
こんばんは✨
大阪教育新聞6・7月号の「子どもと絵本を結ぶVol.160」にて絵本の紹介させていただきました。
今回は『木を植えた男』です。
ジャン・ジオノ原作
フレデリック・バック絵
寺岡襄訳
あすなろ書房
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(以下、掲載文です。)
南仏プロヴァンスの荒れ果てた高野を旅する「わたし」が羊飼いの男と出会った。男は不毛の地に木を植えていた。二度の大きな戦争を物ともせず、黙々と木を植え続けた。戦争を経験した「わたし」は数年後、再び男を訪れた。すると、荒野だった地にはなんと緑の木々が茂ってた…… 。
私とこの物語の出会いは、大学の外国語の授業で課題として読んだことがきっかけでした。南仏の自然を背景にした小説や詩・戯曲・エッセイを多く残した作家、ジャン・ジオノが二十年以上の草稿をへて一九五三年に書き上げた短編小説です。物語を調べていたときに本書の存在を知りました。主人公の「わたし」が回想として記していく形式の物語です。羊飼いの男・エルゼアール・ブフィエ氏は三年間で十万個ものドングリを植え、年月をへて黙々と植え続け、それらが育って森となり、人びとに幸せをもたらしたという壮大な物語に魅了され、夢中になって読み進めたことを今でも覚えています。
絵を描いたのはカナダのアニメ― ション作家、フレデリック・バックです。短編小説をもとに一九八七年に同名の映画(第六〇回アカデミー賞短編アニメ賞を受賞)を制作しました。五年の歳月をかけて二万枚にも及ぶ絵画の一枚一枚を描き完成させたのす。本書はその映画をもとに新たに書き起こして作られた絵本です。素朴なタッチですが、印象派さながら繊細で今にも動き出しそうな感じがします。全四七ページそれぞれに情感が込められていて、荒れ地に生きる人々の憎しみや競争心の描写がネガティブな印象を残す一方で、豊かに茂った森や村々が再興されて幸せに暮らす人々の描写は鮮やかで美しく、見ているだけでとても幸せな気持ちになります。
読み返すたびに、孤独の中で生きるブフィエ氏の深奥にある不屈の精神とたゆまない情熱に、何度も勇気をもらいました。そして長い年月をへても尚、フィクションを感じさせない芸術家たちの崇高で創作力に畏敬の念が深まるばかりです。