鏡を気にしだしたのは、五年生ころかなぁ、
朝の寝グセが女の子の前では「ダサい」と。
彼女がいないころは、
もっと、もっと鏡の前にいて、
じっと見つめていた気がします。
そして、いつしか「自然に微笑む」練習してたような、
ボクが今でも苦手の「自然な微笑み」を。
ダバオ
6:30
お隣のビンセント(男子18ヶ月)が、
中学生の姉から「ビンセーント!何やってんの!」
野良ネコ、ニワトリ、三匹の老番犬の落としモノがある、
狭いコンクリート通路を裸足でペタペタ、
お下がりの白いシャツの裾から、
小さなオシリを出したまま。
続いて、
お母さん「ビンセーント!スリッパ履きなさい!」
そこへ、ここで預かっている、親せきの中学生の女子二人が加わり、
実業団柔道部の乱取り稽古なみの声、
お隣さん、控え目に言っても、
声がデカいです。
ぁ、でも家族は仲良し円満ですょ(笑
普通の会話も、
大通りを挟んで叫び合うようなボリューム、
引っ越してきた当初「ヤバいとこ来ちゃったなぁ」
ですが、
日中、いちいち大騒ぎするせいか、
夜は仔犬のように物音一つたてずに、
スヤスヤ寝てくれます。
まだほんの数語しか発せられないビンセント、
女子軍団からの攻撃に対し、
コトバの応戦が出来ず、
ただただ「泣き返す」のみ、
お腹が空いた、オムツを替えて、暑い、寒い、
周りへは、全て泣いて知らせ、
彼が出来るのは、そのボリュームでの意志表示のみ。
女子軍団のパワーが尽き、
「発話」終了と共に静けさが戻った朝、
ボクの玄関ドアのすき間から、
黒い御影石のような瞳がジッと覗いています。
不思議と、
ビンセントが見つめているのはわかります。
ほどなく、お母さんの「ビンセーント!」で、
二つの瞳がドアのすき間から、スッと消え、
ボクは、飲みかけのコーヒーカップを手にします。
9:00
玄関前、しゃがんでサロモンシューズのコードを締め上げ、
ふと、ビンセントが裸足でわきに立っています。
大きな瞳、やわらかな頬はちょっとゆるみ、
口もと数本の歯が見えます。
試合に負けた野球部のように、
短く刈られた髪はやわらかそう。
ボクはそおっとビンセントの頭へ、
手のひらをのせ、
ビンセントは穏やかな顔でボクを見つめ、
ボクも微笑みかえし、
「自然な微笑みが出来ていますように」と。