高校生の時…
荒木宏志が嫌いだった。
喋ったことはなかったけど、学校での態度が気にくわなかった。
その荒木が高3の時、生徒会長に立候補した。
会長候補のスピーチで、荒木は会場を笑わせた。
が、俺は笑わなかった。
しかし荒木は会長に選ばれた。
人気だけで会長になった荒木がもっと嫌いになった。
それから…全く関わらなかった。
荒木に久し振りにあったのはラジオ局だった。
すでに劇団ヒロシ軍として活動していた荒木は、収録のためラジオ局にいたのだ。
俺もその当時、ラジオで喋っていた。
ある日収録に行くと、荒木が前から歩いてきた。
荒木は俺を覚えていない様子だったが、俺ははっきりと覚えていた。
挨拶もなしにすれ違った。
次に会ったのは一年後だ。
ケンタッキーのバイトをしていた俺に、友人がこう言ってきた
「荒木宏志って知っとるやろ?高校の時会長やったやつ。あいつバイトに誘おうと思うっちゃけどどう?」
はっきり言って、あまり来てほしくなかった。
入ったら絶対気まずい。
しかも荒木に教えなきゃいけないのが嫌だ…
あいつはちゃんと人の話聞くんだろうか…
俺と仕事かぶらなきゃいい。
そんなことを考えていたが
入る入らないはその人が決めること。
自分が嫌だからって理由で、何かをやりたいと思ってる人の意志を踏みにじっちゃいけない。
「あー、まぁ別にいいよ」
と、俺はそう答えた。
荒木と初めて仕事をした日。
その日は、俺、荒木、友達の3人でのシフトだった。
荒木と俺は挨拶を交わした。
「絡んだことないけど、覚えとる」
荒木はそう言い、俺もうなずいた。
荒木とその友達は仲がいい。
2人とも冗談混じりで仕事をしていた。
こいつ…本当大丈夫なのか?
そう思っていた。
ついに荒木と2人のシフトが来た。
荒木はあまり喋らなかった。
喋ることは仕事のことくらいだった。
気まずくならないよう、俺は荒木に喋りかけた。
「高校の時、まったく喋らんかったよね」
荒木は手を止め
「そうね」
…それだけ答えると、また仕事に戻り
「これ、どうすると?」
と、仕事の話に戻った。
そういう会話が何度か続いた後、あることが頭に浮かんだ
「劇団入ってるんだよね?」
荒木の目の色が変わった。
「うん、2年前に立ち上げた」
「立ち上げた?!」
「座長やってる」
「マジで??なんて劇団?」
「劇団ヒロシ軍」
…俺と
劇団ヒロシ軍の最初の出会い。
それから俺は劇団に関する質問をシフトがかぶるたびにしていった。
初めは気まずさを回避するためだった…
それがいつの間にか、心から話を聞きたいと思うようになっていた。
しだいに、荒木自ら話しをしてくれるようになった。
いろんな話が次々と出てくる。
劇団ができるまでのこと
千田も団員だということ
「ワタナベさん」という人との出会い
「Dream」という劇で主人公をやったこと
子ども達との共演
車いすの少年の話
「ユッキーさん」の話
コントライブを1月に控えているということ
「ケンくん」という新人の話
そして…
『雨の蝉』
タイトルを聞いて、興味を持った。
荒木は雨の蝉のあらすじを語ってくれた。
鳥肌が立った。
「それ、荒木が書いたとよね?」
何度も聞いた
間違いなかった。
それは荒木の書いた作品だった。
他の作品の話も聞きたくて、いろんな作品の話を教えてもらった。
新作「ドスのきいた青」の話しもこのときに聞いた(この後、ドス青は一年の眠りにつく)
気づけば俺は
荒木宏志の魅力にはまっていた
あんなに嫌っていた荒木を、好きにさえなっていた
それから1月にコントライブを観に行き、3月再演した『雨の蝉』も観ることができた。
雨の蝉を実際に観て
思った
劇団ヒロシ軍に入りたい。
次のバイトで荒木に言った
「ヒロシ軍に入りたい」
「お、いいよ」
あまりの即答ぶりに焦った
「俺、すぐ顔赤くなるし、演技できるか分からんけど…」
「慣れるさ!みやこはうまくなるよ!」
荒木についていこう
そう思った
これが、俺と荒木の出会いの話…
今俺が高校生なら
荒木を生徒会長に推薦する
荒木には
変える力がある
俺の心を変えたように
今あるものをぶち壊して
変えてくれる
長崎の演劇界も
本当に変えてしまうだろう
荒木の足りない部分は
俺らが補う
だから今までのように突き進んでほしい
上に立つわけでなく
同じ高さにいながらも
皆をまとめる座長
荒々しくて
でも
まっすぐな
そんな荒木宏志の姿が
俺も
みんなも
好きなんだよな