シーン4 Miroir -鏡-
湖の水面に自らの姿を映したナルシス。
彼は水底から、もう一人の自分に見つめられていることに気づく。
美に囚われた一人の男の光と影−−−−




 

 

このシーンは、もともとの神話ナルキッソスがベースにあるので、こちらの話を読むとこのシーンの意味が分かりやすい。
https://monspedia.com/narcissus/
「水面に映るのですから、手を伸ばして触ろうとすれば形は崩れます。目の前にいるのに抱きしめることも、口づけもできないのです。恋に焦がれるナルキッソスは泉のほとりで、ただ一心に己の姿を見つめ続けていた」
ナルキッソス、即ちナルシス(高橋大輔)が、水面に映るもう一人の自分(田中刑事)に触れようとしてもしっかりと触れられない、二人はまさにそういう演技をしていました。手を伸ばせば相手も手を伸ばす。だけれども、そこから先には触れられない。


神話はいろいろと解釈があって、最後死ぬのは同じなのだけど、泉から離れられず、そのまま衰弱死したとか、おぼれ死んだとか。自己愛の完結は、死によってもたらされるというストーリーだけど、物凄く切ない。
なぜナルシスは水鏡に映る自分自身、即ち分身に恋をしてしまったのか。


きっかけについてはいろんな説があるのだけど、上記サイトによると、ナルシスに恋をしたアメイニアスという青年がナルシスに手ひどく拒まれたため、復讐の女神ネメシス(処女神アルテミスという説も)に「この恨みを晴らしてください。ナルシスをかなわない恋に落として苦しめてください」と願いながら、ナルシスの家の前で自殺した、となっている。つまり、女神ネメシスに仕組まれた復讐劇だったのだ。
アメイニアスに限らず、ナルシスは誰に対しても釣れない態度をとっていて、相当嫌な奴だったようだ。
でもだからってこの運命酷くない?自分しか愛せなかった結果死に至るって。
ナルシスが、愛した相手が自分だったということに気づかずに死んでいったとしたらまだ救われるのだけど。

 

 



古代ローマの詩人オウィディウスは、『変身物語』の「ナルキッソスとエコー」について書いた部分で、ナルキッソスの死の瞬間をこのように書き出している。


https://matsuura05.exblog.jp/1366423/
「おまえに腕をさしのべると、そちらからも腕をのばして来る。笑えば、笑いが返って来る。こちらが涙すれば、おまえのほうでも泣いている--それにも、しばしば気づいているのだ。うなずきにも、うなずきで答えてくれる。美しい口もとの動きから察するかぎり、言葉を返してくれてもいる。ただ、それがこちらの耳にとどかないだけだ!
わかった!それはわたしだったのだ。やっと今になって、わかった!わたし自身の姿に、もうだまされはしないぞ!みずからに恋い焦がれて、燃えていたのだ。炎をたきつけておいて、その炎をみずからが背負いこんでいる。どうしたらよいのか?求められるべきか、求めるべきか?
何を、いまさら、求めようというのか?わたしが望んでいるものは、わたしのなかにある。豊かすぎるわたしの美貌が、そのわたしに、貧しい身であるかのようにそれを求めさせた。ああ、このわたしのからだから抜け出せたなら!愛する者としては奇妙な願いだが、わたしの愛するものがわたしから離れていたら!悲しみのあまりに、もう、力は尽きて行く。
余命は、いくばくもない。うら若い身で、滅んで行くのだ。が、死も恐ろしくはない。それによって悲しみを捨てさることができるからだ。愛するあの若者には、できることなら、もっと長生きをしてほしい。だが、今は、ふたりが仲よく、同時に死を迎えるのだ」

つまり、オウィディウスは、ナルシスが、最後の最後に恋焦がれる相手は、己が水面に映し出された姿と気づいて死んでいったと解釈している。
そんな物語の背景を思いながら、また二人の映像を見ると、余計にやるせなくなる

 

 



そして、映像、照明、音楽がまたいい。
それらが、ナルシスの気持ちの変化、関係性の変化を表現している。
二人のいる足元で、水滴の波紋が照明で表現されていて、あ、水面を見ているのだなとすぐにわかる。余分な小道具は一切なし。照明で見せる水滴の波紋が実は二人の関係性を表している。

 

シーンオープニングにおける劇的な音楽は、女神ネメシスがナルシスに運命の呪いをかけた瞬間。
最初、ナルシスはうっとりと自分に見とれているだけだったんですよね。水滴の波紋はナルシスの側だけにあった。
ところが、二人がお互いに対面し、手を合わせた瞬間、音楽は劇的に変化する。ナルシスは一瞬にして恋に落ちてしまった。水面に映る自分自身に。つまり、分身に実体が伴ってしまった。そして水滴の波紋は二つになっていた。
そこからナルシスは、何日も水面に映る自分の姿から目が離せなくなるのです。

 

泉から離れられなくなったナルシスは衰弱していく。
その中で幻覚を見たのか。手を合わせようとしたら、分身に手を掴まれる。
この瞬間から分身は、突然意志を持ち始める。挑発的な表情をし、自分を誘う。こっちにおいでよ、と呼んでいるように見えた。
ナルシスは振り回され、気持ちを抑えることができず、益々分身にのめり込んでいく。

 

 

 

 

 

 

そして音楽が高まりクライマックスへと近づく。
ナルシスは死へと向かっていった。
とうとうナルシスは分身と接吻をする。その瞬間、水面には一輪の水仙の花が咲く。
ナルシスは、恋焦がれた自分の分身とやっと抱き合う。しかしそれももはや幻想。
うつろな表情で二人同じ方向に並んで歩きだす。すでに向き合ってはいない。ナルシスは最初から一人だったのだ。(4歩目で音楽が変調するのだけど、その時が最高にせつなくなる瞬間)
そしてナルシスの最後の心臓の鼓動が鳴ったとき、二人は背を向けて離れていく。
リンクの端まできたとき、二人はお互いを一瞬振り返って見つめあう。

しかしナルシスにはもう見えていなかった。

同時に死を迎えたのだ。

 

手裏剣



このシーン4を繰り返し見るのだけど、そのたびにナルシスに感情移入してしまって、ナルシスが哀れで仕方がない。誰に言い寄られても、全く興味を持たず冷たくあしらってきたナルシスが、唯一愛した相手が水鏡に映る自分自身だなんて。触れることも言葉を交わすこともできず、美しく魅力的だったナルシスはただ自分を衰弱させていった。。。

 

 

(3)でも紹介した記事ですが、「ナルシス」をみた観客の視点からのライブ感溢れるルポはこちらをどうぞ。

LUXE | *ごまめのはぎしり* (ameblo.jp)

 

 

CS見れない方がいるようなので、こちらの動画リンク貼り付けておきます。

ただし、画質悪く、途中カクカク止まったりします。しかも、このシーン中に2回もCM挟みます。あと冒頭の劇的な曲が流れ出す部分が途切れています。

CS契約できる方は7月の完全版放送時だけでも契約して録画することをお勧めします。

 

 

 

NEWこちらの映像追加します。

 

★Daisuke Takahashi in LUXE

 

 

★日テレイベント公式チャンネル

2021年5月に開催されたアイスショー「LUXE」の公演ダイジェスト映像を配信!

 

 


 

ちなみに、クラッシックで神話ナルシスの楽曲を見つけました。こちらもバイオリンがメインになっています。
https://youtu.be/hN5QCN2rkxk
 

 
 

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氷艶とLUXEのテレビ放送予定
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□ 7月25日(日)13:00〜 氷艶hyoen2019 -月光かりの如く-完全版
    https://www.nitteleplus.com/program/hyoen2019/
□ 7月25日(日)16:00〜 LUXE 完全版
    https://www.nitteleplus.com/program/luxe_kanzen/

 

 

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LUXE関連記事
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LUXE (3) まとめと感想 が字数いっぱいで追加できないので、その後アップされた関連記事をこちらに追加します。(写真もこちらからお借りしています)

 

 

 

 

 

2021/06/27 

“滑るだけ”で観客を魅了。高橋大輔が見せた進化の軌跡。 - フィギュアスケート - Number Web - ナンバー (bunshun.jp)