食事が済むと、合宿所の庭でウェットスーツに着替える。
コーチの一人から新品のウェットスーツを渡され着替える。

再び海岸へ。何十艘ものヨット?が砂浜に並んでいる。
主に日々の訓練はディンギーという小型の一人乗りのヨットを使う。
4月の海だが寒かったという記憶はない。
日々の訓練はその日の風向きに合わせブイを置き三角のコースをひたすら回るというもの。
初日は先輩と二人で2周ほど乗ったか、直ぐに一人で乗せられる。
思うように動かせずおろおろしていると、エンジンの付いたコーチの船がやってきて、船をひっくり返される。
ライフジャケットを着ているので溺れる事はないが、慣れないうちは中々ヨットが起こせない。モタモタしてると、コーチの船が来て、蹴られたり、頭を海につけられたり、ティラー(ヨットの舵に使う5cm角位の角材)でヘルメットの上からたたかれたりする。
訓練はきついが意外と時間が経つのが早かった気がする。
昼食は砂浜で賞味期限が切れるかどうか程度の菓子パン等を食べた。
午後も同じようにひたすらヨットに乗る。丸一日乗ったら何とか動かせるようにはなった。

詳しい知識はないが体で操作だけは叩き込まれる。
夕方まで訓練をし、合宿所に帰ると、朝と殆ど内容の変わらない食事がでる。初日だけは夜も食べなった気がするが、二日目からはまずくても腹が減り飯は食った。
風呂は合宿所をでて歩いて5分くらいのある旅館の離れの風呂を使う。時間は一般の客が終わったころの9時過ぎくらいだったと記憶している。
風呂へ行くのに正面からは入らず建物の裏を回りこんで風呂まで行く。
この建物裏の通路は一人ずつしか通れない幅の狭い通路で、明かりも無く暗い。ここで、気に入らない訓練生を前に歩かせ、後ろからどついたり、蹴ったりする。訓練生が訓練生に対して唯一暴行を加える事の出来る場所であった。
Mさんがいなければ俺もここで痛い目にあわされたのだろ。

風呂から戻ると就寝。場所はバラバラで皆、寝袋を使い雑魚寝だが、新人は逃亡の恐れがある為、扉を重たく改造した鍵の掛かる押し入れで寝かされる。昨日閉じ込められた狭い空間はここだったのだ。
眠れない・・・

親父はどうしているんだろう・・まさか、騙されたのか・・いや、そんなはずはない。

ガサガサ、「ん?」押し入れの下の段から音がする。
扉をトントンと叩く音が自分の頭の真横で聞こえる。

真っ暗の中、音の方に手を伸ばす。「うわっ!」人の手?

明らかに少し小さい女の手だった。