「ルナシー」(2005) 監督/ヤン・シュヴァンクマイエル

出演/パヴェル・リシュカ、ヤン・トジースカ、アンナ・ガイスレロヴァー、ヤロスラフ・ドゥシェク、パヴェル・ノーヴィ 他

オススメ度 ★★★★★★★★★★10

◆精神病院で母親を亡くし、拘束具を持った禿頭の男達に襲われる悪夢を見て何度もうなされるベルロ。同じ宿に居合わせた侯爵は、そんなベルロを自分の城へと招待する。そこでは、完全な自由主義を唱える侯爵による禁断の儀式が繰り広げられていた。やがて侯爵は、ベルロに自分と同じセラピーを受けさせようと提案、彼の通う精神病院へと連れて行く。患者に「自由」を提供することを治療の一環としている病院内では、様々な異様な事態が繰り広げられていた。ベルロはそこで、侯爵の儀式に参加していた美しい看護婦・シャルロットと恋に落ちる―。

ヤン・シュヴァンクマイエル絶好調。自分の映画が狂気を綿密に描く芸術作品であると世間で知られていることを認識している上でのことか、もしくは単なる皮肉なのか、ともかく映画の冒頭から監督自らが出てきて「この映画は単なるホラー映画です。芸術と思って観ないで下さい」的なことをいう。そしてホラーとしてふさわしい絶望的な終わりを遂げる話であることも示唆する。

エドガー・アラン・ポーとマルキ・ド・サドの作品に着想を得て、30年の構想の末に出来上がったのは、悪夢に囚われた青年を軸に、夜な夜な淫靡な儀式の中でキリスト像に錆びた釘を打ち込み続け、カタレプシー(硬直症)の治療の一環と称しながらもまるでそれに快楽を得ているかのように自ら進んで生き埋めになる侯爵、無垢な外見に売女の心を持つ女、地下室に蠢くタールと鶏の羽塗れの人間、精神病院内にも鶏の羽が舞い踊り、気のふれた人々が「自由」を得て行うのはただ無意味であり無益でありだからこそ狂気にふさわしい無駄な行為の群れが織り成すなんとも不気味な世界。
シュヴァンクマイエル作品にはこれがないと!というアニメーション映像ももちろん要所要所に散りばめられ、不可解な内容に更なる不条理の華を添える。今回はとにかく肉がうごうごする。最初は気持ち悪いのに、だんだん愛らしくみえてくるのはなぜだろう。

最初に監督が示したとおり、どんでん返し的な展開の末に、ホラーならではの救いのない圧倒的に悲惨な結末を迎える。これが理想的なホラーとしての形であると改めて思い知らされる。残酷なものが薄布に覆われ少しだけしか見えない……っていう気持ち悪さと、映画内では語られないその後のことに思い巡らしたときに生じる後味の悪さが、いいんですよ。ただ、最初に悲劇で終わると言われないままで観た方がたぶんより嫌な気分が残ったであろうと思われるのは、果たしてよかったのか悪かったのか。(08/2/17)