下の段の押し入れから伸びてきた手に触れると強く握り返してくる。
「怖い・・助けて・・」
「シ!声出さない!」
下から女の子が手を握り泣きながら話しかける。
「お願い・・・手を離さないで・・」
「分かったから!声出すなって!」
暫くの間手を握っていたが、眠ったのか握る手が離れていった。
翌朝、起きると、下にいた子は昨日京都からきたTという同じ年の子で茶髪にパーマ、一目見て非行で来たと分かる子だった。

女子は坊主にはならないが茶髪は真っ黒に染められる。

漸く体の痛みも取れてきた4日目の朝、今朝も母親からは何も言ってくる様子はない。
まさか、騙されたのか・・・来ない事が確信に変わったと同時に爆発しそうな怒り、そして殺意が生まれた。

絶対許さねえ。ぶち殺してやる。
同じテーブルの右となりで食事をしている1日前に入校したN。
「うう~~グスン、ここから出たい、帰りたい・・グスン」毎日泣きながら朝食をする。

「おいN!ここから出たいか?」

「えっ!出れるの?」

「シッ!あんま声出すなよ!お前足早いか?」

頷きながら「まあまあだと思う」

「わかった!明日の朝俺が合図したら一緒に走れ」
頷くN。
朝、浜辺までのランニングは約40名位の生徒の前後やところどころに7.8名のコーチが入る。
新入りのNと一番最後尾を走る。真後ろにピッタリコーチが付いている。
昨日から、ここから抜け出す方法を考えていた。

足には自信はあったがあまりにピッタリとついているので逃げるとしてもタイミングが問題だ。

コースは途中まで国道を通る。早朝とはいえ必ず何台かは車が横を過ぎる。

逃げるなら車に飛び込むくらいのタイミングで意表を突くしかない。

緊張しながらNと並んで走る。前方遠くから車が来る。

「よし合図したら行くぞ」目配せする。

「よし!今だ!」国道を一気に横切る!キキー!ピーーー!急ブレーキにクラクションの音を背に振り向きもせず走る!
神社の敷地に入り走る。走る。Nがどうなったかなど知る由もなくひたすら走る。
追っての気配を感じるが振り向きもせず走る。
行き止まりの塀をよじ登り乗り越え民家の庭を走る。

どうする、くるのか?塀をよじ登って追いかけてくる。

もう一つ塀をよじ登り走る。少し離れ見えなくなった。
一瞬の賭けに出た。

昔ながらの日本家屋。母屋の右横にある納屋の扉が開いているのが目に入り咄嗟に中に入り込み隠れる策に出た。
なんと人がいるではないか!終わったか!