確か女子大生の話だったと思います。ある女子大生が友人と学食で食事をした後、食器を片付ける際、彼女は食器をごみ箱に捨ててしまいました。その行為を見て驚いた友人は、どうしてそのようなことをするのか尋ねました。彼女はなぜそのようなことを訊いてくるのか、全く理解できませんでした。実は彼女のお母さんは、食器を洗う手間を省くため、常に紙皿を使っていたのだそうです。

 子どもにとって、生活や常識を学ぶベースは家庭にあると思います。この女子大生は、「使用した食器は捨てるもの」と、何の疑いもなくそう学んでいたのでしょう。

 

 

 昨日、「母という呪縛 娘という牢獄」を読み終えました。

 

   「私はお前が死んだ後の人生を生きる」

 

 2018年1月20日未明に起きた滋賀医科大学生による母親殺害事件を、犯人である女子大生を中心に描かれています。著者は齊藤彩さん。彼女がこの女子大生等から取材し、書き上げた作品です。ルポルタージュというよりは、小説のように状況が頭の中に描けるよう、詳細に書かれています。

 プライドが高く周りの人を蔑む母親は、娘に医大に進むよう強制します。娘は努力するのですが、母親からの仕打ちに心が萎えて、勉強に身が入りません。娘は家出も試みますが、すぐに連れ戻されてしまいます。娘は何度も浪人し、看護学生になりますが、それでも母は許しません。とうとう耐え切れず娘がとった行動は、母親の殺害でした。

 

 この事件の根源は、娘に対する母親の異常とも思える強制だと思います。そこに母親として娘を思う気持ちがあったのだろうかと、疑いたくなってしまいます。そのような母親のもとで育った娘も、母に似た考えをもち始めてしまい、普通の母娘の関係が築けないまま育っていきます。もし私がこの娘の立場だったら、やはり母を殺めていたと思います。

 しかしこの娘は、裁判を受けるなか、彼女の周りのさまざまな人との関わりを通し、本来の人間関係を自分なりに掴んでいきます。そして、殺害してしまった母への想いも変わっていきます。私が彼女だったら、そこまで改心できるか自信がありません。でも彼女はみごとに、本来の人間関係を掴みつつありました。この場面を読んだ時、私の目には自然と涙があふれてきました。

 

 この作品では触れていませんが、この母親もやはり親からの影響を受けて、このようなものの見方しかできなくなったのではないかと、私は推察します。ですから、この母親を一方的に責めることも、ちょっと難しいのではないかとも思えてしまいます。

 

 この本は殺人事件のルポ作品ですが、この娘の幼い時から刑を受けるまでの心の変容を見ていくと、心動かされるドラマともなっています。皆さんにお勧めしたい一冊です。

 

 

 

《今日の心が動いた》

人は生きている限り希望がある

     デンマークの哲学者/セーレン・キェルケゴール