小倉貴久子の《モーツァルトのクラヴィーアのある部屋》第37回G.Ch.ヴァーゲンザイル

5月2日、オペラシテイ・近江楽堂にて、「小倉貴久子の《モーツァルトのクラヴィーアのある部屋》第37回ヴァ―ゲンザイル」を聴きに行ってまいりました。

幼少期のモーツァルトに多大な影響を与えたヴァーゲンザイルがゲスト作曲家。
ウィーンの宮廷音楽家を務め、その作風はとても優雅で流麗。当時は非常に人気があったそうです。

小倉貴久子先生の演奏するフォルテピアノ（ヴァルター）と、廣海史帆さんのヴァイオリンの音色と共に、18世紀後半のウィーンで流行っていた音楽を堪能しました。小倉先生の躍動感あふれる音色と廣海さんの可憐で美しい音色が、時に対話し、まじりあい、寄り添い、聴くものを夢中にさせてくれました。

…親密な空間の近江楽堂の中で、私たちは幼少期のモーツァルトの姿と、残念ながら肖像画が残っていないヴァ―ゲンザイルの姿が、現れてお話しているような…そんな錯覚さえ覚えました。

一曲一曲が宝石のようにキラキラと輝いていて、私たちはうっとり。

小倉先生の紡ぎ出す音色は、変幻自在。

「次はどんな表現を聴かせてくださるのだろう？」

と常にワクワク感は止まらず、聴けば聴くほど元気になってきます。

先生の表現力は、万華鏡のよう。同じところにとどまらず、くるくると回って美しい模様が次々に見えてきます。

音色の多様さは、本当にどこまで行っちゃうんだろうと思うくらい無限大な気がします。

どうしてそんな演奏が可能なんだろう？と驚嘆するばかりで、そういった技術的なことも気になりますが、そういう気になる気持ちより、圧倒される気持ちより、はるかに超えるこの感動の渦。この嬉しさ、充足感。私は先生の演奏を聴いた後は、いつもすごく幸せな気持ちでふわりふわりと帰ります。

8歳とか10歳のモーツァルトの作品の世界、成人後の作品、そしてその作風に多大な影響を与えたヴァ―ゲンザイルの作品たち…。その一つ一つの作品を丁寧に、そして大胆に表現できる先生は本当にすごいなあと思いました。

ありきたりな言葉しか出ませんが、本当にいつも先生の演奏を聴くとその表現力の広さと深さに、身体の動きと音色のしなやかさに、そして音楽を愛する情熱の深さに、驚嘆するばかりです。

しかも近江楽堂という親密な会場での生演奏は、素晴らしいを通り越しますね。
感動しすぎて、毎回演奏終了後はため息しか出ません。

G.Ch.ヴァーゲンザイル：

ヴァイオリン伴奏つきクラヴィーアソナタハ長調作品2-3

ヴァイオリン伴奏つきクラヴィーアソナタ変ロ長調作品2-5

コンチェルトイ長調 WV330

モーツァルト：

小品ト長調 K.15y

ヴァイオリン伴奏つきクラヴィーアソナタト長調 K.9

オランダの歌「ヴィレム・ファン・ナッサウ」による７つの変奏曲ニ長調 K.25

ヴァイオリンソナタ変ロ長調 K.378

どの演奏も素晴らしかったけれど、私が一番気に入ったのは、

オランダの歌「ヴィレム・ファン・ナッサウ」による７つの変奏曲ニ長調 K.25。

わずか10歳でこの作品を生み出したとは…！！

素晴らしい名曲でした。

どれもこれも、一度じゃもったいない演奏ばかり。

先生、本当に貴重な機会をいただきました。

廣海さんのヴァイオリンはとても繊細で可憐で、これまた素晴らしかったです。

小倉先生、廣海さん、素晴らしい演奏を本当にありがとうございました。

ヴォルフガングのパパ・レオポルトの、

〈ナンネルの楽譜帳〉より　ヴァ―ゲンザイルのスケルツォ　ハ長調

と、

ヴァ―ゲンザイルの、

ヴァイオリン伴奏つきクラヴィーアソナタハ長調作品2-3の2楽章・メヌエット。

この2つの曲は、同じくヴァ―ゲンザイルのディヴェルティメント集作品１（1753年、ウィーン初版）の第3曲の2楽章「メヌエット」とほとんど同じ。というか、この作品1-2を、ヴァーゲンザイル自身がヴァイオリン伴奏付きに編曲（作品2-3）した版でお二人で演奏されたのです。

実は、私は小倉先生の「ソナチネアルバム」のCDを持っていて、その中にヴァ―ゲンザイルのこのディヴェルティメント作品１が入っているのですが（この時先生はチェンバロで録音されています）、先生の演奏が生き生きとして楽しそうだったので楽譜を取り寄せて、弾きました。…というか、今練習している他の曲と合わせてず～っと弾いています。なぜかというと、納得のいく演奏ができないからです（笑）。