だからぱらっぷるだtt
部屋の外から足音が聞こえれば、ドアの前まで出迎えに行ってしまうのは癖だと思う。
出迎えた私を見て、ちょっと笑う彼が好き。
たまに頭を撫でてくれるのも好き。
ただ、今日は、なんだか、嫌だった。
嫌いではないけれど、嫌な匂い。
薔薇の匂い。
いつものルッツさんとは、違う匂い。
「どうかした?」
窺うように顔を覗き込まれた。
嫌な気持ちがそのまま表情に出てしまってるのは分かってるけれど。
「なんでも、ないです。」
「でも、ほら。」
ちょっと困ったような顔で、眉間の皺を伸ばすように撫でられても、彼が動くたびに香る薔薇の匂いが、さらに私を意固地にさせる。
「なんでもないです。」
「本当にどうしたの?」
「なんでもないんです!」
やめてと叫びたい。
触れられるのは嬉しい筈なのに、鼻先を掠める薔薇の香りが、気持ちをさらに荒れさせていく気がして仕方がない。
ぐいと彼の胸を押せば、彼は困惑の色を深くする。
「お風呂、用意してますから。冷めないうちに入ってください。」
「や、でもさ。」
「入って、ください!」
ぐいぐいとかなり強引に脱衣所に押し込んで、扉の横でしゃがみこむ。
すごく嫌な気持ち。
私の知らない匂いのするルッツさんは、嫌だ。
こんなことで嫌な気持ちになってしまう自分も嫌だけど、でも、やっぱり嫌だ。
もやもやした気持ちと一緒に膝を抱えてると、ルッツさんが浴室から脱衣所に移った音が聞こえてきた。
まだあの匂いがしたら嫌だな、その時はどうしよう。
そんなことをうだうだと考えていると、かちゃりと扉が開いた。
見上げると、ルッツさんが驚いた顔で私を見下ろしていた。
「ヴィンテ?」
私の目線に合わせる様に、ルッツさんが少し腰を落とす。
そんな彼の動きに合わせて香ったのは、お風呂上がりの、石鹸の匂い。
私の知ってる匂い。
ささくれ立っていた気持ちが、随分と穏やかになっていく。
「こんなとこでどうしたの?」
「なんでもないです。」
「でもさ。」
「ルッツさん。」
「ん?」
「お帰りなさい。」
ようやくいつもの気持ちで、いつもと同じように言えた言葉。
彼もさっきとは違う、いつもの笑顔で言ってくれた。
「ただいま。」