Ricoの世界

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毎日…感じた事…つぶやき…フォト等を公開しています。
頼りなくて…つたない私の想い…
お時間が許す限り…ごゆっくり。
過去物には…オリジナル小説も…良ければどうぞ…。

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今晩は…リコです。

今日は翡翠の森の物語の続編を書き始めました。

毎日ではありませんが…今しばらく書き続けたいと思います。

毎日出会う事で…みんなが助け合いながら前に進んでいるのを見て…

ここの世界もいいなぁって…思わせてくれた人たちです。

正直…アバターとはいえ、人が操っているのです…心があると思います。

傷つくことも悲しいこともあると思います。でも…心を合わせながら前に進んでる。

私に感動を与えてくれたこと…感謝します。

そしてこの物語を朝会の皆さんに捧げたいと思います。

















            …翡翠の森の物語…











深い深い森のその奥には、翡翠が眠る泉がある。

その泉を守るのドワーフの村人たち…。

翡翠を守るため…仲良く助け合って生きている…優しい仲間たち。

そう…私は風の精のシルフ…村人をずっと見守っている。

今日も村人のろくさんとサクちゃんを守るため…2人の周りを見守っていたの。














この場所はドワーフの村から離れていて、森への出口に誘い込むための鏡が設置されている。

森の中では高い木々の葉が揺れあう、その隙間から陽が差し込み…陽だまりのスポットを作る。

スポットの当たった所から明るくなり、森の中の様子がキラキラと輝いているのが見える。

小さな妖精のドワーフたちには、小さな草むらでも大きな森のように見える。

その草むらの中で、草が動く一角があった。私が風を起こしているのではないの。

そこで、ろくさんとその弟子サクちゃんが何か忙しそうに動いている。

どうやら昨日の大雨と大風の嵐のせいで鏡がずれたらしい。それをろくさんとサクちゃんは直しに来ていたのだ。

2人は発信機と本部にいる社長と話すためのインカメの付いたヘルメットを被っている。

発信機がついているのは、2人にもしもの事があった時探すための物。

インカムで本部にいる社長からの指示により、ろくさんとサクちゃんは動いていた。










『ろくさん、目の前の鏡の位置…右の鏡1個分ずつずれているから直してくれ』

「目の前って…これですかねぇ」ろくさんは目の前のずれた鏡を見つけ…直し始めた。

鏡は1つ1つ裏に、細くて固い針金のような物が4か所に止められ…その一つ一つを引っ張ったり、押したりすることで自由に角度を動かせるようになっている。

針金のような物は、地中の中に埋め込まれている管の中に収められ…地上には出ていない。

そんな鏡が置かれている場所は、道から外れた場所の森の中に何十か所もある。

鏡の点検には定期的にろくさんとさくちゃんが回っているのだが、今回は昨夜の嵐の為に修理が必要な場所にやってきた。

ろくさんとサクちゃんの目の前には、人から見ると新聞紙1枚くらいの鏡が、綺麗に100枚程並べられている。

その中で大きくずれた鏡を元通りに直した後の今は微調整中。

ここの鏡は葉の下から上を映すために、敷き詰められている。

所狭しと置かれた鏡を、微妙に動かしながら迷い道を作ったりする場所なので修理や点検も神経を使う。







「こんなもんかねぇ…」ろくさんが調整すると…

『あぁ…いいね』と社長が答えてくる。

「サクちゃん…ろくさんが直した鏡の下が、少し光り過ぎて見えにくのから位置をずらしてみて」

社長の注文に…

「ここですか?」そう言いながらサクちゃんも器用に鏡を直していく。

「こんなもんですかねぇ?」調整しながらサクちゃんが聞くと…

『それでOKね』社長が笑顔で答えてくる。

「じゃぁ、ここはこれで終わりね」と…ろくさんの言葉に、

『はい。ご苦労さん…2人とも気を付けて帰って来いよ』

社長の言葉に…ろくさんとサクちゃんは顔を見合わせ、安堵したように微笑み合う。

荷物を片付け終わった頃、うさぎさんがヒロさんの作った元気が出る木の実で作ったお茶を冷やして持ってきてくれた。

「お疲れ様…ろくさん…サクちゃん」うさぎさんはにこにこ笑ってる。

「ありがとう。でも、この道を1人で来たの?」ろくさんは驚き、うさぎさんに思わず聞いた。

「うん。この道は従妹が住んでいる近くだし、いざっていう時の為に見ておきたかったの」

明るく屈託なく答えるうさぎさん。

「だめだよ。こんな薄暗い道を一人で歩いてくるなんて…とっても危険だよ」

サクちゃんは心配そうに答える。

「そうだよ。お茶を持ってきてくれたのは本当に嬉しいけど、ここは大きな犬が徘徊してるからね。今度からは1人で来ないようにしなさいよ」ろくさんの言葉も心なしか厳しい。

黙って聞いていたうさぎさんは、うなずきながら笑っている。

2人が心底心配してくれるのが、涙が出るほど嬉しいうさぎさん。でも…笑って誤魔化す。

「笑い事じゃないって…」サクちゃんは心配そうにうさぎさんを見つめる。

そうなんです…この森で一番危険なものは、野犬なんです。

森の奥の動物たちと村人はみんな仲良しなのだが…人に飼われていた野犬は中々なじめないのだ。

うさぎさんは持参したカップに、冷たいお茶を注いで2人に渡す。

ろくさんもサクちゃんもカップを受け取ると、おいしそうに一気に飲んだ。

「あぁ…生き返るな。夕べの雨で地面が湿っていて…むせ返るようだった」

冷たいお茶を飲んで、ほっと一息ついたろくさん。

「ご苦労様。村の中は快適だけど、ここは違うもんね」

うさぎさんの言葉に、ろくさんもサクちゃんも頷く。

「さぁ…帰りましょ。ヒロさんが美味しい夕飯を作っているし…翠さんやかずよさんが待ってる」

うさぎさんの声掛けにろくさんは嬉しそうに頷きながら…

「そっか…じゃぁ、サクちゃん帰ろうか」

頷くサクちゃんも荷物を背負い…3人で歩き始めた。

私は後姿に爽やかな風を送った…。





                  …つづく…
            …あらすじ…
翡翠の森に住む妖精のドワーフたちは、楽しくも賑やかに仲良く暮らしていました…ドワーフたちの仕事は森の奥深くにある泉に眠る翡翠を守ること。ある穏やかな日…いきなりけたたましい風の音で森に侵入者が入ったことがわかる。緊張した面持ちで持ち場に走るドワーフたち。さぁ…武器のない戦いが始まる。





                    イラストはYahoo!画像よりおかりしました。



            …翡翠の森の物語…






風の精霊シルフである私は、絶えず森の中を走り回っているのです。

森には西と北の2ヶ所の入口があり…今回は西から侵入者を確認…

侵入者を見つけた私は…突風でドワーフたちに知らせます。

私の合図を感知した社長が、みんなに号令をかけます。

「だれか森に入ったな」その一声で…翡翠谷の村に緊張が走る。

所定の位置に置いてあるヘルメットを取り、頭に被りながら…急いで持ち場へと走る。






泉を守るために村人の家の中には各自ミッションルームがある、。

360度回る椅子とその椅子の周りにはたくさんの鏡が置かれ…各自が鏡を器用に操り、侵入者を追い出すのである。

社長は自分の部屋に戻り、モニターを見つめます。

森の中に何箇所も探知機とカメラが設置されてるので侵入者の姿形は社長には見えるが、他の人には見えない。

モニターの前に座り、各自が身につけているヘルメットのイヤフォンに、長老の声が流れる。

「侵入者は身長180…体重120はあるな。頭にライト付きにヘルメット…そして大きなリュックを背負っている。顔半分髭面…衣類は全てカーキ色で手にはスコップとザルを持っている。明らかに翡翠を探してると思われる。みんなで出口までお連れしよう」

長老の的確な侵入者のイメージを捉え…メンバーは持ち場でミッションを進行する。

順番に行くと…出入り口に一番近い持ち場を守るのはぎょらいちゃん…まず、鏡を使って違う道を作り誘導する。

「ハイハイハイ…この道はどうかしら?」楽しそうなぎょらいちゃんの声に…

「いいわね…そっちを選んだのね…じゃぁ私はこっちを選ぶわ」

ヒロさんが大きな熊の姿を映し出すと、侵入者は身構え静かに後ずさり始めた。

そして…熊が動かないうちに、その場から走って逃げ出した。

モニターからその姿を確認した社長は…

「でかしたヒロさん。ヒゲ男は逃げ出したぞ」社長の言葉に…

「やっぱり見かけより…怖がりね」ほくそ笑むヒロさん。

そこへ、うさぎさんが大きな道を侵入者が見えるように映し出す。

「ヒロさん…誰だって、そんなに大きな熊は怖いわよ」うさぎさんは笑っている。

侵入者がは3人が作った道をくるくる回り始めた。

侵入者のヒゲ男は疲れ始め…木の祠に座って、持って来たパンを食べ始めた。

キョロキョロと周りを見回し…見覚えのある景色に頭を傾げる。

「ここはさっき歩いた気がする…」髭男はそう呟いた。










半日も歩き回った頃…ろくさんが偽の泉を映し出す。

侵入者は、泉を見つけ走り出すが…行けども行けども泉にはたどり着けない。

そこへ天使の姿の翠さんと和代さんが道に立ち、侵入者にこっちへおいでと誘う。

半信半疑でも、疲れきった侵入者は、2人の元へじわりじわり歩み寄っていく。

その顔にはありありと疲れが滲みでていた。







侵入者がハッと気付き…周りを見渡すと…そこは森の出口。

鬱蒼とした森の木々が森の出口を覆い隠す…鳥のさえずりが聞こえる。

髭面の侵入者は呆然と立ち尽くし…呟いた。

「この森には魔物がいると聞いた。森の中の泉を見たものは誰もいないらしいが、俺は絶対探し出してやる。この森の中のどこかにある泉を…そして…翡翠をな」

その男の疲れきった顔の目だけが…光っていた。






トボトボ引き返していく男の後ろ姿をみつめ…みんなが小躍りして喜んでいる。

「何回でもくればいいんだわ。絶対見つけられないから」ぎょらいちゃんの鼻息は荒い。

その姿を見つめながら…

「あらあら…今回、ぎょらいちゃんは強気ね」っと、うさぎさん。

「あったりまえじゃない~~。私たちをなんだと思ってるの。天下無敵の翡翠の守りびとよ。見くびらないでよね」興奮冷めやらぬぎょらいちゃんに向かって…

「さぁさ…美味しいお茶を飲んでゆっくりしましょ。半日の戦いだったんだから」

そう言うと、ヒロさんがみんなにローズティーを入れてくれた。

何事もなかったように、みんなは大きなテーブルを囲み…穏やかな時間が始まる。




「さっきのかずよさんの衣装…翠さんが作ったのよね。素敵だった…私も欲しいなぁ…」

ヒロさんは翠さんにお願いをする。

「そうね…ヒロさんが天使の役をやる時があるかも知れなからね。いいわよ…どんなデザインがいい?」

翠さんは快く引き受けている。

そして、嬉しそうなヒロさんと2人で打ち合わせを始めた。




その横で、ろくさんとうさぎさんは侵入者の話をしている。

「あんな大きな男って…初めてね」うさぎさんが言うと…

「そだね。俺なんか踏まれたらひとたまりもないぞ」憎々しげに答えるろくさん。

「それは、ろくさんだけじゃないわよ。私たち全員よ」

そう言うと、うさぎさんはお腹を抱えて笑いだした。

ろくさんは、一瞬考えて…

「そっか…そうだな。うん…そうだ」うさぎさんの言葉に納得したろくさん。

ろくさんは何か言われると…一瞬頭の中が真っ白になるらしいが、すぐに思考能力が蘇り理解ができるらしい。

「あんな男に見つけられたら…そう考えるだけで頭にくる」

今頃…ぎょらいちゃんの悔しさがわかったらしい。

「そうでしょ。そうよね」っと、ぎょらいちゃんがろくさんに同意を求めた。

「うん。翡翠は誰にも渡さない。そうしないとこの世界が危ないんだ。人々が危ない」

ろくさんもぎょらいちゃん同様…大きく頷く。

神の怒りに触れ…人々が絶滅させられるのが目に見えている。

「そうだな…古代から守ってきた翡翠を、これからも俺たちが守り続けていかなければ…武器を持たない俺たちが、人と戦わずして翡翠を守る…それが神との約束だからな」

社長の悲痛な声に…みんなが一斉に頷く。

侵入者が去り、静かで穏やかな森に戻った。

みんなはそれぞれに好きな事を始めている。

泉のそばで釣りをしていたジジリさんも駆けつけ…この騒ぎを見守っていたが…安心した様子。

揺り椅子に座っているかずよさんのそばに行くと…横に座って楽しそうにおしゃべりが始まった。

その横をぎょらいちゃんがスケートボードに乗って遊んでいる。

社長とろくさんは鏡の点検の打ち合わせをしている。

月に何度か全員で鏡を磨く…それも大事な仕事だ。




翡翠の森にも静かに陽が…翳って来た。

それぞれの家から…美味しそうな夕飯の香り…

もうじき…月が上り始める…穏やかなドワーフたちの暮らし…







みなさん…翡翠の森のおはなしはここまで。

又…みなさんと森のお話ができる日が来るといいですね。

では…私は森の中を風となって吹いてきましょう…不審者が回って来ないようにね~。
( ノ゚Д゚)こんにちは…Ricoです。
大好きな朝の体操仲間をイメージして書きました。楽しく読んで頂ければ嬉しいです。

                                      イラストはYahoo!画像よりお借りしました。

                      











             
                   …翡翠の森の物語…



このお話は…むかしむかしのおはなしではありません。

ごくごく最近のおはなしなのですが…都会のおはなしでもありません。

個性豊かな妖精…ドワーフたちが仲良く暮らしているというおはなしなのです。

ドワーフとは…妖精のことです。

妖精といえば…背中に羽があり飛び回っているイメージだと思いますが…

翡翠の森に住んでいる妖精は…人と同じ姿形をしています。

でも…このドワーフたちは長い長い歴史の中を生き抜いていたのです。









さてドワーフたちが住んでいる村とは…どこにあるんでしょう…

この広い世界のどこか…深い深い森があり、その又奥深くに…翡翠谷と呼ばれる谷がある…

その谷の奥深くには神水が湧き出ている泉があり、その泉の底にはjadeite(ジェイダイト)呼ばれる最も高価で神秘な翡翠が静かに眠っているのです。

この翡翠は世界の平和を守るため、古代の時代に神が沈めたという言い伝えがある。

神と人が共に暮らしていた時代、人が神の大事にしている翡翠を持ち出したのです。

怒った神は災害を起こし海は荒れ…地震が続き…雷が鳴り響き、何年という間、雨は降り続き…太陽の光が地上には届かなかった。

人々は愚かな行いを悔い、神に許しを請いますが…神の怒りは治まらなかった。

案じた精霊たちは人々を守る為、怒った神に翡翠を泉に沈め、ドワーフたちがこの先守り続ける事で許しを得たという。

もし翡翠のひと片でも誰かが持ち出せば…世界の均衡は乱され…戦争や災難が起こると言われている。

その翡翠を昔から守っているのが…翡翠谷のそばの村に住むドワーフたち…

この物語は、そのドワーフたちの楽しくて…賑やかで…涙と笑いがいっぱいのおはなしなのです。





この村には…年齢も性別も関係なく翡翠を守るために力を合わせ、とても仲よく助け合って暮らしていました。

ただ…ここのドワーフたちはとてもとても小さくて…普通の人には見えないのです。

時々…人が森の中へ迷い込んできますが…ドワーフたちは小さくて絶対に見えない…でもね…ドワーフたちは、迷い人を上手に森から外へ出してあげるのです。

最近、翡翠の話が巷に流れ…宝探しがうろついてはいますが…この小さなドワーフたちは難なく追い返してしまうのです。鏡を上手に使ってね…。

時々、草むらの中をキラキラ光るものが見えたら…それはドワーフたちが鏡で遊んでいるのかも…しれませんよ…ウフフ。








翡翠谷は森の奥深くにあるのですが…不思議な事に雨が降らないのです。なぜでしょうか…。

それは、翡翠を守ってくれるドワーフたちに対しての、神からの配慮だと伝わっています。

小さな小さなドワーフたちが、雨で流されないようにと…神様が心配しているからだと…。

森の奥には大きな泉があり、綺麗な神水がこんこんと湧きいでています。

その水をドワーフたちは上手に村に引き込んで、暮らしておりました。

山々に囲まれ森の奥深い場所にある翡翠谷…森の木々に囲まれた翡翠谷はいつも薄暗いのですが…

翡翠谷の裾野に、丸く円を描くようにドワーフたちの住む家がある。

その円の真ん中にだけ朝早くから、太陽の光が燦々と差し込みます。

その光を村人は上手に鏡を何枚も使い、自分の家に光を取り入れては明るい生活を送っているのです。

勿論…電気というものは…発電機なるものを持っている長老以外にはなく…オイルランプなるもので灯を得ていました。

オイルランプのオイルは、その時期に咲いているお花を精油して使うのです。

例えば、ラベンダーの季節はラベンダーオイルがどの家をも灯し…素敵な香りを放ちます。

バラの季節なれば、バラオイルの香りが村中を包み込むのです。

みながそれぞれに生活の知恵を持っていて…助け合いながら暮らしているのです。




そう言う…あなたは誰?って…聞かれました?

私はこの翡翠谷の精霊…つまり風の精霊なんです。

シルフと呼ばれています…この物語の案内人です。

どうぞよろしく…実体のないこんな私ですけれど、この村には欠かせない存在なんですよ。

寒い時は…火の精霊から温かい風を貰って送り込んだり…暑い時は水の精霊に頭を下げて涼しい風を送り込んだり…結構忙しいのです。

だからね…この村は自然に囲まれ、とっても快適に過ごせるのです。

精霊の仲間には、火の精霊サラマンダーと水の精霊ウンディーネがこの村を守っています。

時々、土の精霊ノームが山から降りて遊びにきますけどね…







では、この物語をシルフである私が案内いたしましょう。

それにはまず住民を紹介しましょうね…

この村の長老…村人にはいい加減社長と変わったネーミングで呼ばれている人ですけれど…。



見かけよりはずっと若いみたいですが…この村には年齢は関係ないのでこの社長が長老として村人たちに慕われています。

長老の家にはたくさんのパソコンや通信機器が有り、外界とのコミュニケーションをとっているのはこの社長だけ。従って大変物知りで、村人はここに集まって社長の話を聞くのが楽しみなのです。

IT関係の機器を作動させるためには電気が必要で、発電機を動かすために長老は巨大なひまわり畑を持っています。そう…ひまわりの油で発電機を動かすためです。

種植えは1年に1回…収穫も1年に1回…この時だけは死に物狂いで働く長老。

ひまわりオイルがないと…発電機が作動しなくて、パソコンが使えないのです。

だから、1年に2回ほど長老はぶっ倒れるくらい働きます。その時はみんなが社長の面倒を見るのです。





次にこの村の長…すなわち村長が、ろくへいたと呼ばれるお人…ベッピン大好きと豪語しているお人です。



こまめで優しい人です。畑を作り…村人が使う生活用品もろくさんに頼めば器用に作ってくれるので、絶大的に信頼され…村人に頼られているお人です。ただ…難点は…女性に弱い…特に美人には目がない。

時々…ろくさんが立ち尽くし…ぼ~~っと見とれていたら…それは近くに美人がいると言う証拠ですから…フフフ…

その美人って…どこにいるのって…?

それはね…ろくさんの頭の中だけに出てくる…夢美人なんです。幸せですね…ろくさんは…。





そして…うさぎさん…素敵な女性です。ぴょんぴょん跳ねて…どこにでも行かれるお人です。



色んな事に興味があり…とても根性があるんです。何年かかってもコツコツとPを貯めて欲しい物を手に入れるお人です。最近はペンギンを飼い始めたそうな…とっても可愛いペンギンですよ。

うさぎさんはいつも外に出ては、いろいろな物を見て…いろんな情報を教えてくれます。例えば…

森の泉のそばに住んでいる、若い鹿の夫婦に牡鹿が生まれたとか…美味しそうな木の実がたわわになっている場所を見つけたとか…幸せになるお話をいろいろとね…。





そして、ヒロくまさん…いつもニコニコ笑っていて優しい人。困った人がいればすぐに助けに来てくれる人…。



みんなが集まって、おしゃべりしていても…お茶を入れてくれたりとてもこまめな人です。

みんなの家を回って声をかけてくれる…うさぎさんともとても仲良しで…いつも2人で笑っています。





かずよさん…この村一番のお洒落さん。いつも村人の目を楽しませてくれます。



優しくて大らか…大きな揺り椅子に座って、みんなのお話をニコニコしながら聞いてくれる。

時に寂しい時や悲しい事があると、みんなはかずよさんの家に行きお話を聞いてもらうのです。そして…ホッとして自分の家に戻るのです。

そして村一番の道具と衣装持ちのかずよさん。時に家の回りで道具や衣装を広げ、風を当ててる時は…私が風を送り込むのですよ。





翠さん…とっても穏やかで、お花が大好きな人。



いつもお庭に出て、お花を咲かせては嬉しそうに愛でている。

そしてお裁縫も得意で村人のお洋服はすべて翠さんの手作り。

色々な木や実から糸を紡ぎ…お花で布地の色を染めて、とっても肌触りのいい布地を作ってくれる。

その布地で各自が好きな服を作ってくれる…とっても器用な人。





そして村のアイドル…ぎょらいちゃん。



とっても可愛くて…舌っ足らずのことばでみんなを魅了する。

時に動物の着ぐるみを着て…こちょこちょ歩いている姿は愛らしいの一言。

ぎょらいちゃんを可愛がっている社長に向かって、一生懸命何か訴えているぎょらいちゃんの姿を見るのは誠に愛らしいのです。

どこから手に入れるのかわからないけれど、スケートボードなどを乗り回す活発なところもある。

風の精霊である私は、可愛くて時にぎょらいちゃんの頬をすっと撫ぜて通り抜けることもあるの…。





そしてまだまだ住人はいます。

じじりさんとジジリさん…双子のようで双子ではない…なんと説明していいのかわからないけれど…この2人は人格がどうも違うような…一緒のようなよくわからない…とっても完璧主義者です。

釣りが大好きなジジリさん。


いつも無口なじじりさん。



森の奥の泉のそばに、小さな2つの家を作って仲良く暮らしています。

特にジジリさんは魚釣りが大好きで、森の泉で釣り糸を垂れている姿をよく見かけます。

後は…少し離れた村で暮らすサクちゃんとこころちゃんとか…時々遊びに来てくれますよ。





今日もドワーフの住む村はいいお天気。

村の中心には大きなテーブルが置かれ、それを取り囲むようにみんなが座ってお茶を飲んでいる。

それぞれが好きな物を持ち込んで…分け合いながら賑やかにおしゃべり。

「ヒロさんのこのお茶美味しいわ。なに?」っと、うさぎさん。

「これはたんぽぽで作ったお茶よ。美味しくて良かった」ヒロさんも嬉しそう。

ニヒルな社長は頷きながら…黙って飲んでいる。

その横でぎょらいちゃんが社長に何か訴えている。社長は笑いながらお茶を飲んでいたけれど…

ろくさんのおかしな行動に…

「ろくさん…何を磨いてるの?」

ろくさんは大きな丸い物を一生懸命磨いている。

「最近、翡翠を探している人が増えたんでね…観察所を増やそうと思って、鏡を作って磨いてるんだよ」

鏡は色んな所に張りめぐされ、森の泉の様子がよくわかるようになっている。

翡翠谷で穏やかに暮らしているドワーフたちですが…最近…翡翠を探しに来る人が増えてきて、追い払うのが大変なのです。

みんなでのんびりまったりしている時…いきなり騒がしい音が聞こえる。

みんなはテーブルから立ち上がり…一斉に走り出した。

「だれか森に入ったな」社長の一声でそれぞれが持ち場に座る。

目の前の鏡に映ったのは…薄暗い森の中をライトのついたヘルメットをかぶり、スコップを持った髭面の大男だった。

戦闘態勢に入ったドワーフ達…その顔は翡翠を守るために真剣そのものだった。




                   Coming Soon


$Ricoの世界

この曲…今日のフィギュアのエキシビジョンで羽生さんが滑っていましたね。

羽入君…凄く…カッコイイ!!

しなやかで…でも柔らかで…自分の意志を持った滑り方をする人

私は、メロディーから入る人だけど…この曲は詩も素敵だと思った。



1人じゃないから…君が私を守るから…強くなれる…



素敵なフレーズですよね。

私まで強くなれそうで…元気になれそうで…




そしてあなたの笑う顔が見たいから…

こんな事が思える…可愛い女性になりたいです。
この物語は全てフィクションです。
名称、固有名詞等、全て実在のものとは関わりはありませんのでご了承ください。
$Ricoの世界






            …最後の告白…




雨音は小さな声で…りおん…りおんと何度も呟く。

凛の胸の中で泣き疲れたのか…目を閉じ…体を凛に預けている。







「凛…雨音には少しショックが大きかったかも知れない…けど…いつかは雨音の耳にも入るだろう。人の口から聞くより…絶対に今、知った方がいい。凛の胸に抱かれて…凛の愛に包まれて…雨音にはそれが良かったと思うんだ」

頷く凛の胸の中で…雨音は静かな眠りに入った。










雨音は大地の研究室の仮眠室に寝かされた。

「凛…どうする?ここにいるか?」大地の問いかけに…

「あぁ…雨音が目を覚ましたら怖がるかも知れないから」

凛は雨音の横に椅子を持って行き座った。

「わかった…じゃぁ、後で。」

そう言うと、大地は仮眠室のドアを閉めた…と、同時に来客を告げられる。











急いで待合室にいそぐ大地。

階段を駆け降りて…待合室に行くと…怜と美優が待合室のソファーから立ち上がる。

「なんだ…怜か。部屋に来ればいいのに…」

その言葉を待っていたかのように…

「兄さん達がいるんでしょ。」

怜と美優の顔色が、普通でない事に気付いた大地。

「どうしたんだ…2人とも。とりあえず部屋に来いよ」

「いえ…いけないんです」廉がはっきり答える。

「どうして…?」大地は訝るように怜の顔を見る。

「ここではちょっと…」言い淀む怜のそばに辛そうな美優が…

少しふらついた美優の手を取り…支える怜。

少し考えて…

「じゃぁ…診察室に行こう。あそこなら今は誰もいない」

頷く怜は、美優の体を支えながら…大地の後をついて歩く。






診察室に落ち着いた…怜と美優。

大地は丸椅子を2つ持って来て…デスクの前に置き…座るように勧める。

怜と美優は黙ったまま…座る。

大地の顔は少し険しい顔をしている。

「どうしたんだ…いつもと違うな」

唇を噛み締める怜…今にも泣きそうな美優。

「怜…黙ってちゃあわからんだろう」

医師としての顔を見せる大地。

怜が口を開こうとした瞬間…美優が怜の胸の上を手で静止して…

「怜…私に話をさせて」

「美優…大丈夫か?」心配そうな怜。

怜は美優の顔を見つめる。

頷くと…美優は大地の方へ体を向き直す。

「大地先生…雨音さんが事故にあったのは…私が雨音さんを呼び出したからなんです。」

「はぁ…?!」

美優からの突然の告白で、さすがの大地も聞き返す。

「どういうことだ?」

美優は必死で涙を堪え…大地の顔を真っ直ぐ見て…話す。

「私が雨音さんを呼び出したんです。あの地下鉄の駅へ。怜の事を諦めようとして…雨音さんに話を聞いて貰いたかった。そして諦めるのを優しく止めて欲しかったんです。」

「どうしてそれを早くに言わなかった」

大地の声は驚きより…怒りに満ちていた。

「怖かったんです。雨音さんの姿を見て…足が竦んで…」

「見たのか!?雨音が落ちるのを!」

「いいえ…私は駅で待っていたんです。急に階段の所から悲鳴が聞こえてきて、みんなが騒ぎ出して…駅員さんが私の前を走って行ったので…何事かと思って私も階段の方へ行ってみたら…雨音さんだった。もう足が竦んで動けなかったんです」

美優の目から涙が溢れ…その場に座り込んで泣きじゃくる。

怜が美優のそばに行き…肩を抱いてやる。

さすがの大地も何も言えない…しばらく沈黙が流れる。





いきなり大地が怜に聞く。

「怜が知ったのはいつだ?」

大地に聞かれ…怜は美優の肩から手を外すと…美優を支え、立ち上がらせて椅子に座らせる。

そして…大地を見る…曇のない目でまっすぐ大地を見ている。

「僕が知ったのは、お姉さんの手術が終わった日…家に帰ったらゲートに美優が居たんです。正直、僕は兄さんとお姉さんを優先したので、美優の電話を無視していた。だから美優はゲートで僕を待っていた…僕しか頼る人がいなかったんです…俺はそんな美優の気持ちなんて考えてもいなかった」

大地は腕を組み…黙って怜の話を聞いている。

「その時…美優に泣きながら訴えられて…僕は初めて知ったんです」

「そうか…美優が雨音を呼び出したのか…それで納得できた。なんで…雨音があの駅に行ったのか…謎だったんだよ…凛も何も聞いていなかったし…仁さんが買い物に出かけている留守の事で…出かけてきますと書置きだけだった言ってた。怜は勿論、家にはいなかったし…これで謎が解けた」

謎が解けたとは言え…大地の思いは複雑だった。

「それをなぜ早く言わないんだ」

大地は怜と美優を見る。

「僕が説明します。全ての原因は僕にあるんですから…」

「全ての原因…?」思いがけない言葉に戸惑う大地。

「美優に対して…僕は冷たかった。美優の気持ちを知っていながら…でも、僕には好きな人がいた。」

怜の顔が苦悩に変わった。

「その彼女は僕の前から…去ってしまった。僕はあの時、周りには強がりを言ってたけど…本当の理由は、俺の優柔不断な態度だったんです。僕がはっきりしていれば、美優もこんなに悩まなかったし…彼女も去って行かなかったんです」

「じゃぁ…怜は去って行った彼女を選んでいたのか?」

「美優には悪いけど…彼女が去っていくのがわかっていたら…彼女を選んでいました」

辛そうな…悔しそうな怜の顔を初めて見た気がする大地。

怜は頭が良く、大学に残り研究一筋の生活を選んだ。

穏やかで…人に優しくいつも周りに気配り出来るのが怜だった。

凛は人見知りで…自分の心を開かないと、相手には自分の本心を見せない。

本当は社長の器でないのを自覚しているのは…凛自身だったのだ。

出来る事なら怜に社長を任せたいと凛が望んでいることを、怜は知っていた。

だから…自分の道を選んだのは怜。

大好きな兄に社長の職を全うして欲しいと願っての事だった。

大地は考えていた…この事態をどうするか…

「大地先生…私が怜の事を早くに諦めていたら、こんな事にはならなかったんです。璃音君を失くすなんて…雨音さんが記憶を失くすなんて事…そんな事にならなかったのです。ごめんなさい」

何度も何度も謝る美優の言葉に、大地は…

「今さらそんな事言ってどうすんだよ!今頃になって…私がどうの…僕がと言っても、璃音も雨音も元には戻らないんだよ。わかってんのか!」

大地は心の底から怒っている。

怜は唇を噛み締め…大地に言われ…苦悩の表情だ。

美優は体を震わせている。

大地は…声を震わせ…悲しげに怜と美優に話す。

「今日…雨音に璃音の事を話したんだ。やっと今、その事を受け入れたばかりなのに…雨音と凛にこんな話をする事ができるのか!…俺には…できない」

がっくり肩を落として…凛と雨音を思う大地。

「僕は、お姉さんに記憶を取り戻して欲しかったんです。」

「そんなこと言っても…記憶を戻していたら…もっと苦しんでいたんだぞ…凛も雨音も…」

「僕等は…どうしたらいいんですか」

無責任な奴らだと…腹がたった…大地だってけれど…凛と雨音を思うと…

「一生…心の中に閉まっておけ。もう2度と口にするな」

吐き捨てるように言う大地。

「僕らに嘘を言えって事ですか?」切なそうな怜の声…。

「今までだって怜も美優も黙ってたんだ。そんな事…今さら言えるのか。嘘っていうのは2つあるんだ。言ってはいけない嘘と…言わなければいけない嘘がな。絶対2人に悟られるな…それが、凛と雨音に対する罪の償いだ。わかったか…」

「はい」怜と美優は心に砂がいっぱい詰まったような…

重いたい気持ちで返事をする。

「それと、君たち2人が結婚式の介添え人だ。しっかりサポートするように」

黙って頷くだけの怜と美優…。











2週間後…


リンゴ~~~ン…

古い教会の鐘が鳴り…凛と雨音の結婚式が無事終わった事を告げる。

最初は身内だけと言われていたが…雨音の事を心配している友達も参列したいと申し出があった。

沢山の人が教会から出てくる2人を祝って…花びらをまく。

嬉しそうな凛と雨音の顔。

もう…記憶を失くして戸惑っている凛と雨音はいない。






怜は美優と婚約をした。

美優を苦しめ泣かせた事を…悔やんでいた怜。

初めて美優に対して…守りたいと言う気持ちが芽生え始めた。

凛と雨音を見守りたい思いと美優を守りたい思いで決めた事。

大地に告白した事は…3人の秘密…胸の奥に仕舞い込んでいる。









1年後…

怜と美優の結婚式…

晴れやかな怜と美優を見守る凛と雨音。

凛の腕の中には、生まれたばかりの凛音(りんね)を抱いている。

沢山の人に祝福される怜と美優を見守りながら…

「雨音…怜がやっと1人前になったなぁ」

「どうして…?怜くんはずっと前から1人前ですよ」

凛の言う事が的はずれなようで…思わずクスクス笑う雨音。

「違うよ。男は守る人が出来て初めて1人前として評価されるんだ」

「守る人…?」

「そうだよ。怜も美優ちゃんをさんざん待たせて泣かしてきたけど、これからは大事に守ってあげなければ…いけないんだ。」

「そう言う意味を含めて…1人前だと言うのね」

「あぁ…男は守る人ができると…強くなれるんだ。俺みたいにね…」

笑って凛音を見る凛…生まれたばかりの凛音はすやすや寝ている。

「ありがとう…雨音…可愛い子供を生んでくれて…」





凛と雨音は寄り添い…凛音を誇らしげに見守る。

さわやかな…秋の日の出来事…



               完
この物語は全てフィクションです。
名称、固有名詞等、全て実在のものとは関わりはありませんのでご了承ください。
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            …告げられた真実…




大地が雨音の目を見て…決断したように話しだした。

「雨音が地下鉄の階段から…落ちて、記憶を失くしたのは知っているよね」

「はい」頷く雨音。

「雨音は不思議に思わない?」

「何がですか?」

「階段から落ちたぐらいで…記憶を失くす程の大怪我をするなんて…」

大地の声は静かで穏やかだ。

首を傾げる雨音…質問の意味がわからない。

「本当なら、ここまでになる事はないと思う。脳震盪くらいは起こすかも知れないけどね」

雨音は大地の話す事が確信に迫っているのか…意味がわからず、大地の口元をみつめる。

「普通は、転けそうになったりしたら、手がでる。手で体を支えるとか…他の物に捕まろうとしたりね。自分の体を庇おうとするはずなんだ」

何となく大地の話す事の意味が解り始めた雨音は頷く。

凛が雨音の体をきつく抱きしめる。

「雨音は…自分の体ではなく…お腹を庇ったんだ」

雨音は思わず、大地の目を見る…雨音には大地の目が、悲しんでいるように見えた。

「雨音は身ごもっていた。赤ちゃんは8ヶ月…凛と生れてくる日を楽しみに待っていたんだ」

雨音の顔色が少しづつ変わってくる…まだ状況が信じられない様子。

「雨音はお腹の赤ちゃんを庇って…一生懸命お腹を抱きしめていた。だからそのまま転がり落ちて、頭を強く打ってしまったんだ」

「赤ちゃん…身ごもる…?私に赤ちゃんがいたの?」

雨音の声が震える…凛は雨音が落ち着くように強く抱きしめる。

「凛…私達の赤ちゃん…?」

凛は雨音が安心するように、微笑みながら頷いた。

「そうだよ。俺たちの子だ」

雨音は信じられない顔をして…じっと凛の顔を見る。

凛の目は驚きで見開いたまま…何か言いたそうに口だけが動く…そして…

「赤ちゃんは死んだの?」やっとの思いで聞く雨音。

「階段から落ちた時、頭から落ちた雨音はお腹を庇っていても、転げながら落ちたのでお腹も強打して出血してた。病院に運ばれた時は、雨音も赤ちゃんも危ない状態で…緊急で赤ちゃんを取り出したけれど遅かった。その後すぐ外科手術を…雨音は受けたんだ。あの時の凛の取り乱し方は…忘れられない」

雨音は凛を見て…大地に問いかける。

「凛の様子はどうだったんですか?」

「雨音の体にしがみついて…雨音の名前を呼び続けていた。あんな悲しそうな凛は初めて見た」

辛そうに答える大地。


雨音の心が震えた…胸の奥の奥が痛くて…哀しさや愛しさや悔しさが…喉を通って慟哭となる。

目の中から激流となって涙が流れる。

凛の胸の中で、雨音は泣き崩れた。

赤ちゃん…本当なら、今頃は我が子を抱きしめ、3人で毎日…今を生きていたであろうと思うと…雨音の中で声にならない悲しさと…凛に対して申し訳ないという思いが膨れ上がる。

「ごめんなさい…ごめんなさい…」謝ることしかできない雨音。

大事な大事な子供を、自分の不注意で失くしてしまった。どんなに謝っても謝りきれない思い。

凛は、泣くじゃくる雨音を抱きしめている。

「雨音…お前がそばにいてくれるだけで…それだけで俺は良かった。ベットに横たわっている雨音には管がたくさん装着されて…その姿が痛々しくて可哀相で…それでも、生きてて欲しかった。俺のそばにいて欲しかった…」

抱きしめながら…凛は雨音に話して聞かせる。

「赤ちゃんは名前をつけて…ちゃんと家のお墓に納骨してる。いつでも会いに行けるよ」

「赤ちゃんの名前?」

雨音は泣きながら…凛に聞く。

「赤ちゃんは男の子で、瑠音って名付けた。男の子でも女の子でもいいようにって雨音と2人で決めていた名前だ。」

「りおん…璃音…可愛い名前…」

そう言うと…雨音は又泣き出した。





雨音に璃音の事をいつ話すか…それが大地の課題だった。

雨音の精神状態が落ち着いて、璃音の事が受け止められる様になるまで、大地は待っていたのだ。

結婚式を挙げ…外界と接触を始めると…多分、雨音の耳にも璃音の事は耳に入るに違いない。

正直、隠しきれるものでもないと、大地も凛も覚悟を決めて雨音に話したのだ。





大地がデスクの中から、沢山の写真を持って来た。

凛から、家の中に置いていたら、いつ雨音の目に触れるかも知れないと、預かっていた物。

「雨音…これが君だ」

凛の胸の中から体を起こす力もない雨音…

凛はそんな雨音に、2枚の写真を雨音の手に持たせる。

凛から渡された写真を受け取る…でも…涙で曇って写真が見えない。

雨音は涙を拭って…写真を見る。

雨音が大好きな庭に立っている…大きなエゴノキ。

エゴノキには小さな白い花が満開で…その木の前でお腹の大きな雨音を後ろから抱きしめている凛。

雨音のお腹を大事に支えている、凛の笑っている顔は…本当に幸せそうだ。

もう1枚の写真は、同じポーズで凛の頬にキスをしている雨音の姿が…

2枚の写真には、幸せを絵で書いたような凛と雨音がいた。

こんな哀しみが迫っている事など…微塵も知らない2人。





写真を見て、改めて涙が溢れてくる。

「雨音…写真の中の凛は幸せそうな顔をしてるだろう。凛を幸せにできるのは雨音…君だけなんだよ。もう一度凛を幸せにして欲しい。雨音はまだ若い。元気な赤ちゃんを生めるんだ。記憶より、今からの人生を凛との思い出を作って…璃音の兄弟を作れよ。」

小さく頷く雨音。

悲しむ雨音を見ながらも…凛はどうしてやることもできず…凛を抱きしめるだけ。

「ごめん…雨音。俺は何もしてやれない。ただ抱きしめて…一緒にいる事しか…ごめん」

凛の苦悩の言葉に…首を振る雨音。

「凛の方が苦しかった筈。璃音を失くして…私は記憶を失っている。どんなに辛かったか…璃音をお墓に納骨したのも凛だけだったのよね。私は璃音を失くした事も知らなかったんだもの…私が悔しいのは、凛の事も璃音の事も覚えていない事…それが一番悔しいの」

雨音の心の叫びの様な言葉に…凛は…

「もういい…自分を責めるな。雨音が悪い訳ではないんだから。近いうちに璃音の眠るお墓に会いに行こう。きっと喜ぶよ…璃音が」

凛が雨音を抱きしめて…優しく言う。



             続きは又、あした…
この物語は全てフィクションです。
名称、固有名詞等、全て実在のものとは関わりはありませんのでご了承ください。
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            …大丈夫…もう泣かないで…




出迎えに来た凛を見て、雨音は笑顔でタクシーを降りる。

「どうしたの?さっきの電話ではここに来るなんて言わなかったのに。」

驚くより嬉しそうな雨音。

「急遽呼ばれたの。時間が取れれば来いってね。来ちゃ行けなかったのか?」

意地悪く…雨音の気を引く言い方をする。

「意地悪ねぇ…そんな事あるわけないでしょう」

ちょっと拗ねた振りして見せるけど…すぐに笑顔で笑ってみせる雨音。












凛と2人で大地の研究室に入る。

大地は治療中で、研究室にはいないけれど…

応接室のテーブルの上にはパンフレットがたくさん置いてある。

雨音と凛はソファーに座ってパンフレットを手に取って見る。

「これって…旅行のパンフレット…?」

「あぁ…雨音が行きたいところに行こうと思って…そう言ったらこれだけのパンフレットを集めてた。大地のパワーは半端ないね。」

お互いの顔を見合わせ…頷きながら笑ってしまう。




「そうだ…今日ね、駅前で怜くんと素敵な女性が歩いてたの。彼女かなぁ…?」

嬉しそうに…小さな声で話してくる雨音。

「怜と美優は友達以上恋人未満ってとこかなぁ…」

「どう言う意味なの?」

「うん…怜には昔、恋人がいたんだ。その子はいい子だったんだけど,美優との事を誤解して…離れて行っちゃったんだ。」

「そんな…平気なの?怜くんはそれでいいの?」

「同じだ。昔の雨音もそう言って…憤慨してた。」

思い出したように…改めて目の前にいるのは雨音だと実感する。

そんな事は気にしていない雨音は…

「だって…それじゃぁ…怜くんが可哀想」

「でも、怜が言ったよ。僕を信じられないのなら、それまでの付き合いなんだって。離れていく者は追わない」

「強!怜くんって…そんなにクールなの?」驚く雨音。

「どうかなぁ…俺は怜とは性格が違うから…本当は怜の方が優しいと思う。人を思いやる気持ちは怜の方が強いと思う」

「でも…凛は私に記憶がなくても優しかった。どうしてこんなに優しいのかなぁって思ってた」

「それは、雨音だからだよ。他の人なら…ほったらかしかも知れない」

苦笑する凛は…自分でも納得して頷いていた。

「美優さんって怜くんの事…どう思っているの?」

「美優ちゃんは…怜の事が好きで好きでたまらないんだ。でも、怜の気持ちがいま一分からなくて…美優ちゃんは相当焦っていたね」

「いつの頃の話?」

「う~~ん…雨音が記憶を失くす前後かなぁ…そう言えば忘れてたよ。雨音の事が忙しくて」

「仁さんが言ってたけど…凄く私に会いたがっていたって」


「あぁ…怜にも会えるまで我慢しろって言われてたらしい。でも、今日来るよ。大地が呼んだらしいから」

「じゃぁ…会えるの?」

「多分…美優ちゃん喜ぶと思うよ」

「私も楽しみ」雨音の…会えるのを心待ちにしている。






そこへ、大地が帰って来た。

「お2人さん…中々いい雰囲気ですねぇ」

冷やかし気味の大地に、雨音はソファーから立ち上がって挨拶をする。

「こんにちは…大地先生」雨音の元気な声に…

「雨音…元気そうだね」

思った以上に元気な雨音に笑顔で声をかける。

頷きながら雨音はソファーに座る。

「凛に聞いたと思うけど、結婚式は3年前に挙式した教会で同じように行いたいって言うんだけど…雨音はそれでいい?」

「はい」大地の目を真っ直ぐ見て答える雨音。

「そうか…じゃぁ、その様に進めるよ。」

嬉しそうな雨音は大きく頷く…そんな雨音を愛しそうに見守る凛。

雨音が手元のパンフレットに引き込まれている時…大地と凛が目配せをする。

凛は大地に頷くと、雨音にぴったりと寄り添い…雨音は凛に微笑む。




大地は時間を図るように…静かに話し始めた。

「雨音…今日は、雨音に伝えとかなければいけない事があるんだ」

「なんですか?記憶の事…大事な事?」

雨音は少し不安そうに見える。

「うん…そうだよ。大事な事だ」

大地は雨音をみつめて答える。

「大丈夫…俺がついてる」

凛は雨音を後ろから抱え込むように抱きしめている。

大地の目を見て…何か思いつめたような雨音…小さく息を整えると…

「大地先生…もう一度聞いておきたい事があるんです。私の記憶はもう戻らないんですか?」

ずっと気になっていた事…可能性があるのであれば、まだ治療を続けたいと思っていた雨音。

「脳外科では…もう戻らないという見解らしい。血腫が起きた場所が悪くて、血腫を取り除いても脳のダメージが大きすぎた。でも…精神科の俺的には可能性があると言いたい。でも、可能性は低い」

黙って大地の話を聞いていた雨音。

「じゃぁ…無理って事ですね。記憶を取り戻す事よりも、凛と新しい思いでを作っていく方がいいってことですね」

自分の思いを、割り切るように雨音は答える。

「できれば、凛と2人で新しくというより、今から恋愛を楽しんだ方がいい」

「私はいいけど、凛は可哀想」雨音は涙が溢れてくる。

「どうして…?」いきなりの言葉に驚く凛。

「私はいいけど、凛は相手が変わる訳じゃないから…凛が可哀想」

「そんな事ないよ。ずっと雨音だけを守りたいって思ってきたから、雨音であればそれでいいよ」

雨音は凛の優しい言葉に…胸がつまり涙が止まらない。

「雨音…泣くな。大丈夫だから…俺がいる。雨音の記憶が失くなってから、2人で乗り越えてきただろう。雨音はとっても辛かったと思う。でも…大丈夫…もう泣かないで…お願いだから」

凛は雨音を優しく包み込むように…抱きしめた。

凛の優しさ…暖かさを改めて感じる雨音は頷きながら…

「先生…すみません。でも、もう割り切れたので…伝えたいって事、話してください」

雨音は凛の手を握る。

今から…大地が何をいうのか…雨音には想像もつかない事だった。

                
                続きは又、あした…
この物語は全てフィクションです。
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            …私はここにいる…




凛と雨音の思いが通じて、1週間が過ぎた。

朝早く、凛と雨音は洋館の周りの山道を散歩する。

朝の空気を吸いながら、2人で手を繋いで…散歩道を歩く。

朝早い時間なので、足元の草たちは露に濡れている。

散歩道には線路に引いてある枕木が、丁寧に敷き詰められているので歩きやすい。

散歩道は年に何度かガーデナーが入り、手入れが施されていた。

洒落た街路灯が、散歩道に等間隔で立っている。




凛の手にぶら下がるように雨音は歩く。

「凛…昔の私とこんな風にお散歩したの?」

歩きながら雨音は凛に聞く。

「うん…今日のように、雨音は散歩をせがんだよ。クリスマス前には葛や木の枝などを…探していたなぁ」

懐かしそうではあるけど…雨音がそばにいる事が嬉しい凛は答える。

「ツリーの飾りやリースの為?」

「よく知ってるなぁ…雨音。」

目を見張って…雨音の顔を見る笑顔の凛。

雨音は凛の笑顔が眩しい…照れ隠しに言う。

「それから?」本当に興味深々の雨音。

「う~~ん…今日みたいに手を繋いで歩いたり…抱きしめたり…キスしたり…」

「キスとかしたの?」

「そうだよ…雨音の方がせがむんだ。」

「本当?!」

「嘘…俺が迫るの。ハハハ…」明るく笑う凛。

「後…よく雨音は泣いた。花が可愛いとか…木が大きくなったとか…すぐ感動して泣いてた。」

「それはよくわかる気がする…今も変わっていないでしょ。」

はにかんで答える雨音。

「いや…雨音…君は変わっていない。記憶がないとは思えないほど…仕草や言葉尻とか変わらない。そう…事故に会う前に2人で散歩した時、出張が多過ぎて…長いから寂しいって…雨音は泣いた」

「出張とかあったの?」

「あったよ。NYとか台湾、香港、ロスとかね。俺の場合は海外が多いから。」

「そうなの…でも、私は覚えていない。」

「雨音が事故にあってからは行ってない。そばにいてやりたくて…行きたくなかった」

凛の優しさが伝わってくる…泣きたくなる程、雨音の胸の中が熱くなる。

思わず雨音は凛の胸の中へ…凛は雨音を受け止めて抱きしめる。

「凛の胸は温かくて…優しくて…大好き…。」

素直に雨音の思いを呟く。

多分…記憶を失くす前の雨音も、こんな風に、凛に甘えていたんだろうと思う。 

凛は雨音を抱きしめながら…話して聞かせる。

「雨音…君は知らないだろう。俺がどんなに雨音を愛しているのか…見せられるものなら、見せたいよ。」

はにかむ凛…。

「じゃぁ…凛は私がどんなに凛の事を愛しているのか…知ってる?」

クスッと笑いながら…雨音の可愛い顔を見て…凛は力いっぱい雨音を抱きしめる。

「良かった…こんな日が来るなんて…夢みたいだ。」

「夢じゃない…凛…私はここにいる…凛の胸の中に…」

雨音は凛の胸の中で…思いっきり甘える。






「そろそろ…朝食を食べて俺は仕事だ」

頷く雨音と、ゆっくり散歩道を下っていく。













朝食に怜は下りて来なかった。

凛も仕事に出かけ…雨音は仁の手伝いをしながら、記憶が失くなる前の雨音の話を聞く。

「私って、食事の支度をしていたの?」

「はい。奥様は色々な教室に通われて、凛様の為に工夫されていましたよ。この家の中も落ち着かれるようにと気を配っていましたね。」

「主に何をしていたの…私…」

「お花もそうですが…お庭の手入れやキャンドルは凛様もお好きみたいでしたね。」

「キャンドル?」

「はい。怜様の幼馴染の美優様に誘われて、仲良く通ってました。」

「怜くんの幼馴染みの美優さん…?」

「はい。奥様ととても仲良しで…怜さんの幼馴染なんですけれど、本当の姉妹のように仲良しでした」

「私…会った事ないですよね。」思い出せない雨音。

「はい。この1年は身内のみの出入りに限られましたので、ここには来る事ができなかったんです。でも…とても奥様の事をご心配されていましたよ。」

「そう…お会いしたいなぁ…」

嬉しそうな雨音を見て…微笑む仁。

「近いうちに怜様がお連れするのではないでしょうか」

嬉しい仁の言葉に…

「だといいなぁ…そう言えば怜くんは?」

「今朝も早くからお出かけになりました。」

「そうなんですか…怜くんの顔を最近見てないような気がする」

雨音は独り言のように…呟く。













結婚式とパーティーは、大地先生が仕切ると宣言して…張り切っている。

勿論喜んでお任せしたが…

「忙しいだろうに…」

心苦しいけれど、凛は大地に甘えることにした。






早速、大地より雨音の携帯に電話がかかる。

凛には了解を得ているので、1人で病院においでと言われる。

凛からも電話が掛かり、まだ運転は無理なので…タクシーで行くことにした。

予約したタクシーが、山道を上がってくる。

玄関の車寄せでタクシーは停まっている。

乗り込む雨音を仁が心配そうに…

「雨音様、携帯お持ちになりました?何かあれば連絡くださいね。」

心配でたまらない仁に、雨音は…

「大丈夫。もう…大丈夫だから」

笑顔で仁に答えると…タクシーは走り出した。

車窓の眺めは、見覚えはないけれど…懐かしい気がした。

駅前を通り過ぎた時、雨音は怜を見かけた。

「怜くん…」怜は見知らぬ女性と歩いていた。

2人とも深刻そうな顔をして、何か切羽詰ったような感じがして、雨音は戸惑った。

「私の知らない人…ううん、もしかしたら仲良しだった美優さんかなぁ…可愛い人みたい…」

なぜか嬉しくなって…フフフと含み笑いをしてしまう雨音。

「奥さん、何かいい事ありましたか?」

運転手さんに言われて…慌てる雨音。

「いえ…主人の弟がデートしてるの…みつけちゃったので…」

恥ずかしそうに笑う雨音。

「奥さんが元気そうで良かった。」

運転手の声から安心した思いが伝わってきた。

「私のこと…知っているんですか?」

驚く雨音。

「はい。今日のように病院へ乗せて行きましたよ」

「病院?」

「はい。なにかとても具合が悪そうでしたね。辛い病気だったんじゃないかと思いました」

…病気?覚えていない。タクシーで行くほどってそんなにひどい病気だったのかなぁ…

覚えていないと言う事で思いを切り替えた雨音は…

「すみません。その節はお世話になりました。」

笑顔で答える雨音に…運転手は嬉しそうに…

「いいえ。元気になって良かったです」







タクシーは大地の勤める病院に着いた。

正面玄関には凛が待っていて、雨音を見つけて…

「来たな…」そう言うと、笑顔で雨音を出迎えた。



        続きは又、あした…
この物語は全てフィクションです。
名称、固有名詞等、全て実在のものとは関わりはありませんのでご了承ください。
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            …奇跡ってあるんだね…




怜の顔色は良くない。

雨音が怜の側に行って、怜の額に手を当てる。

「怜くん…顔が赤い。熱あるわ。」

心配そうな雨音の手を優しく払うと…

「すみません。僕はもう…休みます。お休みなさい。」

2階へ駆け上がる怜。

「どうしたなかなぁ…心配事でもあるか?」

怜を見送る凛と雨音…大地。







怜は自分の部屋に入ると…泣きそうな顔でベットにうつぶせてしまった。

「どうして…こんな事に…。」

自分が愚かで…悔しくて…情けなくてどれだけ…悩んだ事だろう…苦しんだ事だろう。

たった1つの望みだった雨音の記憶が戻ることにも、可能性はないと言う。

いや…それ以前に…兄と雨音には大事な大事な赤ちゃん 璃音がいた。その子を亡くしている。

怖くもあった…雨音の記憶が戻ることが…。

でも、戻らなければ…戻る事で全てがあきらかになると信じていた怜。

今はただ…可能性の失くなった運命を呪うだけ。
















「そうだ凛…そろそろ雨音を外に連れ出してもいいぞ。人との交わりに慣れさせないと…いつまでも井の中の蛙だ。」

「井の中の蛙…?」雨音が小首を傾げて…わからないって顔をする。

「井の中の蛙大海を知らず…と言って…それは狭い見識にとらわれて、他に広い世界があることを知らない。自分のいるところが全てだと思っている人の事を言うんだよ。」

凛は優しく微笑みながら雨音に言って聞かせる。

「じゃぁ…この世の中には、この家と病院だけではなくて、もっともっと広くて素敵な世界があるってこと?」

「そうだ。雨音は記憶を失くす前は、たくさんの友達がいたんだよ。」

「たくさんの友達?」

「うん…雨音はパン教室やお花のアレンジ…陶芸やキャンドル…たくさん習っていたから…お友達もたくさんいて…本当はみんなが心配してくれたんだ。でも…雨音が落ち着くまで…待ってくれていてみんな…この家に来るのは我慢してくれているんだ。」

「私にお友達がいたの?」瞳を輝かせる雨音。

「あぁ…それと…大地がいるから言うんじゃない…でも、雨音が知っていないといけない事があるんだ。」

「もしかしたら…私の両親の事?もうこの世にはいない?」

凛も大地も微笑んでいる。

2人の笑顔を見ながら不安そうな雨音…。

「違うの?」

「雨音の言うとおりだ。雨音のご両親は2年前に交通事故で亡くなっている」

凛は雨音が興奮しないように…優しく穏やかに話して聞かせる。

「それにしても…どうしてわかったんだ?」

大地が雨音に聞くと…

「最初は気付かなかった。私に両親がいたら…きっと、会いに来てくれると思ったの。でも、1度も来てくれなかった。それには理由があると思って聞きたかったけど…きっと凛が話し辛いのかも知れないと思って…聞けなかった。」

そういうと真実を知って…少なからず哀しい雨音。

「そうか…想像ができる程回復してたんだ。雨音は凄いなぁ…人の何十倍もの早さで進化を遂げている。」

「凛の為よ…凛が時々すごく悲しそうな顔で海を見てるの。私…凛の笑ってる顔が大好きで…笑って欲しかったから…だから…。」

凛は思わずそばにいる雨音を抱きしめる。

嬉しくて大地は思わず口に出していた。

「これが本当の姿だよな。」凛と雨音を見つめている。

「人は愛したら愛されたいと…普通思うだろう。今まで愛し合っていた人が突然、凛自身の事を覚えていないなんて…俺は心理学専攻だからわかるけど…凛には辛かったと思う。凛は現実に耐えた…雨音は回復するために頑張った…こんな2人を友に持って俺は倖せだよな」

大地の言葉は素直な心の声。

「大地がいたから…俺は耐えられたんだ。お前のアドバイスが俺を支えてくれた。だから頑張れたんだ。」

雨音は嬉しそうに大地を見る。

「私もそう思う。私が困った時、迷った時…いつもアドバイスをくれたの。凛がいるんだよって…守ってくれる人がいるよって…とても励まされたし…安心できました。」

「そりゃぁ…2人が愛し合ってる証拠だから。俺は凛と雨音を信じてたから。」

「それで…大地、聞きたいことがあるんだ。」

凛は真面目な顔して…雨音の顔から大地の顔へ…移動する。

「なんだ?」大地は凛の言葉を待っている。

リビングの中へコーヒーのいい香りが漂い…仁がカップに入ったコーヒーを持ってきてくれる。

「ありがとう。仁さん。」大地の嬉しそうな声…。

「大地様はコーヒーが大好きでいらっしゃるから。」

丁寧に入れた仁のコーヒーは、みんなが大好きだ。

「あのう…怜さん…どうですか?私には落ち込んでいるように見えるんです。」

気になるような様子で雨音が仁に聞く。

雨音の問いに…

「最近…お忙しかったから…お疲れが出たのかも知れませんね。」

仁にも思い当たる節があるようだ。

「怜にも心配かけたからなぁ。」

申し訳なさそうな凛。

「怜様は凛様や雨音様が大好きだから…本当に心を痛めていらっしゃいました」

そう言うと手作りクッキーを置いて、仁は下がった。






美味しいコーヒーを味わいながら…大地がふっと思い出す。

「そう言えば…凛は俺に何が聞きたかったんだ?」

「あぁ…雨音は記憶を失ったことで、結婚式や披露宴…新婚旅行の思い出も全て失くした。だから、結婚式をあげたいと思ってる。」

「結婚式を…?そりゃ凄い。」そう言うと…大地は首をうんうんと振りながら…

「いいことだ。雨音と共通の思い出ができると…絆が深まる。いいじゃないか。」

「雨音の体力的にも精神的にも…耐えれるかなぁ…」

「大丈夫さ。雨音はもう何事も受け入れられる強さを持ったから。」

「なぁ!」雨音にウインクする大地…嬉しそうに頷く雨音。

不安そうな凛に大地の顔は明るく…凛の背中を押してくれる。

「ドレスはあのまま保管しているし、式は家族だけで…そう…怜と大地と真由…仁さん…秘書の滝山…俺の両親…怜の幼馴染の美優を入れて10人だ。披露宴は今まで雨音が関わってきた人やこれからも触れ合っていく人を呼んで、パーティーをしたいと思ってる」

「あぁ…俺は賛成だ。凛…お前も前向きに歩き始めたな…雨音に記憶がなくても雨音に変わりはないんだ」

凛は雨音の顔をみつめて…

「怖かった。記憶を失くした雨音が俺を思い出してくれるか…又お互いに愛し合うことができるか…でも、記憶がなくても俺を愛してくれると言う選択肢が残っていたなんて…思わなかったから…奇跡だと…」

「そうだな…人は生きていく上で、いつでも選択肢はあるんだ。それに気づかないだけだ。嘆くだけではなく…選択肢を考えることだけでも…前に進める。奇跡ってあるんだね」

にっこり笑う大地の言葉に、何度も何度も頷く凛。

身を持って体験した事…辛い出来事だったけれど…凛と雨音にとって強い絆となった。


           続きは…又あした。
この物語は全てフィクションです。
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            …true love…




夜の洋館…華音家は淡いキャンドルの灯りで輝いている。

8時、華音家のリビングには家族全員と大地、そして斗真。

最初に口火を切ったのは大地。

「僕は精神科医で、雨音の主治医の白川です。東斗真さんでしたね。昨日は雨音を送り届けてくださってありがとうございました。」

大地がそう言うと、凛も…

「雨音がご迷惑をかけて申し訳ない。助けてくれた事に感謝します。」

凛が頭を下げると、雨音も一緒に頭を下げる。

驚いた斗真は…

「いやぁ…まさかこんな事になっているとは知らなくて…勝手に連れ出した僕が悪いので、申し訳ありませんでした。」

斗真も頭を下げる。

「いえ…雨音が記憶を失くしてから、この1年…親しい人を遠ざけてきました。雨音の精神状態が落ち着くまでそっとしておいてやりたかった…だから知らなくて当然です。」

そう答える凛の横に、雨音は座っている。

その横の1人掛けソファーに大地が座り…凛と雨音の向かいに斗真が座っていた。

怜は凛の後ろに立っている。

「斗真くんは何も知らないから…雨音に声をかけるのは仕方ないです。こんな風になる事は誰も望んだわけではないので、今回のことはもう忘れてください。」

凛は斗真に誠意を込めて話している。

「すみません。昨日の話はここで話してもいいんですか?」

「構いませんよ。夕べ、雨音は何もかも理解できましたから。」

主治医である大地が、斗真に答える。



「わかりました。僕は雨音の状態を見て、何かあったんだと…だから余計な事は言わない方がいいと思ったんですが…つい…凛さんに聞けばいいと…ご主人なんだからと…それがいけなかったんですよね。」

「結果的には、それが良かったんだと思います。凛は雨音と向かい合う事ができたので。」

大地の言葉に…怜が反応した…

「兄さんが雨音さんと向き合う事が出来た…?どういう事ですか?」

「僕から話しましょう。」

大地は凛に目配せをして…凛は大地を見つめて頷き…雨音の手を強く握り締める。

「はっきり言います。雨音の記憶は戻りません。医師としてわかっていました。でも…僕は凛に希望を持って貰いたかった。その為に奇跡という言葉を使いました。雨音の中に凛が住んでいる事は確信があったけれど…凛が待つ事に疲れ始めていたからです。1年ですからね…愛する人が目の前にいるのに、手を触れることも出来ない。辛かったと思う。凛は良く耐えて…雨音を支えたと思います。」

記憶は戻らないと最後通告をされ…本当なら辛いはずの凛。

でも…もうどうでも良かった…記憶を失くしても雨音に愛されている事がわかったから。

凛にとって記憶を失くした雨音…でも又愛し合える事…それだけを願ってきた。

「記憶を失くしても、雨音の心理的などこかに凛が住んでいる。その事に気付き…雨音の中になぜ凛がいるのか…それに疑問を持たないと雨音が成長しているとはいえない。疑問を持つことで、凛の事を知ろうとする…思い出そうとすることで雨音は成長できるんです。そして、雨音の心の中に新たな凛が住み始めた」

みんな黙って、大地の話を聞いている。

「雨音は新たな凛に対して、愛を感じることができるんです。記憶のない凛を愛する事はできないけれど、目の前の凛を愛する事はできる。自然にそうなることが理想です。そうなるまで…凛は僕の言いつけを守ってくれました。凛の我慢強さの勝利です」

凛には大地の言葉がありがたかった。大地がそばで支えてくれたから…今の凛がいる。

「大地…ありがとう。今の説明で…今までの疑問が解決できました。」

凛は大地に頭を下げる…雨音の目には涙が溢れている。









いきなり怜が凛の顔を見ている。

「兄さんは…疲れていたのですか?」

「疲れていたというか…雨音の先が見えなかった。それが不安だった。退院した時…雨音の生活指数は小学生並みで…辛うじて字が書けて読める程度。だからみんなで本を読んだり…おとぎ話をしたりして雨音に教えた。でも…雨音の吸収力は常人の何倍も強くて、あっという間に成人として生活で来るようになったけど…俺の事を思い出す気配がなくて…気力が萎える事もあったのは確かだ。その時、大地が雨音に睡眠療法を施すと言われた時は…嬉しかった。奇跡という言葉がこんなに力強いと思った事もなかった」

「兄さんが辛いとは思っていましたが…そんなに思いつめていたなんて…知らなかった。」

怜は力なく…肩を落として…塞ぎ込んでいる。

「怜…お前には感謝こそすれ…お前がそんなに落ち込む事じゃない。今は、幸せだ。記憶が戻らなくても雨音と俺は又愛し合う夫婦に戻ることが出来た。それだけで…俺は十分だ」

凛は自分の思いをみんなへ伝える…感謝していると…。

「そうだよ…怜が悩む事はないんだ。怜は凛の弟として、物凄く頑張ってきた。凛と雨音を支えてきたんだ。怜は頑張って、支えてきたんだから。」

いつもの怜と少し違う…そう感じたのは凛だけではなかった。

斗真は黙って話を聞いていたが…

「凛さんと雨音は本当に真実の愛で結ばれていたということですよね。正直、出会った時、雨音を拐うチャンスかと思った。けど…それは違うとすぐに思いましたよ。雨音は、凛…凛と泣きながら凛さんの名前を呼ぶんです。その時の雨音の哀れそうな声を忘れることはできません。記憶を失くしてからの雨音の記憶の中に…凛さんが住んでいたんですね。大地先生の話で…理解できました。僕は嬉しいです。こんなに雨音を大事にしてくれて…愛してくれて…ありがとうございます。」

斗真も頭を深く深く下げる。

「斗真くん…これからも、凛と雨音は愛し合って行くと思います。安心してください…これからもこの2人を見守ってやってください」

「はい。なんだかスッキリと帰る事ができます。今日はありがとうございます」

斗真はみんなに頭を下げ…大地に見送られ帰って行った。










斗真が帰ったリビング…今日は、怜の様子がおかしい。

落ち着きが失くなったり…一生懸命何か考え込んだり…思いつめているかと思うと…ぼんやりしたり…

「怜…何か心配な事でもあるのか?」

大地に言われ…怜の顔色が変わった。


            続きは又あした…