内閣総理大臣賞
タイトル:【輝く命のために】
熊本県 中学校3年生 田中 ひかる
自宅近くにある江津湖周辺の生き物達は、私に様々な表情を見せてくれる。天から降ろされた一本の白糸のように直立不動で獲物を狙うサギの神聖さ。清らかな流れの中で泳ぐ鯉の優雅さ・・・。柔らかな水音を聞きながら、水辺の生き物と過ごす時間は、一枚の透明な膜で覆われたように、外界の煩いを忘れさせてくれる。私にとって大切な時間である。
その水辺や水中に住む生き物が脅威に晒されている。特に海洋生物に大きな被害があるという。原因は、プラスチックごみによる海洋汚染だ。例えば、体重百キロを超えるウミガメが一回の排便で出したプラごみは、幅1メートル、高さ五十センチのケース内に山積みになるほどだという。一匹のウミガメから、これだけのごみが排出されたとすると、海に流出したごみの総量はどれほどなのか・・・。考えただけでも恐ろしくなる。
プラごみは、ポイ捨てなど陸上で適切に処理されなかったプラスチック製品が河川に流れ込んで発生する。私が住む地域のポイ捨て状況はどうか。自宅周辺を歩いてみた。すると、ペットボトル、菓子やパンの包装袋などプラスチック製品が数多く落ちている。中には、コンビニ近くの電柱の下に残飯が入ったままの弁当容器と飲みかけのペットボトルが放置されているものもあった。ほんの数秒歩けば、コンビニに設置されているごみ箱があるというのに・・・。簡単に手に入れた食べ物を腹を満たすためだけに食べ、自分が出したごみの始末もせずに立ち去る ― 食べ物に対する感謝の気持ちなど感じられない行為に、何か大切なものを失ってしまったような気がして気持ちが沈んだ。容器を拾い上げた手の感触が、その時感じた寂しさと共に、今もありありと残っている。
この春訪れた水俣市は、「公害の原点」と呼ばれる水俣病が発生した地である。水俣の悲劇を二度と繰り返さないという決意のもと、市民一人ひとりが水俣の自然を守り伝え、責任を持って環境再生や環境保全に努力している。市民のごみ減量とリサイクルを進めて行こうとする意識は高く、その活動は生活の一部のように人々の暮らしの中で息づいている。だからだろう。夕日に染まった不知火海は、思わず感嘆の声がもれるほど美しかった。
プラごみによる海洋汚染を知った事で、私の身の回りは数え切れないほどの便利さで溢れている事、しかし、そのほとんどが削減できたり不必要な物であることに気づいた。それらの気づきが、利便性と効率性を重視してきた私の価値観に変化を与え、今、私は環境に配慮した暮らしに努めている。問題の解決には、他の誰でもない私達一人ひとりが、事実を知り、考え、行動することが大切で、そこには意識の変化も求められるだろう。
美しい自然が、現在と未来の命を輝かせるのだと私は確信している。