス水槽、脇にはこれまたガラス製のパイプが水槽にかかっておりフィルターやボンベと繋がっていた。中には緑いっぱいの水草たち。とても清涼感が漂っていた。
ふと、水槽に目をやると「ADA」と書かれたシールが貼られていた。「なるほど!」と思った。ご存じの方も多いと思うが、このメーカー、天野さん率いる水草水槽の先駆者的存在なのだ。その製品はどれも美しく、機能美に溢れている。
店員が何かを察した様にこう言った。
「今一番出る大きさなんですよ。」
今から10年以上前は、バブルの影がまだ色濃く残っており、大型魚が相変わらずの人気だった。故に水槽もコスト的に安いアクリル製が主流だった。そこから日本経済の縮小と共に水槽のサイズまで縮小してしまったようだ。
よし、これにしよう!
何を入れるかは後から考えよう。
生まれて初めて購入した36水槽。
片手で持てる程の軽さだったが、夢が一杯に詰まっていた。