彼は誰とも口をきかず、ダイヤモンドに話しかける。
「お前は、どこに落ちたい?」
ダイヤモンドのエッジには、レーザーによって複雑な模様が刻まれていた。
ラザールキャプランのダイヤモンドエッジに番号が刻まれているように。
だが、この10倍ルーペでかろうじて読み取れるような繊細な模様は装飾ではなかった。
特殊なレーザー光線銃にセットすることにより、想像を絶する高熱を生み出す大量破壊兵器だったのである。
このダイヤモンドがセットされるべき大量破壊兵器本体は、すでにLCの盟友が破壊に成功していたが、彼はそのミッション中に帰らぬ人となっていた。
LCはその彼から、必ず破壊してくれるようにと、ダイヤモンドを託されたのである。
しかしながらダイヤモンドは爆破によっても傷つかず、薬品によっても溶解させることはできなかった。
このダイヤモンドは活火山の火口に投じることによって大自然に懐に返すしかないのではないか。と、LCは考え始めていた。
そう、ほとんどロード・オブ・ザ・リングのような展開なのであった。
お前はどこに落ちたい。
LCは、友達を失ったことによっておかしくなっているわけではなかった。
LCの唯一の特技は「気配を消すこと」であった。
同じ部屋にいながら目を合わせない限り誰にも存在を知られないという、実に貴重な特技を彼は身に着けていた。
体力的にも、運動能力的にも彼を上回る者はいくらもいたが、この存在感のなさを上回るものは皆無だった。
にもかかわらず、ダイヤモンドを手にしたとたんに彼の周囲には「敵」が現れたのである。
何度目かの敵の攻撃をかわしてLCは応援を待ったが、応援に現れたのは裏切った「元仲間」だった。
ダイヤモンドが破壊されるのを恐れて「呼んでいる」のであった。
「働きかけている」のである。
それまで仲間であったものが変貌して襲い掛かってくるのである。
それまで何のかかわりもなかったものが「敵」になるのである。
飛行機にも列車にも乗れない。
車はとうに破壊されてしまっていた。
鳩に餌をやる老人か、子供を遊ばせる若い母親しか来ないような昼間の公園に、アスリートのような筋肉質の敏捷そうな男たちが何気ない風を装いながらたむろするなどという事があるだろうか。
彼らは当然「敵」に変貌して襲い掛かるであろう。
お前はどこに落ちたい。
どこの火山にでも、行きたいところに行ってやろう。
LCは手の中のダイヤモンドに呟きながら、何度目かの待ち伏せをかいくぐって気配を残さないままに火山の火口を目指していた。