昨年10月、2年に一度開催されるという現代美術の祭典ビエンナーレを見ようと、全羅南道の光州(광주=
クァンジュ)へ行ったときの話です。
私はいつも一人旅をするのですが、この日も一人でソウルの龍山(ヨンサン)駅からKTXに乗り、光州駅に到着。
すぐに駅構内にあるKorailの旅行案内所を訪ねました。
観光客向けではなく、地元の人たちが利用する美味しい食堂の場所と、ビエンナーレの会場までの行き方を教えて
もらうためでした。
年配の男性職員の方が親切に対応してくださったのですが、その方が突然「では、行きましょう」と、行きつけの駅前に
ある食堂まで私を連れて行き、白飯定食を注文してくれました。
「また戻ってくるから」と立ち去る男性の背中を見ながら「なぜ?」と不思議に思いつつも、素朴ながらも美味しい食事に
舌鼓を打っていたところ、先程の男性が戻ってきて、一緒に食事をすることになりました。
その男性が身の上話を始めたのですが、実は母親は日本人で、彼が幼い頃に亡くなったため、今ではすっかり日本語を
忘れてしまったこと、その後父親も亡くなり、僧侶である祖父に育てられたことなどを伺いました。
食事が終わると、これから隣の羅州市にある駅に別の仕事をしに行くのだといい、店の前に止めてあった車に私も
乗るよう言いました。
実は彼の韓国語には全羅道特有の訛りがあり、私の韓国語力ではきちんと聞き取れない部分も多々ありました。
しかし、私がビエンナーレに行くために光州へ来たことは何度も説明していたので、てっきり会場まで私を送ってくれる
のだと思っていました。
ところが、彼のもう一つの職場であるスポーツクラブまで車を走らせると、そこには電話で呼び出した男性の恋人で
ある女性が待っていました。
その女性の車に乗り換えて、どこかへ走りだしました。さすがに不安になったので、どこへ行くのかと尋ねたところ、
「南平駅に行く」と
どこやねん
確かに車に乗る前から
「南平駅で写真を撮影する仕事がある」という話をしており、帰りの時間を聞かれ、夜8時のKTXでソウルへ戻ると答えたところ「時間があるなら、南平駅へ一緒に行けばいいのに。
ゆっくり走る列車が通る駅なんだよ」
と言われました。私の答えが曖昧に捉えられたようで、結局一緒に連れて行かれることになったようなのです。
後に分かったことですが、南平駅とは、光州市のお隣にある羅州(나주=ナジュ)市にある小さな駅でした。
特に美術に深い関心があるわけでもなく、ビエンナーレに固執する必要はなかったし、男性がKorailの職員であること、
恋人である女性も一緒だったこともあり、危険な目に遭うことはないだろうし、成り行き任せの旅も楽しいかと一緒に
連れて行ってもらうことにしました。
話をしてみると二人ともとても良い方だったので、私もすぐに打ち解け「オッパ」「オンニ」と呼ばせてもらいました。
途中でKorailが通過する踏切を通ったりして1時間くらい走ったでしょうか、漸く「南平駅(남평역=ナムピョン
こじんまりとした駅舎は、北海道のローカル線の駅のようで、素朴な感じがしました。
オッパは仕事のため駅長室に入って行ったので、オンニと小さな駅舎の中を見まわしていたところ、「韓国近代文化遺産に指定されている駅」というプレートが掛っているのを見つけ、なんだかすごくいい場所に連れてきてもらったような気がしてきました。
オッパがこちらへ来るようにと線路側の方へ私たちを呼んだので行ってみると、オッパが線路を指さしながら、この駅を
通る線路の形が見事なSラインカーブを描いているので、その美しい景色を写真に収めたり、キャンバスに描くために
全国から写真家や画家が集まって来るのだと教えてくれました。
ゆるいS字カーブを描く線路が延びる光景は、素人の私が見てもとても感動的でした。
また、線路脇にはコスモスの花が美しく咲いていて、余計ロマンチックな雰囲気を醸し出していました。
駅舎の外には、樹齢85年という桜の木まで植わっていました。
オッパたちと出会ったおかげで、先程までは全く知らなかった田舎の小さな駅で、こんな素敵な体験をすることが
できました。
駅を出て光州に戻る途中で、ある農園に立ち寄りました。
こちらではへちま、瓢箪、インゲン豆、冬瓜、ゴーヤなどいろいろな野菜や花を栽培していたのですが、野菜はどれも
巨大で、長くぶら下がっている瓢箪やインゲン豆の棚の下を歩くと、なんとも幻想的な雰囲気がしました。
ゴーヤが花を咲かせているのを初めて見ることができ、オンニが「ゴーヤも女性も、ハングルでは同じスペルだけど、
女性は「ヨジャ」、ゴーヤは「ヨージャ」って伸ばすのよ」と教えてくれたので、これは一生忘れないと思いました。
光州市内に戻り、ドラマ「砂時計」を見て以来、いつか訪ねてみたいと思っていた「5.18記念公園」に連れて
行ってもらいました。
こちら、正しくは国立5.18民主墓地(국립5.18민주묘지)でした(2016-2-25修正)
オッパは私に、オンニと二人でお参りしてくるようにと言い、車から降りませんでした。後で訳を聞いたところ、大勢の
同級生が光州事件の犠牲となり命を落としたため、ここへ来ると今でも胸が苦しくなり、車から降りることができない
のだというのです。
それだけ残虐で、何年もの時が過ぎても市民の心に大きな傷跡を残す事件だったことを目の当たりに感じました。
オッパとオンニは私のことをとても気に入ってくれたようで、その晩オンニの家に泊るよう勧めてくれました。
しかしそういうわけにもいかないので丁重にお断りしたところ、帰りのKTXの時間まで一緒にビールでも飲もうと言って
くださり、最後にはKTXに乗車する私の姿を見届けたいと、ホームまで見送りに来てくださいました。
あまりの親切に驚くとともに、いくら感謝しても足りないほどでしたが、また機会があったら必ず光州を訪れると約束し、
再会を誓い合ったのでした。
国立5.18民主墓地(국립5.18민주묘지)
KONEST地図
ソウルから光州への行き方
ソウル龍山駅からKTXで約3時間。
料金 35,900ウォン(2011年8月現在)
Korail ホームページ http://info.korail.com/2007/eng/eng_index.jsp
(英語)
ソウル高速バスターミナルから高速バスに乗車。
光州総合バスターミナルまで約3時間30分。
料金 優等パス 25,000ウォン、一般バス 16,900ウォン(2011年8月現在)
ソウル高速バスターミナル ホームページ http://www.hticket.co.kr/ (韓国語)
光州総合バスターミナル ホームーページ www.usquare.co.kr
(韓国語)
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