本日の東京新聞に、
相模原・障害者殺傷事件を受けて シンガー・ソングライター えりのあさんに聞く(下)
◆障害者との壁、つくらないで
-現在、妊娠中のえりのあさん。子どもを授かったことで思うことは。
九月に出産予定で、妊娠九カ月に入りました。結婚三年目で苦労して授かったので、命が育っていくことはすごいことだと、生まれる前から強く思っています。
今回の(相模原市の障害者施設での)事件で子どもを失った親御さんたちも、苦労はたくさんあったと思うけど、すごくうれしい気持ちで育ててきたと思う。それなのに、理不尽に一瞬で命を奪われた。言葉にならないつらさでしょう。障害のある人が殺されなければならない理由なんてあるわけがない。
-命に対する考え方も深まったか。
自分のおなかに命が宿った時は、自然と涙が出た。障害がある、ないにかかわらず、親はみんな苦労して育てている。生まれてくる子どもは最初分からないかもしれないけど、命の大切さはもっと一人一人が感じてほしい。私もお母さんになったら、育てる側としてだけでなく、子どもから学ぶこともあると思うので一緒に成長したい。
-音楽活動や実生活では、どんな形で障害者と触れ合っているのか。
施設で行うコンサートのお客さんや、県内でも障害者の友人はたくさんいる。大田原には積極的な障害者の方もいて、地元の方と定期的に交流会を開いて自分たちの考えや要望を話し合っていたりする。
障害があっても結婚、恋愛の悩みや相談などは普通の人と一緒に話し合える。障害者との間に壁をつくらないで触れ合ってほしいと思います。
-それでも共生社会の実現はまだ大きな課題。
本当の意味での「バリアフリー」を考えたとき、私のように子ども時代に障害のある方と触れ合っていれば自然な感覚で受け入れられると思うけど、大人になって考えが固まってしまうと、変えるのは大変な気がする。
でも、自分を変えようと努力する大人は多くいると思うので、しっかりと共生の意義を学ぶ機会や、それを促す社会の制度があれば変わってくると信じています。 (聞き手・藤原哲也)
◆取材を終えて 「共生」実現へ地域の支えを
険しい表情で事件の衝撃を語ったえりのあさん。ただ、自身が福祉の現場で感じた思いを口にすると、止まることなく社会への疑問や提言を発してくれた。出産を前に、「共生」への思いがより強まっているのだろう。真剣なまなざしからは、表現者としての強い信念も感じられた。
えりのあさんが指摘するように、障害のある人たちの不安は簡単には解消されないかもしれない。今こそ地域や、周囲の人たちの支えが必要な時でもある。悲劇を繰り返さない社会を目指すことで、「共生」が実現すると信じたい。