現実は、小説より奇なり
なにごとも、体験してみないと分からない

だからとりあえず、色々挑戦してみればいい


***** digimon/ Takeru


あの日から、もう十年以上が経った
僕たちが、デジタルワールドに飛ばされて、かけがえのないパートナーに出会ったあの日から
今考えると、死と隣り合わせの日々だった
だけど、幼かった僕はそんなこと気付いてもいなかった
本当に、良く生き残れたなって思う
きっと兄さんや太一さんのお陰だ

でも
僕は僕なりに考えてはいたんだ

特に、二度目の冒険の時は兄さん達と同じ年になっていたし、考えてた
なぜ僕たちはデジモンに、パートナーに出会ったのか
なぜ僕らはまた、選ばれたのか
冒険の中で、答えが出たこともあったし
未だ考え続けているものもある

まぁ、それもいいかって今は思ってる
だって…もう、遠い過去の話だから
でも、それは忘れることじゃない
むしろちゃんと整理すること
だから、僕は書こうと思うんだ
僕らが経験した様々な冒険のことを

僕の、作家として初めての作品

あの日のことを、もう一度
名前は、一番短い『呪』だ
他者から呼ばれる名前も
自分を指し示す名前も

全ては、存在をその空間に呼び起こすため

名は体を表す、というが
人は名前に強く縛られている
良くも悪くも、人は名前によって魂の在り方の選択をしている

だから、どう呼ばれたいか
どう呼びたいか

もっと、名を大切にして、
世界で一つだけの、貴方だけに与えられたものなのだから



* * * * * digimon/ Mimi


ねぇ、と私は声をかける
どうして貴方は「僕」なの?

それまで規則的に響いていたタイプ音が一瞬とまる
私も、読んでいた雑誌から顔をあげる
良くわからないという顔の彼と目が会った

いきなりなんですか?と彼が聞き返す

いや、別に深い意味はないのだけれど…
と私は口ごもる

だけど?

貴方は、きっと自分のことを「俺」とは呼ばないんだろうなぁって思ったのよ

彼はちょっと驚いた顔をして、その後いたずらっ子のように笑った
…ミミさんは、言ってほしいですか?

んー、と私はまたまた考えこむ
この人が、自分のことを「俺」という姿は正直想像出来ない
だって、優しくて、礼儀正しい貴方には、なんか似合わないもの

彼は、そうですか、と一言もらしただけだった
どことなく、彼が嬉しそうな顔をしたような気がしたのは、気のせいかしら

そう、彼に『俺』は似合わない
似合わない彼のままでいてほしいと願うわ
日本には、たくさんの雨がある
しとしとと、花を散らす春雨
ただ静かに、でもまとわりつく様に降る霧雨
唐突に訪れて、瞬く間に去ってしまう時雨
夏の終わりに、寒さを強く感じさせる静かな秋雨・・・

日本には、四季折々の雨がある
自然と共に生きてきて、その恵みに感謝してきた日本だから
雨がもたらす、水の恵み
今の私たちは、それをどれだけ覚えているんだろうか




* * * * * reborn/ Takeshi





雨が降ってきた
太古の昔から、俺たちに恵みをもたらし、
そして全てを洗い流してくれるもの
それが、「雨」だ

久しぶりの雨音に
俺は、書類からそっと顔をあげる
日本の様に、様々な雨があるとは言い難いが
イタリアでも同じ様に雨は降るのだなっと、改めて思う

日本に住んでいた頃はあまり意識しなかったが、
遠く離れた今になって、しとしとと降る秋雨が好きだったなぁと感慨深い想いに浸ったりする
なにより、雨が降ると嫌が応にもあの日を思い起こしてしまうのな
「雨」の守護者として、リング争奪戦で戦ったあの日の事を
俺の人生を、決定的に変えたあの日の事を、思わずにはいられない

あの日から、色々な事があった
現代はもちろん、未来でも色々とやらかしたな

・・・あー、
なんか知らない内に、随分と遠いところまで来たって感じだな
最初はちょっとふざけて遊んでただけなのに、
いつのまにか日本を飛び出して、こんなヨーロッパで仕事してるなんて信じられないな
ただの野球バカだった俺が、このヨーロッパのど真ん中で、『マフィア』をしているなんてな

今、俺がここにいる事をツナは、まだ悔やんでる
アイツは俺を巻き込んだと思って、まだ自分を責めるんだよな
「君から、野球をとってごめん」って
アイツは、いつもそればかりだ

…確かに、獄寺やランボみたいに元々マフィアだった訳じゃない
俺はただの野球バカだった
でもな、この道は俺が選んだんだ
腕を怪我して自暴自棄になっていた俺を止めるために、
迷うことなく動いてくれたのはアイツだけだった

あの時に決めたんだ
俺は、アイツのために生きると

ツナは、優しすぎるんだ
何に対しても、優しすぎる
その優しさは、時に自分をひどく傷つける
それに、アイツはまだ気付けてないんじゃないかなっと思うぜ

俺は、お前の「雨」の守護者なんだ
罪を完全に消す事は出来ないかもしれなくとも、亡き命に清めの雨を捧げよう

優しいお前がこれ以上泣かないように、
俺はお前の側にいて、重ねられる罪を少しでも、洗い流そう

俺は、選んでお前の側にいるってことを忘れるなよ
なにより、「大空」無くして、「雨」は降らないからな
人はいつだって、無い物ねだり
本当は、誰だってすてきな「珠」を、その身に持っているのに
他の人のものばかりに目がいって、自分の良さに気がつかない
無いものばかりを求めるその心は、自分を見る目を鈍らせれる
すこし、目を向ければ、そこにあるのに、気がつけなくなってしまう

誰だって、特別な「珠」を、もっているんだ
貴方には、貴方だけの良さが、あるという事を忘れないで

* * * * * digimon/ Takeru

僕は、弱虫だった
僕は、泣いてばかりだった
あの突然の冒険に巻き込まれたとき
僕は、一番幼いからと、甘えていた

太一さんに、空さんに、丈さんに、光史郎さんに、ミミさんに
そして何より、兄さんに、甘えていた
兄さん達だって、きっと辛い事があったはずなのに
僕は、幼いという事に甘えて、辛い事から逃げていたんだ
周りの優しさに甘えていたんだ

・・・それが、君との出会いで変わったんだ
君は僕と同じ年だったのに、
それなのに、とても強い心を持っていた
本当に、君は心が強かった
恐ろしい敵を前にしても、逃げなかった
大切なパートナーのために、自分の危険も顧みずに立ち向かった

その強さが、僕にはとても眩しくて、そして辛かった
甘えるばかりだった自分が、恥ずかしかった
幼いから、何も出来ないと決めていた自分が、恥ずかしかった
闇に対抗出来るもう一つの紋章
それを僕は持っていた
だけど、それを使う事が出来なかった
僕の心が強くなかったから・・・

僕は、君の様になりたいと、強く思った
誰かに守られるだけではなく、守りたいんだと
君がみんなの光となったように、僕もみんなの希望になりたかった
光と同じ様に、希望をもたらせる様にならなければ、と強く強く思ったんだよ
人は二度死ぬという
一度目は、生物学的な死
つまりは、心臓が止まってしまうという、肉体の死
そして二度目は、忘れられるという死

この世界のどこにも、思いだしてくれる人がいなくなったとき、
存在が全て死するのだ

でも、きっとそれも些細なことなのかもしれない
人間も、動物も、植物も、すべては大きな流れの欠片なんだと思う
一つ一つの命はとても尊くて、大切であると同時に
些細で、小さな存在でもある

それでも一生懸命生きたい
少なくとも、周りには自分をとても大切に思って、愛してくれる人がいるから
私たちは、他者によって生かされているのかもしれないと思う




* * * * * original/ Kazu




からだが、ひどく重たい
それに、ひどく寒いですね
それに加えて、目の前も真っ暗なんて、最悪です

あぁ、
暗いのは、まぶたを押し上げるだけの気力が無いだけでしたね

もう余計なことに力を使う気力も残っていないのです
静かに、自分の命が残り僅かな炎を灯すのを感じるだけです

元々、「忍」という職業柄、あまり長生きは出来ないだろうと覚悟は致しておりました
それでも、これは少々早すぎる気がします
私はまだ、十六歳ですよ
あと4、5年は現役でバリバリ活躍する予定だったんですよ

それに、やっとあの人ともう少し親しくなる予定だったのに
どうして人生これからって時に、僕は一人で死を迎えねばならないんでしょう
どうして、こんなことになったんだろう? と自分でも疑問です
そんなに難しい仕事ではなかった
別段気が緩んでいた訳ではなかった

ただ、敢えて言うならば、今回は「運」が悪かった
守り手が、あの術師であったことに、かなりの衝撃を受けてしまいました
不覚でしたね
思考が止まってしまったあの一秒に、私の運命が決まってしまったのです

・・・嘆いても、もう、どうにもならない
先ほどから心臓がどんどんと、ゆっくりになっています
もはや、もってあと数分でしょう

せめてもの救いが、仕事そのものは達成した事です
やっと入手した、この事実だけでもミナ様にお伝えしなければ
神殿まで、《念》を飛ばしたけれども、ちゃんと届いたでしょうか
あの方は、ちゃんと見て下さったでしょうか

・・・まぁ、大丈夫でしょう
今回の仕事は、これからの民の道筋を決めるためにも大切な情報を入手する事でしたから
民の平和を、心から願う優しいあの方ですから、きっと見てくれているでしょう
あの方なら、あの情報の真意に気付く事が出来る
そしてきっと、血で争う事の無い、平和な道をきっと見つけて下さる

あぁ、もう時間が無いようです
本当に残念です
もう少しあの方の側に居たかったし、話もしたかったのに
それに、あの方と交わした沢山の約束も、果たせないままです
悔いは残りますが、もう、どうしようもありません
私の命が果てたとしても、私の探し出した情報はきっとあの方に届く
そして少しは、あの方を助けてくれるだろう

そう考えると、この世界を、すこしでも良いものにするために
私は微力ながら手伝えたと、そう言っても良いでしょうか?
良いですよね?
だって、そうじゃないと死にきれませんよ

あぁ、
本当に申し訳ないが、少し眠らせて頂く事に致しましょう
もう、起きる事は無い眠りです
・・・私の命が果てたとしても、私の探し出した情報はきっとあの方に届く

どうか、どうか、あの方が私が託した最後の仕事を、見てくれています事を願いましょう

それでは、
おやすみなさい