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DULL-COLORED POP vol.7.7
『ショート7』Bプログラム

(ショート×ショート×ショート×ショート×ショート×ショート×ショート)
2009年4月29日~5月6日
@Pit北/区域

贅沢すぎる2時間。もう、満腹。
以下、作品毎の感想など。

『息をひそめて』
作・演出 谷賢一

口語会話に独白を織りまぜるダイナミックな作品。
以前観た初演時には口語会話が印象的であったが、改めて観てみると、独白の持つ力強さに心打たれる。
現代の恋愛模様を描いた作品だが、独白は異様な程に力強い台詞で、シェイクスピアを想起させる迫力がある。
恋人の話を床下で盗み聞く、という構成も、情けない話だがダイナミック。
床下・床上の空間の切り取り方、混ぜ方も絶品で、決して映像作品では実現できない舞台の魅力を体現したつくり。
現代日本の小さな一室に起きる、小さな恋の問題を、繊細に、かつダイナミックに描き出す作・演出に惚れ惚れする一品。


『エリクシールの味わい』
作・演出・作詞 谷賢一
音楽 伊藤靖浩(作曲・演奏・出演・音楽監修)

「飲尿ミュージカル」(業界初)という宣伝文句がひときわ目をひく、今回の企画唯一の初演作。
とあるバーで酔いつぶれる製薬会社のサラリーマンのおやすみとおはようの間の物語。
とにかく良かった。
どうしても「飲尿ミュージカル」という言葉にとらわれてお馬鹿作品の様なイメージが付きまとってしまうが、そのイメージを前面に押し出すのは、これほどまでに痛々しく切ないラブストーリーを書いてしまった作者の照れ隠しなんじゃないだろうか。
本当によかった。僕は涙目で観ました。
飲尿を扱った大胆さ・馬鹿さと、作者が全身全霊を込めたラブストーリーの繊細さ・もろさがとてもいい具合に混ぜ合わされていて本当にいい。
初期のDCPOPの馬鹿馬力と現在のDCPOPの緻密さ・繊細さを兼ね備えた、これからのDCPOPの可能性を改めて見せつけられる傑作。
役者も素晴らしい。
「くたびれたサラリーマン」という言葉が似合いすぎる小林タクシーの軽妙な存在感はもちろん、個性豊かなおしっこ娘たち、ミステリアスなバーテン(千葉淳)、感情むき出しの恐い女(清水那保)などなど、強すぎる存在感の絶妙さは何とも言えない。
そしてその中でも極めて異質な迫力を放つ、飲尿の天使・岡田あがさ。
「まるで、天使」なんて台詞を何の疑いもなく受け入れられる、驚異的なまでの存在感・現実感のなさ。
この作品は、このキャスティングにより戯曲の持つ力をとことん引き出している。
岡田あがさの登場から立った鳥肌はカーテンコールまで続いた。本当に、よかった。なんだあれ。

そして、バーの謎の演奏者伊藤靖浩(作曲・演奏・出演・音楽監修)の手によるミュージカルナンバーが本当に心にぐっとくる。
アホらしい歌詞なのにあそこまでぐっと来る曲がつくと、気分はまるでブロードウェイ。
帰り道に口ずさめる覚えやすいが心にささるナンバーは必聴。劇場でCD売ってたら絶対買ってた。
特に「ひゃくまんかい」は本当にいい。小林タクシーの異様に高い歌唱力と岡田あがさの消えてしまいそうに淡く優しい歌声に、もうどうしていいかわからない。
そんなこんなで感動の渦に引き込まれてしまう。
中国の古典に、お粥が出来るのを待ってる間に眠ってしまい、自分の一生の夢を見て、目が覚めたらまだ粥は出来ていない、なんて話があったが、そんな中国の古典の雰囲気を舞台で味わったのは本当に初めて。
いい芝居観たよ。


『藪の中』
翻案・演出 谷賢一
原作 芥川龍之介

芥川龍之介の『藪の中』を翻案した一人芝居。
花組芝居の堀越涼が出演。
『エリクシールの味わい』ですでに夢見心地だったのに、もう一本あるという短編のグランバザールの幸せ。
この作品も初演を観ているのだが、役者に合わせて大胆に趣を変えた作品になっている。
漂うのは日本の伝統芸能的香り。
狂言・歌舞伎を織り交ぜたような独特の演技スタイルは『藪の中』の時代観を出すにはもってこい。気持ちよく見得を切り、朗々と語られる台詞によって作られるピンと貼りつめた空気感は見事の一言。
ただ、型のダイナミックさを追求する余り、感情のダイナミックさ・目に見えない迫力がやや犠牲になってしまっている印象を受けた。
型のダイナミックさで見せる今回よりも、目に見えない爆発力があった初演の方が僕は好み。
本当に、ただの好み。
これはこれで素晴らしかった。