夫は、食べることが大好きな人。
肉や揚げ物には目がない。
味にもうるさく、美味しいものを知っている。彼の母親は、さぞや料理が得意なのだろうと、ずっと思っていた。

ある日、私が台所に立っていると、
「あっ!サンドイッチだ‼️」と幼児のように声を上げる夫が背後に立っていた。
残り物でサンドイッチを作り終え、丁度盛り付けたところだった。


極々普通のサンドイッチを見て、はしゃぐ夫。
60手前の男が、ありふれたサンドイッチを見て、たちまち幼児のようになる。
残り物で作った、ただそれだけのサンドイッチなのに、子どものようにはしゃぐのはどうしてなのだろうと、驚きと共に不思議に思った。

私は聞いてみた。
「お義母さんって、お料理上手だったの?」
「お袋は、面倒くさいって言って料理なんかしないよ」
「じゃあ、どんな物を食べてたの?」
「缶詰や瓶詰めが多かったな。親父が管理職だったから、お中元やお歳暮の時期には、缶詰や瓶詰めのセットが送られてきた。だからさ、その頂き物の缶詰や瓶詰めをよく食べたよ」
「料理って言えば、トンカツくらいかな」
確かに夫の実家に帰る度、いつもトンカツは出された。

私は缶詰や瓶詰めを利用して、料理をしていたのだろうと思った。
ところが、缶詰、瓶詰めをそのまま食卓に並べるだけだと言う。
夫は、マヨネーズをかけた鮭缶が好きだ。しかも、白飯にそれだけあれば充分だと言った。

「中学の頃は、お弁当は作ってくれたよね」と聞いてみた。
「いや、全くないよ」
「どうしてたの?」
「売店でパン」
食べ盛りの男の子がパン?
「他の子はお弁当を持って来たよね。毎日、パンじゃないでしょ」
「弁当持って来る子もいたけど、パン買ってる子も結構いたから、別に弁当なくても普通のことだと思ってたよ。毎日、パン買ってた」
私は唖然とした。
そして、凄く納得した。
たかがサンドイッチに感激した訳を理解した。
ほとんど料理せず、食卓にはいつも缶詰や瓶詰めが並び、鮭缶にマヨネーズをかけるだけの食事。お弁当も作ってもらえなかった。
だから、サンドイッチだけでも、嬉しかったのだ。
夫は母親から、愛情を貰えなかったから。


缶詰、瓶詰めがそのまま並ぶ寂しい食卓は、夫の寂しい心を映し出しているように見えた。