今思えば、おれと宮沢はこの時既に通じ合っていたのかもしれない。ものすごく短時間のうちに互いを知ろうと懸命になっていた「ような気がする」。よくわからんが。

奧村君は今付き合ってる人とかいる?

いてないよ。そんなん。ていうより、今まで誰とも真剣に付き合うたことなんないかもしれん。この仕事するようになって思ったわ。おれは誰にも向かってなかったんちゃうかって。

え。意外!

何でなん。

ラグビーやってる人って、チームメイトと強く深く結ばれてるもんだと思ってたから。

ラグビーのイメージやな。日本人はイメージが大好きなんや。やってるおれらからしたら、ラグビー選手としての力量とか巧さっていうのは理解してるかもしれんけど、人として何ちゃらってのはわからへんで。そいつがどんな悩み抱えてるとかそんなん互いに言わへんもん。

ねえ、奧村君も、もしかしたら孤独なの。

かもな。嫌なもんとは思ってないけど、孤独っちゃ孤独やな。ええもんやで。

孤独がいいもの?わかんない。どういうこと?

必ずしも悪いもんちゃいますよっていう意味や。おれは今が仮に孤独でも、それを嫌なもんとは感じてないんよ。何でかわからへんけどな。孤独って悪いイメージで使われること多いからちゃう?

確かに。孤独って、イメージ悪いね。だから勝手に辛いもんって感じちゃってるのかもしれない。すごい発見した気分。やっぱり奧村君ってすごいな。尊敬する。

やめてや。高校からアメリカ行った宮沢の方がよっぽど尊敬やわ。おれなん考えもせんかった。迷わず日本の高校行ったからな。アメリカ行ったのは何でなん。

日本にいたくなかったから。

あ、おれまた、、。いや、聞かせて貰うわ。宮沢のこともっとちゃんと知りたいねん。教えてや。

うん。ぼくは小学校の頃から自分がゲイって自覚してた。4年生の時、クラスの男の子を好きになったんだ。そこから始まったんだ。地獄が。

地獄?

うん。

いじめられたりしたん?

いや、ぼくは勉強ができたから、虐められることはなかった。でも母親に、病気呼ばわりされて。

どういうことやねん。

ぼくがゲイだって知った母親が「病気だ!」って騒いで精神科に連れてったんだ。

ひでえな。病気ちゃうやろ。

母親は、そう思ったみたいだ。父親もだけど。だからぼくは病気の出来損ない。勉強はできても出来損ない扱いされてたよ。まるで汚いものを見るような目立った。親なのに。だから日本を出たんだ。

なんも言われへん。壮絶やな。そこで実際行けちゃったのがすごいわ。親を説得したん?

説得も何も。取り合ってくれなかった。ただ、その時の精神科の先生が力になってくれたんだ。

医者が?

うん。母親にね、「ふざけんな!」って言ってくれた。そして「次からはひとりで来い」って。母親は半狂乱になってたけど、ぼくは嬉しかった。だから次からひとりで受診したんだ。で、アメリカへの生き方を教えてくれたってわけ。

おいおい、何だかすげえスケールの話やん。おれなんちっぽけに思えてきたわ。やっぱり、尊敬するのは宮沢やわ。