ダメかと思うか行動が先か、何も言わず、土下座して手をつき頭を下げる。
すると庭の方から人が走る音が聞こえる。
家の主と思われるおじさんは、急いで外へ出て「なんじゃお前は!人の家に勝手に入りおって!」とコーチに向かって一喝。
身を潜めながら不安な思いで耳を澄ます。
「申し訳ありません。生徒が一人逃げまして。今、こっちにジャージを着た少年が来なかったですか?」
「ジャージかなんか知らんが、あっちでも物音がしたぞ!なんや朝から一体!」
「申し訳ありませんでした。ありがとうございます。」と言い残し、主の指さした門の方へ走って行った。
納屋で隠れていると家の主が戻って来る。
「すみません。ありがとうございます。」
とにかく同情を買うしかない。涙を流しながら誤り倒す。
「まあ顔を上げんか!ヨットスクールの子やな?逃げたんか?」
「はい。実は僕はと今日から来たんですが、本当に悪い事ばかりして、お父さん、お母さんを困らせて、泣かせるような事ばかりしてきました。ここに来てどれだけ両親に申し訳ない事をしたか気付き、両親の有難味が身に染みて分かりました。とにかく今、両に土下座して謝りたいだけなんです。もし許してもらえなければここに戻ってもいいと思ってますが、ここに居たら謝る事も気持ちを伝える事も出来ないんです。・・」どれだけ涙を流したか・・
中学3年坊主が自分が助かりたいが為の行動による迫真の演技だったと思っていたが、今思うとその時には本当にそんな気になったのかもしれない。もう一方で殺意を抱きながらも・・
「わかった、わかった。お前今言った言葉は本当だろうな?」
「はい。」嘘である・・
「わかった、まあ腹減ったろ。朝飯でも食ってけ。」
「ありがとうございます。」「頂きます。」涙が止まらなかった。このときの涙は嘘ではなかった。
美味しかった。今日まで生きてきた中で一番おいしい朝飯だった。
「お前どうやって帰るんだ。」
「ヒッチハイクでも歩いてでもなんとでもして帰りますからだいじょうです。」
「そうか大丈夫か?」
「はい。自分の事なんで誰にもご迷惑はかけたくないんで。大丈夫です。」
「せめて駅まで送ったるわ」
「駅には追手がいると思います。」
「見てきたるから、助手席の下に隠れとけ。」
「わかりました。」
駅に着き車を降り戻ってきたおじさん。
「お前のゆう通りやな。駅におるわ。そや、タクシーで隣駅まで行け。この辺をウロウロも出来んやろ」
と言って「少ないけど持ってけ」と千円をわたしてくれた。
「いえ、いただけません。」というと
「ほんの気持ちだ。後は自力でなんとかせえよ。
「ありがとうございます。」有難く受け取った。「でもタクシも無線で連絡が入ってるって先輩訓練生がいってました。」
「大丈夫や、一緒に来い。」と言い車を出て、前で待機しているタクシーの横まで連れていかれる。
ドアが開き運転手に向かって「ある行けどこの子をくを・・」
運転手とミラーで目が合った、「あっ!」と運転手の目と口が反応した。
ヤバい!「ありがとうございました」礼もろくに伝える間もなく、運転手の視界から消えるよう一目散でその場を離れた。
ヤバい。多分運転手から連絡が入っているだろう。あまりウロウロ出来ない。
建物の影を隠れるようにして国道沿いを歩いた。
先程のタクシーの一件の後ろくに足元も見ず足場の悪い場所を走り、片方の靴が脱げてしまったが、取りに戻る事も出来ず片足は裸足である。
車がいない間だけ、歩いて進み、トラックが来たら親指を上げ、その他の車が来たら隠れる。
やっとトラックが止まってくれた。
「どこ行きたいんや?」
「東京の池袋まで行きたいんですが?」
「はあ、東京?行かんわ、そんなとこ」
今思うとその時間、その場所に東京へ行く車などあるわけもなかった。
その時は自分がどこにいるのかもわからずにいた。
その後も何台かのトラックに手を挙げ4,5台目の車が止まってくれた。
「すみません、東京まで行きたいんですが。」
「ごめん名古屋市内までしか行けせんわ。」
「あのっ、名古屋まで乗せていただけませんか?」
「おう、構わんぞ、」
助かった。この付近から離れられる。
裸足の足元を見られるのを気にしながらトラックに乗り込む。
色々聞かれたらどうしようかと思っていたが、口数の少ない運転手さんで良かった。
一時間くらいだろうか「おう、荷下ろしに入るからこの辺でええか?」
「はい、ありがとうございます。」礼を言い車を降りる。気付いたの気付かなかったのか靴の事には一言も触れなかった。
車を降りると、裸足の片足が気になったが、とにかく歩いた。
おじさんに貰った千円、これではどうにもならないことは解っていた。
まずタバコ屋を探した、セブンスター220円とライター100円を使う。
80円のパンを買い。残り700円。
どうする・・この先住むところもない・・よし!決めた!「その道」で生きていこう!
700円を握りしめ、電話ボックスを探す。
掛けなれた番号を03から掛ける。
頼む、出てくれ・・
ガチャ「もしもし」
「あのう自分です。実はその・・・自分を舎弟にしてください!兄貴に一生ついていきますので。お願いします。」
「なんだお前いきなり」
「あのう話している時間があまりないので単刀直入に申します。一生ついていきますので、金貸して欲しいんです。」
「金?いくらだ?1万か2万か?」
「いや、その、もう少し。う~んいくらなんだろう?10万かな?20万かな?」
「お前、意味わかんねえんだよ。ちゃんと順をおって話せ。」
「分かりました。そのあの後警察署に行ったらお袋がいまして、その後親父が名古屋で死にそうだっていうから、名古屋に行ったんですが、それがどうも嘘みたいで、なんかわけわからない施設で半殺しになって、それでそこから逃げてきて、今、金なくて」ブー!
「うわ、電話きれます。とにかくタクシーで帰りますので、着払いでその、」ガチャ、プープー
切れた・・・
取り敢えず一方的でも伝えた。
金が無い人ではないので何とかなるだろ。
パンチや蹴りの一発、二発は覚悟しよう、あそこに戻る事を考えれば、どうってことは無い。
取り敢えずタクシーを止める。
「すみません。東京の池袋迄お願いします。」
「はあ~!東京ですか?」
運転手が目を丸くして後ろを振り返る。
それはそうだろう。その時の恰好、坊主頭にジャージ姿、しかも血まみれが乾いてドドメ色の上着に靴は片方、片方裸足。
犯罪者だと思われても当然の風貌だ。
「なんで、新幹線でいかないんですか?タクシーで行ったらいくら掛かるとおもうのですか?」
「それは・・ちょっと事情がありまして・・」
「いや、それより失礼な事お聞きしますが、今いくらおもちですか?」
「お金なら大丈夫です。今は無いけど東京に行けばいくらでもありますので、少し色を付けてお支払いできますので。」
「いや、無理ですよ。絶対に。」
「そこを何とかお願いします。!」必死に頼み込む。
「いや、どのみち東京なんて私の一存では決められませんので、所長に行ってください。所長が許可すれば良いですよ。」
「わかりました。お願いします。」そのタクシーに乗り営業所へ向かった。