パラレルなSS


























どんなに忙しくても、三食は欠かさないこと。
そんな祖母との約束を守ろうと思うと、どうしても一回の買い物で買い込む量が増えてしまう。
私1人で消費することになるから、日持ちするものをと考えるとどうしても根菜が多くなってしまって、嵩張ってしまうから。
右手には籠、左手には籠に入りきらないバケット。
ずしりと重い籠を持ち直した時、前方に見慣れた青い髪が見えた。


―あ……。


こちらに気付いていない背中が寂しくて、慌てて追いかける。
重たい籠のせいで、逸る気持ちほど距離が縮まらないのがもどかしくて仕方がない。
だから声をかけようとしたけれど、足音でか、それとも気配でか、彼は噴水の前でこちらを振り返ってくれた。


「あっ、ソフィア。」


気付いてくれて、名前を呼ばれて。待っててくれて。距離が縮まって。それに、彼が笑顔で。
そんなことが嬉しくて笑みが浮かんでくる。


「こんにちは、クラースさん。お散歩ですか?」


「うん。いいお天気だしね。ソフィアはお買い物?」


私の荷物を見て少し首を傾げた彼に、ご飯の材料を買いにと返す。
すると彼は、重いだろうから持つよと言ってくれた。
けれど申し訳ないし、自分で持てる範囲だから大丈夫です、そんなやりとりを3度繰り返して。


「僕だって男なんだし、持つよ。」


ほんの少し、いつもより強い口調で言いきった彼が、籠に手を伸ばす。
彼の意図を察してしまったのが、いけなかったのだろうか。


「でもっ……!」


私が少し籠を持つ手を動かしたら、偶然、本当に、少しだけ。
手が触れ合った。
お付き合い、してはいる。ううん、してる。
ただ、それでもまだ、私達は一緒に日常を過ごすことにすらなかなか慣れなくて。
触れ合うなんてもっての他で。
だから私達は、オーバーなまでのリアクションで距離を取ってしまった。
それがいけなかった。
だって、彼の後ろには噴水があったのだから。





わわわわっと悲鳴を上げ、ふらついた体を立て直そうとしたけれど上手くいかなくて。
結局彼は、小さな水柱を立てて噴水に落ちてしまった。


「クラースさんっ、大丈夫ですか!?」


「痛たたた……。ソフィアは大丈夫?濡れてない?」


「私は大丈夫ですから、クラースさんは!?」


「僕は平気だよ。……冷たいけど、ソフィアが大丈夫なら良かった。」


怪我はないようで、ほっと胸を撫で下ろしつつも、真冬の水は突き刺さるように冷たい筈。
このままでは風邪をひいてしまうから、そう思って、手を差し伸べようとしたら―


二つ目の、小さな水柱が上がってしまった。


「わわっ、ソフィア、大丈夫!?」


「だ、大丈夫です。クラースさんこそ大丈夫ですか?濡れてませんか!?」


「大丈夫、既に濡れてるか―」


そこで、しっかりと目があった。
普段なら、嬉しくて、恥ずかしくて、すぐに目を逸らしてしまうけれど、今日は。
噴き出したタイミングは完全に一緒だった。
冷たいのに、二人してくすくすと笑い合う。
しばらくそのまま笑ってたら、彼が先に立ちあがって、少し照れながら手を差し伸べてくれた。
ずっと、こんな風に過ごしていきたいな、そう思いながら、私より少し大きなその手に、自分の手を重ねた。
少し、照れながら。










「ごめんね、荷物も濡れちゃったね。」


「お野菜ばかりですから大丈夫です。パンはまた買いに来ますし。」


「じゃあ、着替えたら一緒に買いに来よう。」


「はい。」