不愛想且つ唐突にレゴが置かれている呑み屋に入って
何の理由も無しに夜通し呑む関係に至るまでには、
それなりの過程があってしかるべきなのでありまして。
良いとも悪いとも言えぬ平均的な大学へ意外にも決め打ちで入ったAは、
とりあえず可愛い先輩がたくさんいる運動系のサークルに入って、
ひたすら先輩の言動に
「スゴいっすね」
という愚にもつかない一言を返し続けアダ名が「ゴイス」になってしまった頃から、
見た目は笑っているものの内心
妙な焦りを感じ始め、
その焦りは入学当初から好きだったそこそこ可愛い黒髪ロングの清楚系が
完全無欠のあばずれでしかなかった絶望にかきけされ、
その絶望はAの存在感すら一緒にかきけして、
かつての「ゴイス」はいつの間にか
「存在感の無さ」
という意味での「ゴイス」になりはててしまっていたのでした。
とはいえ世の中上には上がいるもので、
「ゴイス」以上の存在感の無さを、Bは発揮していたのでした。
良いとも悪いとも言えぬ平均的な大学へ全く意図せず入ってしまったBは、
自分自身への絶望と、
凄惨たる周囲の人々の薄っぺらさへの閉口を皮切りに、
むしろ存在しないことを選んだのであって、
サークルに入ることなどもっての他であったのでした。
席の埋まり方で如実に交友関係の広さがわかってしまう食堂で、
AとBは見た目上お互いの存在に気づくことなく、
一席か二席ほど間をおいて孤独な昼食をとっていたのですが、
そこでいくらか箸使いの下手なAが、
梅雨どきの空気をいっぱいに吸い尽くしてべちゃっとしている唐揚げを一つ
落とさなければ、
そして唐揚げよりも先に、
ほんとうのところはAの存在感の無さに共感してしまっていたBが、
たった一言Aに話しかけていなければ、
二人の長い長い夏休みはえらいことになるところだったのであり、
ましてや誰かと呑み歩くことなど、といった具合なのでした。
「食わねぇの?」
と言ったそばからBはもうすでに、
Aが落とした唐揚げを食べてしまっていたのであって、
そんなBの姿を見て初めて心から、Aは使い古した一言を呟くのでした。
「スゴいっすね」
