シドニーのヒヤフォード(Hereford)ユースホステル滞在中、
WWOOF(ウーフ/発音難しいです)というファームステイの協会へ、
郵便為替17(たぶん)ドル分を送り、加入ファーム一覧の小冊子を受け取ります。
小冊子はコピーをホッチキス留めの、いかにも手作り風、
原資はおそらくタイプライター打ち、二十数年前ですから。
シドニーから2時間ほどの田舎の駅へダットサントラックで、
迎えに来てくれたのはアーサー。
ボクはリュックサックを膝に乗せ助手席へ、
砂利のゆるい登り坂をガタガタと揺られながら、アーサーの話を聞きます。
山というより、見渡す限り低木の小高い丘が続き、
アーサー「一番近いお隣さんは4キロ、病院までは遠いぞ~、アハハハ」
ボク「アハハハぁ/ マズいとこ来ちゃったなぁ」(笑)
アーサーとナンシー夫婦は教師を退職後、この小山を三つほど買い、
電気フェンスと区分け柵で区切り、肉牛子牛を育て、
ボクは午前中そのお手伝いをして、無料の宿泊と食事をもらいます。
それがファームステイの一般的なスタイルですが、
アーサー夫婦は、夫婦とボクたちのようなヘルパーとの
「出会いの場」という機会がお互いに大切、と考えていたようです。
ボクは呼び声が届く程度に離れた小屋で寝泊まりし、
小屋のドアを開けると、正面に田の字の窓、その下に蛇口と小さなシンク、
水はアーサーが「空から」というように屋根に自作の雨水ポリタンク。
木枠のシングルベッドはそれまで8ヶ月間、相部屋、二段ベッド生活の、
ボクには嬉しいよりも、ちょっぴり寂しい感じ(いびきナシで良く眠れましたが)
まずは、当時お気に入りのアールグレイ(発音難しいです)をと、
白いホーローが所々剥がれたポットを蛇口下へ持っていき、
蛇口を開け水が出て一安心。
白いホーローの中にはまっすぐと、Cの字を繰り返しているボウフラ(笑)
そのまま流して、もう一度。
次は澄んだ水に、中の水垢が見えるだけ、合格(笑)
6:00
ひと抱えのサイコロ状に、ポリ紐で縛られた乾燥牧草を、
手でほぐして子牛に与えるのが日課。
アーサー「紐を残すなよ、牛が便秘しちゃうからな」
「それと、必ず牛を見て、話しかけながらやること」
「おはよう、バーバラ(子牛の名前)、今日もかわいいネぇ」
結構、自然な感じです。
ボク「バーバラ、How are you ?」
アーサー「ノー、ノー! 声が小さい!、恥ずかしがるな、」
「聞いてるのはバーバラとオレだけだ、アハハハぁ」
ボク、上等だぁ! 「バーバラ、you very pretty ! 」
アーサー「オー、エクセレント!、アハハハぁ!」
真っ黒い目をしたバーバラは、湿った鼻を押し付け、
器用に上下のアゴをすり合わせ続けます。
親指ほどのツノが内側に向いたバーバラを見つめ、
アーサーは少し真剣に、
「小さなツノだけど、バーバラが首をちょっとひねったら、どうなる?」
ボク「あっ、危ないですね」
アーサーは人差し指を軽く突き出し、
「 Don't. trust. them , they are still animals 」
1年前、
二十数年間忘れていた言葉を、セブ国際空港で思い出しました。