アスリートのメンタサポートに詳しい福島大学の白石豊教授は、選手やチームのレベルアップの妨げになるものとして「ドリームキラー」を挙げる。
夢や高い目標を掲げる選手の耳元で「身の丈を知れ」「現実は甘くないぞ」とささやく人たち(メディアも含む)のことだ。親やコーチがそう助言する時、根底にあるのは善意だから選手の心を惑わすには十分な力を持つことになる。
スポーツの世界で記録を阻むのは、肉体より自分の頭の中に設けてしまう[壁」のほうがおおきいらしい。陸上男子100mで日本人スプリンターには未だに10秒の壁がそびえるが、それとて日本人の身体能力の限界はそこらあたりと思い込むと破れるものも破れなくなる。逆に誰かが9秒台を出すと次々に続く可能性があるらしい。
そういう意味では最初の突破者は非常に重要な意味を持つ。野茂の大リーグ挑戦がそうだった。「パワースピードに差がありすぎる。日本野球は通用しない」という決め付けを破壊した。野茂が活躍すると「投手は成功しても野手は無理」という新手の殺し屋が現れた。それはイチローが始末した。これからはダルビッシュが夢の続きを見せてくれるのだろう。後に続くものたちの心理的負担を軽くし,奮い立たせるという意味では全豪オープンでベスト8に進んだ錦織圭も立派なものだ。この競技も男子はサイズやパワー、スピードの違いから、蚊帳の外をしぶしぶうけいれてきた。錦織の80年振りの快挙は、かつてはサッカーや野球にもあった不必要なコンプレックスを取り払うことにつながるはずである。
ドリームキラーも手ごわい。ダルビッシュが活躍すれば「体格が普通と違うから」といい「錦織が頑張れば「タッチが天才的」などときわめて特殊な例で、片付けようとする。やる前から「それは無理」と理由を並べて、凡人が夢をかなえることを戒める。身動きを取れなくする。ダルビッシュが札幌ドームで開いた記者会見からは日本では怪物扱いされることへのやるせなさを感じた。戦う前から打てないと白旗を揚げる「褒め殺し」という名の変種のドリームキラーにスポイルされる前に大リーグに行くのだなと。
これは、スポーツの業界だけでなく、いろいろなところで言えることだと思います。
私たちの患者さんの場合も似たようなケースは多々あります。
膝が悪いから、階段の上り下りや、正座はやめたほうがいい。
腰が痛いから、ゴルフはやってはいけない。
腰が痛いから遠くへ出かけるのはやめた方がいい…など
やらなくなると、できなくなります。
適切な判断が必要ですが、○○だから××はできない→○○だったけど、××ができるようになった
を増やしていくのも私たちの大切な仕事です。
先日も、膝痛の75歳の患者さんが「某所で写真を撮りたいのだが、そこへ行くには300段の階段を上らなければならないが、行ってもいいですか?」と質問されました。
私が、「どうぞ楽しんできてください」と言ったところ、「周りで賛成してくれる人はいなかったので、どうしようと思っていましたが、行ってみます」と言って、実際に300段の階段を上り、素敵な写真を撮ってきてくださいました。
これを成功体験として、今後もたくさん楽しんで頂きたいと思います。
*自己判断は難しいので、専門家にご相談ください(D)