先日、クライエント様から、産休に入る前の途中経過として、当相談室の貴重なカウンセリングの感想を頂きました。一件でも虐待問題を減らしたく、私の臨床経験もシェアしたいと思います。子育て世代の方には、是非知っていて欲しい内容です。


〜家庭内暴力の悪影響〜

「暴力がいけない」とは頭ではわかっていますが、何故ダメなのか、皆さんは理由を明確に述べられるでしょうか?


どれほど広範囲に影響が出るかお伝えしたいと思います(下記は典型的な一部の影響で他にももっとあります)


①否定的感情:

まず暴力では、本当に親が教えたかった教育内容は伝わりません。伝わるのは痛み、憎しみ、怖さ、悲しさ、孤独、無力感、罪悪感など。


②否定的自己概念:

①が長年、強烈に繰り返されると、子どもには、歪んだ否定的自己概念が徐々に形成されはじめます。「私は嫌われている」「私はダメな人間」「私は暴力を振るわれて当然の人間」など。


③意欲:

この②自己概念が固まると、より大きな影響が出始めます。そこに虐待者がいなくても、自信をなくした子どもには、新しい事にチャレンジする意欲がなくなる、勉強やスポーツに打ち込めないなどの問題が、間接的に出て来ます。


虐待者はまさか自分が原因と思わず、努力できない事も、全て子どもの責任にしがちで、より責める回数が増え、被害が拡大していきます。


④人間関係:

「自分はこんなに最悪な人間なのだから、お友達に受け入れられるはずがない」と考え、人間関係に怯え、消極的に。人の目が気になり、毎日気を使い、のびのびできない。楽しめない。 


自己主張もできず、いじめられやすくなる。うまくいかないので、余計に自信をなくして不登校問題などに発展。それを虐待者になじられ、さらに家庭内では居場所がなくなっていく。


⑤兄弟関係:

平等に被害を受ける場合もありますが、臨床経験上、兄弟で差別されて虐待を受けているケースが圧倒的に多かったです。


①〜④の流れの中で、被害児は気持ちの逃げ場がなくなります。なのに、無条件で他の兄弟は可愛がられる。同じ事をしても怒られない。当然「何で💢」となり、そのはけ口は、親でなく、兄弟に向き、第二の暴力を産みやすくなる。


第二の暴力がなくとも、一見優遇されているように見える兄弟も、全く居心地のよい環境ではなくなります。暴力を振るわれていない子も、暴力を目撃するだけで悪影響を受けます。


大人でも、町で大きな怒声を聞くと怖いですが、それが家庭内で毎日のように繰り返されるのは、恐怖体験。


直接暴力を振るわれているかどうかは関係なく、家庭内で、夫婦、親子、どこに暴力があっても悪影響は出るのです。


⑥虐待者ではない親との関係(:虐待者が父であれば、母と子の関係):

虐待者のパートナーと、被害児の関係は、暴力を振るっていなくても、もれなく悪くなる事が多いです。


虐待者(例えば父)は、家庭内で経済的にも身体的にも圧倒的な地位を確立しているため、パートナー(例えば母)は家庭内のバランスを取るため、完全に子ども側に味方する事は困難となります。(:父がこれ以上ヒートアップしないよう、ご機嫌を取るため、子どもが悪くなくても「謝りなさい」と言ったり)


その態度は子どもから見ると、まるで父側についていて、自分には味方がいないように見える。母にはそうでなくても、子どもはそれを見て孤独を感じ、結局、兄弟、両親、誰とも愛着形成が困難となりがち。


⑦社会適応:

①〜⑥を経験した子どもは、臨床上、過剰適応(認められたくて頑張り過ぎる)か、問題をおこす(学校で暴力を振るい問題児扱い)か、無気力(不登校 引きこもり)の方が多かったです。


⑧身体症状:

①〜⑦までこれだけ無理をすると、当然体は悲鳴をあげます。頭痛、腹痛、不眠、過眠、食欲不振、食欲過多、IBS、潰瘍など。ありとあらゆる症状が現れます。検査では異常がないのに長引き、これが、さらに社会生活を送る上での妨害要因となり、ますます生きづらくなります。


⑨経済問題:

暴力の影響で、精神的にも肉体的にも疲労するため、学校に安定して通えない、会社に行けないなどの問題はセットになって起こりやすくなります。経済的に自立したり、家庭を持つ事が困難になり、生活保護を受け、将来の見通しも持てず、苦しんでいる方は沢山います。


⑩虐待者との永遠の溝:

さて、皆さんは上記の暴力の影響について、どれくらい想像できたでしょうか?一般の方でもここまで想像するのは難しいですが、虐待者がこれらの原因が、まさか自分にあると想像するのはもっと難しくなります。


理由は、「自己正当化」です。自分が悪い人間なんて誰も思いたくない。加害の自覚があっても、うまくいかないことや、子どもが自分に反抗的である事は、全て子どものせいにしておきたい。


よく耳にするのは「親に向かって何だその態度は💢何だその口の聞き方は💢

(「子どもに向かって何だその口の聞き方は」と、親に叱る人が、現場にいないのはとても残念💦)


つまり、「子どもが100%悪い」とされるパターンが圧倒的に多かったです。だから、子どもが大人になって、親に辛かった事を伝えたくても、逆に「お前が、わがままだから仕方ない。暴力振るって当たり前だ」などと言われ、理解は得られず、余計に傷つく事が多いです。


この問題、今まで見てきたほぼ全ての虐待家庭で起こっています。そして、親が非を認めず子どものせいにすればする程、親子間の溝は深いものとなり、二度と関係は戻らなくなります。


仮に謝罪があっても、ここまで深く長年刻まれた溝は、カウンセラーであっても取り戻す事は困難です。 


そのため、絶対に親子の距離を、無理矢理、理想の家庭にあてはめて縮めるような事をした事はありません。(親子両方が修復を望んでいる場合は例外で、家族カウンセリングを時間をかけて行ってきましたが、本当に容易ではありません💦)


必ず被害を受けた方にお伝えしているのは、

「あなたが、今心地良いと思う距離が正解です。どんな距離であっても、今この瞬間瞬間で出している答えが全て。でもあなたが望んでこの距離にしたんじゃない。最初から親を恨みたくて生まれてくる子どもはいない。この距離は、最後に下される『親の成績表』と思っておいて下さい。きちんと正しい子育てができた親の元には、無理矢理でなく、自然と子どもは帰りたくなります。そうでないなら、そのような子育てを親がしてきたということ。決して距離を取る自分を責めてはいけない」


と話しています。絶対に虐待を受けた子ども側が罪悪感を持つ必要はありません。


「危ないものから遠ざかる」というのは、生存本能であり、当然の事なのです。社会的体裁より、「ご自身の心身の安全と、ご自身が一番大切にしている存在の安全」を第一優先に考え、人生の選択をして下さい。


だから、親側は暴力を絶対に甘くみてはいけないのです。振り上げたこぶしのその先に待っているものを、一秒待って想像して下さい。深呼吸して下さい。これで失うものは何か。


子どもはしっかりと真実を見ています。


子どもの頃は、親子の圧倒的な立場の違いで、思い通りにできたとしても、子どもはどんどん成長し、沢山の人に出会い、学び、賢くなり、客観的に物事を捉える力がついてきます。


そして、「自分の家庭を振り返る瞬間」が、必ずやってきます。特に、自立したり、結婚、妊娠、子育てが考える機会になる事が多いです。


そんな時、「この家に生まれて良かった」と思うのか、「辛かった」と思うかは、「子ども側」が決めます。


よく、虐待者から「これだけ育ててやったのに。感謝がない。辛かったと思う方がおかしい。」などの発言が聞かれる事がありますが、家庭を振り返った時にどう思うかは、「子ども」が決めます。


子どもには、感情があります。

子どもの感情を決めるのは「子ども自身」です。


これまでの人生を振り返って、胸に手を当て、何も取り繕わずに出てきた気持ちが、子どもの素直な答えです。


完璧な親はいませんが、時々失敗したとしても、「概ね」うまくいった子育ての場合、子どもは「自然と」親に愛着を持てます。自立後、離れて暮らしていても、優しい気持ちで親に対して、「今どうしてるかなー。久しぶりに実家帰りたいなー。声聞きたいから電話したいなー」という気持ちになります。


ところが、あまりにも失敗しすぎて、途中で学習も、修正もない子育てが、長く長く続いた場合は、厳しいですが、子どもから「家はしんどかった。」「実家とはできるだけ距離をおきたい」という判定が下されます。


どんなに、一生懸命経済的に家庭を支えて、家事をして、お世話をしても、あまりにも間違いが多く、バランスの悪い子育ての場合、せっかく、親「一生懸命子育てした」と思っている事が、霞んで見えなくなるのです。非常にもったいない💦


小さい時には、大人しく従っていた子どもが、成長して賢くなってから、親子の亀裂が決定的なものとなり、時限爆弾のように問題が表面化した家庭を、沢山見てきました。


そのため、倫理観のないまま、悲しい未来が待っている事を知らないまま、無知で子育てするのは、とても危険だと思っています。


産んだら誰でも親になれるわけではない。


どんなスタイルで子育てしても自由ですが、自分のした事は、必ず思わぬ形で、思わぬタイミングで、時を超えてでも自分に返ってきます。


これらを理解した上で子育てする事は、とても重要だと思っています。


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