今日は、お休みをもらって、美術展と映画を観に行ってきました。
東京都のまん延防止等重点措置が正式に適用されると、もしかしたら営業自粛みたいになってなかなか行けなくなるかも、と思ったので。

美術展のほうは、東京都現代美術館のこちらの展覧会です。

「Viva Video! 久保田成子展」
「クリスチャン・マークレー トランスレーティング[翻訳する]」
「ユージーン・スタジオ 新しい海 EUGENE STUDIO After the rainbow」

今のところ、いずれも2月23日(水・祝)までの開催予定です。
正直、「Viva Video! 久保田成子展」は見る必要はなかったなと思いました。60年代以降、アメリカを拠点に活躍されたヴィデオ・アートの先駆者の一人だそうですが、マルセル・デュシャン、ナムジュン・パイク(彼女の夫でもある)、オノ・ヨーコ、前衛アートに興味なければ、ほぼほぼ意味ないかも。

「クリスチャン・マークレー トランスレーティング[翻訳する]」は気に入りました。個人的に全く知らなかったアーティストですが、最初の部屋の、工場の音を、音楽として捉えている表現は親近感がわきました。わしは最近全く行かなくなりましたが、日本全国の工場地帯に写真撮影に出かけていたとき、造船工場を訪れて感じた魅力の一つが、工場の音=音楽だったので。あと、もう一つおススメが映像の部屋なんですが、これは是非見に行ってほしいです。アート好き、というより映画とか音楽好きの方に。

「ユージーン・スタジオ 新しい海 EUGENE STUDIO After the rainbow」のユージーン・スタジオとは、寒川裕人(Eugene Kangawa、1989年アメリカ生まれ)による日本を拠点とするアーティストスタジオとのこと。
実は今日行くまで、ユージーン・スタジオというのは北米かヨーロッパのどこか大手のギャラリーかなんかで、そのコレクション展ぽいのかな、と全く見当違いの想像をしていました。私はアート展を見に行く時に、その紹介をよく読まないで、インスピレーションだけで行く行かないを決めることが多いです。なので、今回も事前に美術館のサイトで展覧会の中身を調べることなく「イメージだけでぴんときて」行ったわけです。
で、今頃アーティストの名前が寒川裕人と知ったわけですが、この名前に見覚えありました。
実は2014年の12月、テリー・ライリーのライブがあって、それに行ったのですが、バックのスクリーンに映し出されていた映像がこの寒川裕人さんのものだったのです。なんか、8年ぶりに伏線の回収をした感じがして少し鳥肌が立ちました。
現代音楽家 テリー・ライリー、映像作家 寒川裕人とのコラボレーションで来日公演 – 11月22日・23日 東京・東雲にて開催
 

今回の展示内容は、来る前にイメージしていたものとそれほどかけ離れてはおらず、ものすごくセンスのいいアート作品でした。まず入場していきなり「海庭」という作品があるのですが、これは美術館内部の中庭的場所に水を貯め込んでいて、まんま「海庭」でした。それ以外は主にドローイング作品が中心で、それこそ北米かヨーロッパの大手ギャラリーのコレクションと言われても信じるような、ほんとセンスのいい作品群でした。今回は映像作品はなかったような。。。(もう忘れてるし)

 

写真撮ってきたのを思い出したので追加。最後の部屋のインスタレーションで「善悪の荒野」。『2001年宇宙の旅』の終盤、ボーマン船長がめまぐるしい光に飲み込まれた末に辿り着いた、静かな白い部屋を再現したらしい。

   

 

   

 

手裏剣



その後に映画を観てきたのですが、それは第71回ベルリン国際映画祭 審査員グランプリ(銀熊賞) を受賞した、濱口竜介監督の『偶然と想像』です。火曜日が映画館のサービスデーで1200円で観れました。満席でしたが。
で、これから映画の感想を書くのですが、私はなんでも見てすぐ感想を書けるたちではなく、数日かけて気持ちを醸造するというか、熟成させるタイプなので、今回はこの映画の感想ではありません。


今日は、10日ほど前に見てきた、同じ濱口竜介監督の『ドライブ・マイ・カー』について語ります。
   



    


『ドライブ・マイ・カー』

監督:濱口竜介
キャスト:西島秀俊、三浦透子、霧島れいか、岡田将生
原作:村上春樹「ドライブ・マイ・カー」(短編小説集「女のいない男たち」所収/文春文庫)

https://dmc.bitters.co.jp/


映画史を書き換える至高の179分! 新たなる傑作の誕生 
数々のベストセラーを生み出してきた作家・村上春樹による、珠玉の短編小説「ドライブ・マイ・カー」。妻を失った男の喪失と希望を綴ったこの作品に惚れ込み映画化を熱望、自ら脚本も手掛けるのは、いま世界が最も熱い注目を寄せる濱口竜介監督。これまで、カンヌ(『寝ても覚めても』コンペティション部門出品)、ベルリン(『偶然と想像』銀熊賞受賞)、ヴェネチア(共同脚本作『スパイの妻』銀獅子賞受賞)など世界三大映画祭を席巻し、その名を轟かせてきた。待望の最新長編作となる本作も見事、本年度のカンヌ国際映画祭で日本映画としては史上初となる脚本賞を受賞。加えて、国際映画批評家連盟賞、AFCAE賞、エキュメニカル審査員賞の独立賞も受賞し、4冠獲得の偉業を果たした!
これまで、圧倒的な脚本力と豊かな映画表現で、人間がもつ多面性や複雑な感情をあぶりだしてきた濱口監督。本作では原作の精神を受け継ぎながらも、「ワーニャ伯父さん」、「ゴドーを待ちながら」という時代を超えて愛されてきた演劇要素を大胆に取り入れ、ストーリーと映画内演劇が重層的に呼応しあう驚異的な物語を紡ぎだした。さらに広島・東京・北海道・韓国などのスケール感あるロケーションと、名手・四宮秀俊撮影による美しさと厳しさが溶け合う映像美は観る者を魅了し、物語へと引き込んでいく。 

舞台俳優であり演出家の家福(かふく)は、愛する妻の音(おと)と満ち足りた日々を送っていた。しかし、音は秘密を残して突然この世からいなくなってしまう――。2年後、広島での演劇祭に愛車で向かった家福は、ある過去をもつ寡黙な専属ドライバーのみさきと出会う。さらに、かつて音から紹介された俳優・高槻の姿をオーディションで見つけるが…。
喪失感と“打ち明けられることのなかった秘密”に苛まれてきた家福。みさきと過ごし、お互いの過去を明かすなかで、家福はそれまで目を背けてきたあることに気づかされていく。
人を愛する痛みと尊さ、信じることの難しさと強さ、生きることの苦しさと美しさ。最愛の妻を失った男が葛藤の果てに辿りつく先とは――。登場人物が再生へと向かう姿が観る者の魂を震わせる圧巻のラスト20分。誰しもの人生に寄り添う、新たなる傑作が誕生した。

『ドライブ・マイ・カー』の原作は、「女のいない男たち」と題して文藝春秋で連作された短編小説の1作目。のちに、同作含む全6篇を収録した短編小説集「女のいない男たち」(文春文庫刊)として発売され、オバマ元米大統領が「2019年のお気に入りの本」に挙げたことでも話題となった。
現在、累計発行部数は70万部を突破、19か国語に翻訳され多くの国で愛されている。映画化に際して、濱口監督は「同時期に書かれた作品にはやはりどこか互いに共通するものを感じました」と同短編小説集に収録されている「シェエラザード」「木野」のエピソードも投影。ひとつの映画にして、3つの村上作品の映像化を体感できるかのような驚異的な物語を紡ぎだした。本作は、ワールドプレミアとなるカンヌ国際映画祭で上映されるや、海外メディアが絶賛、日本映画史上初となる脚本賞に輝いている。

   



     

 

『ドライブ・マイ・カー』が国内で劇場公開されたのは2021年の8月で、12月公開の『偶然と想像』の4カ月前です。ちなみに、何かと話題になった東出昌大、唐田えりかの主演による2018年公開の映画『寝ても覚めても』も濱口竜介監督作品です。

この『ドライブ・マイ・カー』を最近よく聞くのは、錚々たる映画賞を連続して受賞しており、それがニュースになっているからです。これが全部かどうかわかりませんが、調べたところ、こんな感じです(受賞が新しい順に並べてます)

第56回 全米批評家協会賞 作品賞・監督賞・主演男優賞・脚本賞受賞!
第47回 ロサンゼルス映画批評家協会賞 作品賞・脚本賞受賞!
第79回 ゴールデン・グローブ賞 非英語映画賞(旧外国語映画賞)受賞!
第42回 ボストン映画批評家協会賞 作品賞・監督賞・主演男優賞・脚本賞受賞!
第87回 ニューヨーク映画批評家協会賞 作品賞受賞!
第94回 米国アカデミー賞 国際長編映画賞部門 日本代表・ショートリスト選出!
第74回 カンヌ国際映画祭 脚本賞受賞 ほか全4冠達成!

で、これだけ華々しい受賞歴ですが、映画自体はものすごく地味です。
村上春樹の短編小説「ドライブ・マイ・カー」をベースにしていますが、映画ではさらに、それが収録された短編集「女のいない男たち」の別の短編である「シェエラザード」の要素も混ぜ合わつつ、登場人物や物語の設定自体は両作品とは全く違うものになっています。
主人公家福(かふく)は俳優兼演出家で、舞台は前半が東京で家福と妻の物語、後半は、舞台を広島に移し妻を亡くした家福が芸術祭で上演される演劇を作り上げる様子と、家福のドライバーとなる女性みさきとの北海道へのドライブシーンなど、ロードムービー的要素が盛り込まれている。

前半の東京でのシーンは、全体的に村上作品の雰囲気が漂っています。妻との寝物語も重要なので、自然とセックスシーンが多いのですが、そういうシーンですらも、ある意味村上作品的な演出に思えました。なんというか、エロスがないというか、主人公が幽体離脱してる感じというか。
後半の広島シーンになると、他の登場人物とのやり取りが映し出される分、家福のもっと人間臭い部分が出てきます。
前半の東京のシーンで映し出される街はものすごくよそよそしい感じしかしませんでしたが、後半の広島では映し出される自然が暖かく、クライマックスの北海道へのドライブでは、自然の変化とともに、家福とみさきの気持ちの変化も表現されてるようでした。
家福を演じる西島さんをはじめとして、演技が低温調理というか、ものすごく淡々としたものなので、物語としての感動は控えめなのですが、要所要所のエピソードも盛り込まれていて、それなりに飽きない展開になっていました。

舞台の背景が、前半東京だったのが、後半広島市内とか、ごみ処理施設とか、しまなみ海道とか、家福が滞在する島だったり、最後は北海道だったり、ラストシーンは韓国だったり、そういうロケーションの変化もすごく良かったし、それらに最初から最後まで登場した家福の赤い車も一つの重要なモチーフになっていました。


あと印象に残るのが、家福が俳優として舞台で演じたり、演出家として俳優たちに本読みや演技をさせるのにチェーホフの「ワーニャ伯父さん」が出てくるのだが、この映画に占めるそのシーンの割合が多くて、映画の魅力とは別に、演劇としてのチェーホフ作品にも自然と興味を持つ流れになっていた。そういう意味では、二重に練られた脚本になっており、演劇の部分だけ見ても面白いのかもしれない。
わし自身は演劇にはあまり興味なく、観た舞台も数えるほどしかないし、ましてチェーホフ作品なんて全く縁がない。それでも俳優たちの読み合わせのシーンは、なかなか面白く、家福がひたすら俳優たちに感情を排して極力淡々と台詞を言うように指導するのは興味深かった。
映画の中では、家福が「ゴドーを待ちながら」を舞台で演じているシーンもあったけど、この映画をきっかけに舞台演劇に興味を持つ人もいるかもしれない。

上の宣伝文句で、「人を愛する痛みと尊さ、信じることの難しさと強さ、生きることの苦しさと美しさ。最愛の妻を失った男が葛藤の果てに辿りつく先とは――。」とかって仰々しく書いてあるけど、それはちょっと大袈裟すぎるというか、使い古した宣伝文句過ぎる気がする。そんな劇的でも、分かりやすい起承転結のはっきりした物語でもないし、そもそも、人生に「辿り着く」ってこと自体なくね?と思う。人生は続くし、その中で出会いがあって、年を取って、人は変わっていくし、変わらない部分もあるしってだけのこと。
この映画は、そういう「人の人生は」的な見方をするよりも、映し出される土地の風景を味わったり、家福が車の中で、録音された妻の声に合わせてセリフの練習をするのを興味深く聞いたり、そんなのでいいと思う。
ただ万人が気に入る映画ではなくて、やはり映画好きのための映画って感じではあるので、出演者にも、村上春樹にも興味はなく、紹介を読んでも引っ掛かるものがなければ、観てもつまらなく感じるかもしれない。
なので多少、好き嫌いは分かれるかも。

過去の他の村上春樹作品を映画化したものとはまるで違うので(それらは、村上ワールドを無理やり映像化しようとしてた)、とりあえず興味を持った方は観ても損はないと思う。


★映画『ドライブ・マイ・カー』90秒予告

 

 

<「ドライブ・マイ・カー」の映画館(全国上映館)>

 

 

 

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